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【ちょい事情通の記者】TODAC、20年間1つの井戸を掘り続けた末、人工内耳の国産化...イノベーションでゲームチェンジャーにまで

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【ちょい事情通の記者】TODAC、20年間1つの井戸を掘り続けた末、人工内耳の国産化...イノベーションでゲームチェンジャーにまで

Stonebridge(ストーンブリッジ)のそのとき投資

  • Stonebridge Ventures(ストーンブリッジベンチャーズ) キム・ビョンジン常務 

@そのとき投資(私はその時、投資することを決めました)では、現役の投資家がなぜこのスタートアップに投資したのかを共有します。

通常、投資家の観点から見ると、社会的価値と市場価値は両立しづらい概念である。社会的価値を持ちながら市場的価値を持つアイテムは稀であり、筆者はTODAC(トダク)について、その両方の価値を提供する会社だと判断し、これまで2回の投資ラウンドを共にしてきた。本稿では、情熱と信念、人類愛、そして投資と市場の観点からその2つの価値について話していこうと思う。

高度難聴患者に音を聞こえるようにする製品 人工内耳

音を聞きとることが困難な症状を総称して難聴といい、難聴の程度が70dBBHL(正常な平均最小可聴閾値を0dBBHLと定義する)以上の難聴者を通常高度難聴患者と分類する。人工内耳(Artificial Ear Cochlear Implant)は、損傷した内耳、つまり蝸牛内の有毛細胞機能の代わりとなり、外部音を電気信号に変換して聴覚神経に伝達する電子インターフェース装置だが、高度難聴患者は人工内耳の外科的移植を通じることで音を聞きとることができるようになる。人工内耳は、外部音増幅機器である補聴器とは治療アプローチ及び治療可能対象の面で差別化された医療機器であり、外部音声の受信及び変換を担当する語音処理(Sound Processor)と体内装置に情報を伝達するコイル状の送信機(Transmitter)で構成されており、非常に小さな体積内での電線-電極配置、信号処理チップセットなどで構成される最上位製作難易度を持つ電子薬だと見ることができる。 

人工内耳の構造概要 /盆唐(ブンダン)ソウル大学病院

このように補聴器を使っても助けられない高度難聴患者に有用な聴力を提供する人工内耳市場は、全世界で約1500万人の移植対象患者が存在すると言われているが、全世界5社に過ぎない少数のメーカーと手作業に依存する従来の生産方式による限られた供給量のため、その手術件数は1年に約7万回程度に留まっている。増加する難聴人口の90%は開発途上国に居住しているのに対し、最初の移植時に1回当たり2万ドル前後の費用負担があり、全体の人工内耳手術の80%以上が北米やヨーロッパなどの高所得国に偏っているため、最新技術の文明の恩恵が必要なすべての人に行き渡らない状況と言える。現在、グローバル人工内耳市場の総規模は約2兆ウォンで、高度難聴患者は、先天的/後天的な理由により全世界人口の一定割合で継続的に存在していると予想されている。韓国の場合も2005年1月に人工内耳移植手術に対する健康保険が適用され、当該市場が本格的に形成され、現在年間約1,000件以上の人工内耳手術が行われている。 

20年間の研究開発、そしてグローバル超格差製品で勝負をかける

TODACのミン・ギュシク代表は、ソウル大学物理学部を卒業後、大学院の生体電子システム研究室に進学して以降、韓国型人工内耳の事業化一筋で走ってきた人物である。ミン代表と創業チームは、TODAC創業前、大学院研究室企業であるニューロバイオシスで8チャンネル韓国国産人工内耳を開発し、品目許可まで成功したが、残念ながらそれが実るのを見ることはできず、当該企業は親会社の財政悪化により廃業に至った。これに挫折することなく、ミン代表は人工内耳電極の研究で博士号を取得し、SAMSUNG(サムスン電子)総合技術院の医療機器事業部を経て、以前の研究室のメンバーと2015年にTODACを設立し、人工内耳事業化の夢を繋ぎ始めた。TODACは設立8年目の企業だが、大学院の研究まで含めると20年以上であり、人工内耳という一つの井戸だけを掘り続ける底力と意志の企業である。

TODACの最初の製品アプローチは、既存の人工内耳製品の普及型国産化に焦点を当てていた。液晶ポリマーベースの大量生産が可能な16チャンネル人工内耳の試作品を開発して国産化に成功し、海外では開発途上国に供給する計画だったが、液晶ポリマー材料で必要となる長期の生物学的安定性認証の難しさから開発を中止することになった。TODACはこれに対する材料的な補完と既存製品の普及型モデルではグローバル市場への参入と勝負が難しいという認識のもと、従来の手作業中心の電極配列生産方式に比べて歩留まりと生産速度が向上した自動生産工程を独自に開発した。これにより既存製品に比べて性能が飛躍的に改善した32チャンネル人工内耳を世界初開発することに成功した。より詳細にいうと、既存の競合他社のやり方の場合、電極の整列及び接続工程がほとんど手作業で行われ、多くの人手が投入されるにもかかわらず、生産時間が長くかかり、歩留まりは60%程度と低い方だが、TODACのやり方の場合、手作業生産方式の代わりに半導体集積生産方式を借りて電極-電線構造体を作り、一度に切り取る方式で行われ、生産時間、歩留まり、人件費の面で競合他社に比べて10倍程度効率が伸び、工程精度が向上、最大32チャンネルの電極を配置することができるグローバル超格差製品と見ることができる。(一般的に人工内耳のチャンネル数が多いいほど、様々な音域の音を聞くことができ、高品質の聴力向上効果があると言われている)。  

オーストラリアのある会社の手作業による人工内耳の製造方法(写真上)と、TODACの自動化レーザーマイクロマシニングプロセスを活用した神経電極アレイ法(写真下) /TODAC提供

体内に挿入される他の3級/4級医療機器分野と同様に、人工内耳市場もグローバルレガシーを握る少数の企業が全世界市場を独占しているという構造である。それだけ参入が容易ではなく、彼らが築き上げたある種の障壁を乗り越えるのが難しい市場であるため、スタートアップ企業がチャンスを見つけるのは非常に難しい。ただし、このような特性から一度参入に成功した場合、市場機会は非常に魅力的であると判断され、TODACは韓国内外の関連スタートアップの中で唯一、その障壁の入り口に立っている企業である。主要学会や競合企業もTODACの現在の開発内容を非常に注意深く見守っており、過去数十年間新規プレーヤーが登場しなかった市場で、競合他社より優れた製品、そして低価格で新たな反乱を起こすスタート地点にあると判断できる。

社会的価値への善良な真心で、業界のゲームチェンジャーとして頂点に立つことを期待

ミン代表は数年前、実際の現場で聴覚障がい者と近い距離感で共に過ごした経験がある。某機関の後援による聴覚障害者が海外の主要機関を訪問して体験する研修プログラムがあり、そのプログラムの引率者としての提案に快く自発的に応じた。彼らと海外で数日間一緒に過ごす中で、彼らが感じる不便さを体感、自分の事業に対する使命感がより大きくなったという。ミン代表以外の創業チーム全員が、自分の仕事が人類のより良い世界のために貢献できるという社会的価値から、かなり善良な背景を持っているにもかかわらずこれまでお金を稼げなかった分野で孤軍奮闘を続ける、善意を持った人たちだ。

TODACは韓国語の「토닥토닥(トダクトダク、よしよし)」から取った言葉で、その意味通り、顧客に勇気と癒しを与えるサービスを提供する会社である。皆に役立つ技術を目指し、人類愛的価値を高く追求する胸躍る仕事をするというミッションを持ったメンバーが集まっている会社であり、参入難易度の高い市場、過去の研究室企業の廃業、製品開発の試行錯誤、資金調達の難関などの困難があったが、現在はGLP試験合格、GMP取得を受け、現在、韓国国内品目許可の最終的な結実を結ぶという位置にいる。また、人工内耳だけでなく、迷走神経刺激器、脳深部刺激器、脊髄痛調節器など様々な神経障害治療用医療機器製品でポートフォリオを多角化する計画も備えている。

筆者の周りにも様々な名称の症状で不便さを感じている障がい者とその家族がいる。彼らが感じる日常の苦痛が技術の発展で癒されることを願い、数十年間革新なく続いてきた市場で、TODACのより良い製品、そしてより低価格でのアプローチが市場価値的に見ても業界のゲームチェンジャーになることを応援する。

TODACチームメンバーの集合写真。下列中央の白いTシャツがミン・ギュシク代表/TODAC 提供



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