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[ETC時論]気候デジタルと人類の未来

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[ETC時論]気候デジタルと人類の未来

トランスヒューマニズムなど、一部の未来学コミュニティに限られていた人工一般知能(AGI)という用語が、いつの間にか大衆メディアにも登場し始めたのを見ると、「未来はすでに来ている。ただ広がっていないだけだ」という言葉を実感する。
あらゆる面で人間レベルの能力を持つAGIが、最近、急成長しているヒューマノイドロボットと組み合わせれば、人類文明に与える影響は、これまでのどの産業革命よりも甚大なものになるだろう。

しかし、人工知能(AI)の発展は、気候危機をさらに悪化させる可能性を秘めている。

先日、OpenAI(オープンエイアイ)のサム・アルトマンCEOは、AI半導体の革新エコシステムの構築のために7兆ドル(約1,099兆6,090億円)規模のファンディングを推進すると発表し、世界を驚かせた。

7兆ドル(約1,099兆6,090億円)は、半導体の生産施設とデータセンターの建設だけでなく、これらのインフラ構築と運営に必要な膨大なエネルギーを生産するための発電施設を作るために使われる。

Microsoft(マイクロソフト)は、アルトマン氏が投資した核融合エネルギースタートアップ「Helion Energy(ヘリオン・エナジー)」と2028年まで核融合発電力の供給を受ける契約を締結した。これは、Microsoftが運営するAIデータセンターの炭素排出量を削減するためだ。

アルトマン氏のエネルギー投資に見られるように、デジタル変換は多くの電力消費と炭素排出をもたらす。

フランスのThe Shift Project(ザ・シフト・プロジェクト)によると、データセンターは全世界の温室効果ガス排出の2.5~3.7%を占めている。これは、気候の悪役として非難される航空業界(約2.4%)よりも高い数値だ。

一方、デジタル転換は、自動化、効率化、物理的な移動の代替などを通じてエネルギー消費を削減し、環境に優しい技術の普及を促進することで、炭素排出量の削減と持続可能性の向上に大きく貢献している。

二重転換(twin transition)という用語が示すように、デジタル転換とエネルギー転換は、自転車の前輪と後輪のように緊密に連携して進めなければならない。

国際社会では、デジタルとエネルギー転換の関係に注目し、様々なイニシアティブを推進している。

道しるべとしての持続可能性、助力としてのデジタル(Sustainability as the North Star and Digital as the enabler)」をスローガンに掲げる世界経済フォーラムのDigital and Climateは、デジタルベースの気候ソリューションの提供を目指すグローバルネットワークとして、多数のグローバル企業が参加している。

エネルギー、素材、モビリティは、炭素排出量が最も多い3大部門だ。それぞれ2020年全体の炭素排出量の34%、21%、19%を占めた。

炭素の高排出産業におけるデジタルソリューションを利用した脱炭素の加速化、エネルギー、材料、モビリティ分野における脱炭素化を促進できるデジタル技術

世界経済フォーラムとアクセンチュアの分析によると、エネルギー、素材、モビリティ産業でデジタル技術を産業全体に拡大すれば、国際エネルギー機構の2050年のカーボンニュートラル軌道に到達するために必要な削減量の20%を達成できる。

昨年12月にドバイで開催された第28回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP28)で、国際電気通信連合(ITU)は、政府、企業、市民社会、国連傘下機関など40以上のパートナーと共に、デジタル気候行動を強化するためにグリーンデジタル・アクション(Green Digital Action)イニシアティブをスタートさせた。

Green Digital Actionの参加機関 (資料=ITU)

ITUによると、情報通信技術(ICT)は、気候モニタリング、気候変動適応および早期警報システムだけでなく、エネルギーの効率改善、循環型経済などの気候変動の緩和措置においても重要な役割を果たすことができる。Green Digital Actionは、さまざまなステークホルダー間の協業を促進し、気候問題の解決に向けた産業界全体の取り組みを加速し、デジタルソリューションを気候行動の中心に据えることを目標としている。

ICTと気候テック(climate tech)の組み合わせ、またはICTベースの気候ソリューションと定義する気候デジタル(climate digital)技術の事例をいくつか見てみよう。

アンドリュー・ウン、デミス・ハサビスら有名AI研究者が設立したCCAI(Climate Change AI)は、「気候変動とマシンラーニングの交差点でインパクトのある仕事を促進する(catalyzes impactful work at the intersection of climate change and machine learning)」というミッションのもと、電力、輸送、建物と都市、産業、農業と山林、炭素除去、気候予測、地球工学など、様々な応用領域別にAIの適用可能性を模索している。

Microsoftは、AIツールと教育機会へのアクセスを拡大し、イノベーションを加速化することで、世界中の人々や機関が地球環境問題を解決できるよう支援する「AI for Earth(エイアイ・フォー・アース)」イニシアティブを推進した。

AI for Earthの支援事例として、Cloud Agronomics(クラウドアグロノミクス)は、農耕地のドローン映像をMS Azure(マイクロソフトアジュール)のクラウドでAI分析し、温室効果ガスを低減し、持続可能な農業を促進する。

電気自動車の電力を電力網、家庭など電力が必要な場所に転送するV2X(Vehicle to Everything)は、未来のモビリティとエネルギーシステムの中核だ。円滑なV2Xのためには、人工知能(AI)、通信網などのデジタル技術が不可欠だ。

現代自動車は世界初の双方向(bidirectional)都市の実現を目指し、オランダでV2Xプロジェクトを実施した。

TERRABASE(テラベース)は、大規模太陽光発電所のためのクラウドベースのデジタルツインソリューションを提供している。太陽光発電モジュールの価格は急速に下落しているが、太陽光モジュールを除いた残りの原価は太陽光モジュールほど急速に下落しておらず、プロジェクト全体に占める割合は増加傾向にある。TERRABASEは、大規模な太陽光発電所の全プロジェクトのライフサイクルにAIなどのデジタル技術を適用し、原価革新をリードしようとしている。

TERRABASEのソリューション (資料=TERRABASE)

AIの代表企業であるNVIDIA(エンビディア)は、最近開催された年次開発者会議GTCで、異常気象による1,400億ドル(約21兆9,996億円)の経済的損失に対処するため、天候と気候を前例のない規模でシミュレーションし、視覚化できるEarth-2デジタルツインプラットフォームを発表した。

Earth-2のクラウドAPIを使用することで、誰でも簡単に地球の大気、地域の雲の状況、台風などの高解像度シミュレーションを作成できる。従来のCPUベースのモデルよりもはるかに迅速に異常気象の警報を提供することができる。


既に数十年前から2030年代のAGIの到来を予測してきたレイ・カズワイルは「特異点がやってくる」で、進化の最終段階として「宇宙は知能に満ちて目覚める(The Universe Wakes Up)」と展望している。

効果的な利他主義、効果的な加速主義など、カズワイルの影響を受けたシリコンバレーの技術ユートピア主義者たちは、人類の究極の運命は、超知性を利用して銀河系全体のエネルギーを使用できるカダセフ尺度の最上位段階に位置する宇宙的文明になることだと主張する。

人類の遠い未来がAI基盤の宇宙的拡張であるとすれば、気候デジタル技術は、人類が気候危機という地球上の実存的脅威を克服し、宇宙に進出するための架け橋の役割を果たすと見ることもできるだろう。




成均館大学ソフトウェア融合学部融合セキュリティ大学院のキム・ソヌ教授

<筆者>2022年11月から成均館大学ソフトウェア融合大学の産学教授として在職中。2019年から持続可能な世界地方政府協議会(ICLEI・イクレイ)韓国事務所の専門委員として活動している。2021年からソウル近郊の京畿道(キョンギド)持続可能な発展委員会委員、2022年から韓国情報保護産業協会内の宇宙サイバーセキュリティフォーラム幹事として活躍している。昨年5月からは韓国南西部・全羅北道(チョルラプクト)の新しい全羅北道諮問委員を務めている。

<画像=成均館大学ソフトウェア融合学部融合セキュリティ大学院のキム・ソヌ教授>

原文:https://www.etnews.com/20240425000332





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