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【ちょい事情通の記者】韓国スタートアップのシンガポール活用法

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【ちょい事情通の記者】韓国スタートアップのシンガポール活用法

私たちは何か逃していないでしょうか?

Wilt Venture Buildr Pte.Lte.ウォン・デロ代表

韓国スタートアップのシンガポール活用法

本日のレターは、シンガポールで「スタートアップのシンガポール活用法」を教えてくれるウォン・デロ代表からの「アドバイス」です。

「こんにちは!代表、ここでまたお会いしましたね。」

10月と11月のシンガポールは様々なスタートアップのイベントで賑わっていました。また、これに前後して記録的に多くの韓国のスタートアップが海外進出プログラムの一環としてシンガポールを訪問し、あちこちで挨拶を交わすのに忙しい様子でした。海外進出アクセラレーションの教育課程で訪れた企業もあり、主要な展示会にブースを出しているところも多くありました。ほとんどが政府支援機関の後援を受けて来た企業です。現地メンタリング、潜在的なパートナー企業とのミーティング、現地専門家の講義やパネルディスカッション、投資家デモデーなど多彩なプログラムの中で、初めて海外に出るスタートアップは、新たに学ぶことが多かったと思います。

しかし、ここ数年繰り返されているこのような韓国のスタートアップの海外進出プログラムには、何か逃がしているものがあるようです。もちろん、事前教育は重要です。しかし、スタートアップの本質は、商品やサービスを新しく作って売ってお金を稼ぐことです。教育を受けたり、投資を受けたり、支援を受けるのは手段であって目的ではありません。結局、海外進出の最終的な目標は、自分の海外の顧客が誰であるかを知り、彼らに自分の製品を紹介して売ることです。つまり、フォーカスを「営業」に置き、必要な要素を整理していくと、複雑なパズルが自然と揃っていきます。そこで今回は、特に海外営業に欠かせないPOC(Proof-of-Concept)とそのために活用すべきOpen Innovationについて、シンガポールを例としてご紹介します。


1.海外進出の第一関門 - POCとOpen Innovation

POC(概念実証、Proof of Concept)とは、既存の市場になかった新技術を導入する前に、検証するために使用することを意味し、特定の方式やアイデアを実現することで実現可能性を証明することを意味します。一般的にスタートアップにPOCが有用な理由は以下の通りです。

第一に、商業的実行可能性の打診: スタートアップの本格的な開発前に、当該ソリューションの開発可能性、商業的な興行性、現実的な実装可能性、ROI(投資対収益性)の証明などを行うことができます。第二に、リスク管理:新しい市場への拡大はスタートアップにとって大きなリスクであるため、可能性の有無と証拠をステークホルダーに提供することで、このリスクを軽減することができます。

では、なぜこのPOCが海外市場に進出しようとするスタートアップにとってより重要なのでしょうか?第一に、海外進出を目指すスタートアップの中にはB2B企業が多いためです。B2Cスタートアップの場合、海外進出が難しいこともありますが、モバイルゲームなどのオンラインB2Cサービスの場合、韓国でも様々な方法でテストが可能です。しかし、B2B事業の場合、韓国内で海外企業を対象としたテストが難しいため、海外POCを通じて初めて製品を現地で直接テストすることができ、これにより潜在顧客に対する営業の第一歩を踏み出すことができるのです。

第二に、現地市場に合ったPMF(Product Market Fit)を見つけるのに役立ちます。韓国市場でいくら検証されて売上が上がっている製品でも、海外ではローカライズが必要です。つまり、原点から現地市場に合った製品を新たに開発しなければならない場合、必ずPOCを経なければ現実的なPMFを見つけることができません。

第三に、海外進出の高い機会費用を削減することができます。いくら韓国で事前リサーチをたくさんして、展示会にもよく出て、出張にたくさん行っても、直接製品をリリースしてみるまで、結果は誰にも分かりません。だからといって、最初から現地法人を設立し、現地開発/営業人材を採用したとしても、そのような初期投資が成功を保証してくれるわけではありません。つまり、海外進出は機会費用が高いので、本格的な進出前にPOCを通じて可能性を検証し、PMFを探索することをお勧めします。

では、海外進出経験がほとんどない韓国のスタートアップは、どのように海外POCを始められるでしょうか。すべてのことがそうであるように、POCも需要があるところを探せばいいのです。自分が必要だとしても、相手が興味がなければ、いくら無料のPOCを提案しても嫌がられるでしょう。では、POCの需要があるのはどこでしょうか?POCは通常、新しい製品や改良された製品をテストするものなので、このような新しいイノベーションの需要があるところ、つまりOpen Innovationの需要があるところを狙うのが可能性が高いです。

このようなOpen Innovationに積極的な企業や政府機関は、独自のOpen Innovationセンターを運営し、POCパートナーとなりうるスタートアップを探したり、定期的なOpen Innovationプログラムを運営することもあります。自力でOpen Innovationを進める余裕がない中小企業に対しては、政府レベルで支援することもあります。ですから、まずはこのような会社を探す必要があります。このようにPOCに積極的なパートナー企業を見つけたら、その製品がこの企業に適用可能かどうかを評価するための共同POCを行います。

この間、双方はお互いの仕事の進め方や文化をよりよく理解し、違いを把握することができ、長期的な協力の基盤を築くのに役立ちます。それと共に、韓国のスタートアップとしては、市場調査、潜在顧客発掘、潜在パートナー探し、継続的なfeed backを通じた、より正確なPMF探しなどが可能です。ただし、こちらが不足しているからといって、最初から無条件に無料POCを提案する必要はありません。ある程度の規模の企業のOpen Innovationや政府支援プログラムの場合、最小費用請求が可能です。


2.シンガポールのオープンイノベーション環境  

シンガポールは以前、韓国に比べてIT産業とインフラが遅れていましたが、2000年代後半から現在まで政府主導でDigital TransformationとOpen Innovationに重きを置いています。これはシンガポール政府が推進している「Smart Nation」政策とも歩調を合わせています。まず、この「Smart Nation」政策の基盤となる「Digital Government, Digital Economy, Digital Society」の「Digital-first Singapore」ビジョンを理解すれば、韓国のスタートアップの立場でより効率的にシンガポールを活用する方法が出てくるでしょう。 このような政府の集中的な努力のためか、近年、シンガポールはInnovationとSmart Cityのランキングでグローバル上位を占めています。

その一環として、シンガポール政府はシンガポールに進出しているMNC(Multinational Corporation(多国籍企業)とBig TechにOpen Innovation Centreを新たに開設したり、関連Programを運営するように誘導しており、政府も政府子会社と実務省庁がOpen Innovation Teamを内部的に作って運営するようにしました。つまり、国全体がOpen InnovationのためのTestbedではないかと思うほどです。

MNCが運営するOpen Innovationは、Paypal Innovation Lab、Mastercard Innovation Showcase、Citi Innovation Lab、KPMG Digital Village、Thomson Reuters Labs、Metlife LumenLab、Expedia Innovation Lab、Siemens innovation centre、ABB innovation centre、Infineon Technologies artificial intelligence (AI) innovation hub、SAP.iO Foundryなど数え切れないほどあり、グローバル製薬会社であるJohnson & Johnsonの場合、中国上海にあったInnovation CentreであるJLABSを最近シンガポールに移転しました。また、UOB銀行のようなシンガポール民間企業はもちろん、シンガポール政府出資のDBS銀行、不動産開発会社Capitaland、通信会社Singtel、航空会社SIAなどの大企業も独自のInnovation Centreを運営していたり、Open Innovationプログラムを随時開催しています。

国富ファンドであるTemasek(テマセク)はスタートアップと一緒にVenture Buildingするチームまで作り、政府傘下の部署であるBCAではBuilding Innovation Panelを直接運営しており、シンガポール通貨庁、MASでは海外の中央銀行と一緒にCBDC(中央銀行のデジタル通貨)の国際送金をテストする「Project Mariana」というInnovationイベントを直接実施しました。シンガポール政府は、このようなOpen Innovationの参加者を、すでにシンガポールに進出しているMNCやスタートアップから、海外にある企業やスタートアップに拡大しています。そのために、政府レベルで「Open Innovation Network」というGlobal Open Innovation Platformまで作りました。 

シンガポールはGlobal Open Innovationにおいて比較的有利ないくつかの利点を提供しています。第一に、シンガポールはイノベーションに重要な高学歴の多国籍人材を保有しています。海外優秀人材の採用のための移民規定を新たに設け、外国人人材がイノベーションエコシステムに容易に寄与できるようにしました。第二に、シンガポールの開放的な経済と多数のFTAは、アジア企業がグローバル市場に進出する機会を提供すると同時に、多国籍企業がアジアに進出する足場を提供しています。これにより、MNCがシンガポールに集まり、彼らとOpen Innovationが自然に行われます。第三に、シンガポール政府の果敢なDigital Initiativeです。 シンガポール政府は、新技術の採用と開発を積極的に奨励し、科学技術分野に多額の資金を提供しています。これらの要因により、シンガポールはGlobal Open Innovationのための魅力的なプラットフォームとなりました。

/ウォン・デロ代表提供

3.韓国スタートアップのシンガポール活用法  

韓国貿易協会が国内スタートアップを対象に実施したPOC関連アンケート調査によると、「新技術・製品などの開発のためにPOCがどのくらい必要か」という質問に、87.5%が「必要」と回答したそうです。しかし、期待に反して韓国内でもPOCはまだ活発な方ではなく、海外のPOCはまだ発展途上です。最近、韓国貿易協会、Seoul Startup Hub(ソウル起業ハブ)、創業振興院などがスタートアップの海外POCを支援するプログラムを開始しましたが、専門家や専門機関の不在、支援予算の不足などで、目に見える成果はまだあまりないようです。 スタートアップごとに進出したい地域が異なり、スタートアップと支援機関の内部リソースが限られているため、多様な海外POCのニーズをすべて満たすことは不可能です。

このような現実を考慮すると、シンガポールは海外POC Testbedとして様々な面で適しています。 まず、上記で説明したように、シンガポールは国自体がOpen Innovation Platformであるため、様々な政府支援制度やインフラを活用するのに適しています。第二に、シンガポールにはシンガポール企業だけでなく、アジアに進出した、または進出しようとしているMNCが集まっています。つまり、進出したい国の潜在的な企業顧客がすでにシンガポールにいる可能性が高いのです。さらに、これらの企業の多くがInnovation関連の部署やプログラムを運営しているため、POCを提案するのに適した条件です。 

第三に、アジアで英語を公用語とし、すべての制度と規制がGlobal standardに適合している国はシンガポールが唯一です。つまり、シンガポールの環境でPOCを通過した場合、Global Standardを通過したものとみなされ、ヨーロッパ、アメリカ、中東、東南アジアなど他の地域に進出する際に大きな助けになります。一例として、弊社がPOCを手伝っているある韓国のスタートアップの場合、シンガポール政府のシステムを基準にシンガポール企業と一緒にB2Bソリューションのローカライズを行っていますが、これが成功すれば、香港、オーストラリアなどシステムが類似した他の英連邦諸国にも進出する予定です。

まるでワールドカップ本戦を前に、ある程度レベルの高い海外チームと練習試合を行い、実力をチェックするようなものです。また、海外経験が全くないスタートアップの場合、英語圏のシンガポールはキャンプに最適です。シンガポールに進出している世界中の様々な企業と交流する中で、知らなかった新しいチャンスを発見できるかもしれません。

では、韓国にいながら、シンガポール内のOpen InnovationとPOCの機会を探す方法はあるでしょうか?シンガポール政府は、シンガポールをGlobal Open Innovation HubまたはGlobal Testbedにしようと「Open Innovation Network」というOpen Innovation Platformを開設しました。シンガポール政府機関、MNC、海外企業などがProblem(Challenge)Ownerとして様々な分野に渡って自分たちの問題を提示し、この問題解決に挑戦するスタートアップはここから直接申請することができます。これにより、スタートアップはシンガポール企業やMNCと一緒にソリューションの共同開発や市場テストの機会を模索することができます。

OINが様々な分野を網羅しているのに対し、ICTとMedia部分に特化したOpen Innovation Platformもあります。ICTとMediaを統括する政府機関であるIMDAが運営するOIP(Open Innovation Platform)で、問題解決を望む政府機関、MNC、中小企業が四半期ごとに自分たちの問題を公開しています。興味のあるスタートアップは、提示された問題とPOC期間、POC予算を検討し、自社のソリューションを提案します。海外のスタートアップも制限なく応募できます。

当該企業とIMDAはインタビューと共同審査を経て、最終的なPOCスタートアップを選定します。POC期間中に発生する費用は全額IMDAが負担し、代わりに最終POCが成功した場合、当該企業はこのソリューションを商業的に購入する必要があります。シンガポール政府は上記のようなOpen Innovationプログラムと関連事業のために毎年数千億円単位の予算を計上していると言われています。

この他にもシンガポール政府はOpen Innovation参加者のためのcommunityも活性化していますが、最近ではACCM(A*STAR Collaborative Commerce Marketplace)というサイトを開設しました。ここには、過去にOpen Innovationプログラムに参加した、または事前にシンガポール政府機関から招待されたProblem OwnerとProblem Solverが登録されています。そのため、彼らは自分たちが求めるパートナーをここで常に検索し、ネットワーク構築を行うことができ、Cloud-native solution企業の場合、相互AIP integrationを通じたvirtual POCまでサポートすることができます。

フィンテックのスタートアップなら、APIXサイトを活用するのもいいでしょう。シンガポールの金融庁であるMASがIFC、ASEAN Bankers Associationと共にTemasekのサポートを受けて作った場所で、金融機関とフィンテック企業間のOpen Innovationのために提供されたAPI Marketplaceです。 

幸いなことに、最近になって韓国のスタートアップがシンガポールのオープンイノベーションに参加するケースが増え始めました。銀行青年創業財団D・CAMPは昨年、シンガポールIMDAとMOUを締結し、両国内のOpen Innovationに各国のスタートアップが参加するようにしました。最近では、韓国のAIヘルスケアスタートアップがシンガポールの病院とPOCを準備しています。また、先日、韓国のアクセラレータMUSTは韓国のバイオ、ヘルスケアスタートアップとシンガポール内のMNC製薬会社間のOpen Innovationアクセレーションを行いました。来年はKB金融グループと韓国貿易協会主導で韓国のスタートアップとシンガポールのMNC間のPOCを行うプログラムもあるそうです。

スタートアップが慣れない海外に初めて進出する際、リスクを減らし、最適なPMF(Product Market Fit)を早く見つけるためには、小規模でも現地でPOCを行うことが望ましいです。理論的な事前調査や方法論も重要ですが、規模は小さくとも直接顧客に会って話を聞く必要があるのです。つまり、海外POCはスタートアップの海外進出に非常に便利で効率的な方法であり、海外Open Innovationはスタートアップが海外でPOCパートナーを発掘する効率的なチャネルです。その中でもシンガポールは海外Testbedとして最適な場所と言えます。





/media/ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)
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ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)

朝鮮日報のニュースレター、「ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)」です。

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