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有名観光地のオーバーツーリズム問題

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オーバーツーリズムを超え、持続可能な観光を目指して

 


先日、韓国メディアでは、アニメ「スラムダンク」で有名な鎌倉に外国人観光客が多く集まり、地元住民との衝突が起きているという内容の報道がありました。先日公開された映画の影響もあり、韓国人観光客も多く訪れている地域なので、さらに注目されています。

記事の内容によると、踏切に列車が通過するたびに記念写真を残そうと危険な状況で写真を撮ったり、通過する車両を故意的に制御したり、一部マナーのない観光客は住民の居住地域にゴミを無断投棄したり、路上放尿をするなど、地域住民の生活に被害を与える場合もあるようです。

 


最近では、韓国の伝統的な建物がたくさんある有名な観光地「北村韓屋村(ブッチョンハノクマウル)」にも外国人観光客が集まり、住民との衝突が起こるなど、鎌倉と似たような状況が起きています。韓国政府は問題を解決するため様々な政策を打ち出していますが、実効性がなく、有名無実の状況です。

このように観光地が収容できる範囲を超えて観光客が押し寄せることで様々な問題が発生する現象をOvertourism(以下、オーバーツーリズム)、つまり過剰観光といいます。新型コロナウイルスパンデミック以前、有名な観光地にオーバーツーリズム現象が起こり悩まされていましたが、新型コロナがある程度落ち着いた今、再びその問題が浮上しています。

今日はオーバーツーリズム現象に関連して、なぜこのような問題が発生するのか、解決できる方法はないのかを考えてみたいと思います。

 

すべて、過ぎたるは猶ほ及ばざるがごとし

上記でも少し触れましたが、このような問題は過去にもありました。京都や鎌倉の場合、2018年、そして翌年2019年もオーバーツーリズムの問題は継続的に議論されています。 

しかし最近、映画「スラムダンク」の公開と新型コロナエンデミックの影響で観光需要が重なり、日本に向かう海外からの観光客が爆発的に増加し、日本国内ではこの問題がさらにクローズアップされているようです。

 


日本や韓国のほか、伝統的な観光都市であるイタリアもオーバーツーリズムに悩まされています。新型コロナ直前の2019年、年間約3千万人が訪れるヴェネツィアのサン・マルコ広場に、路上飲食を禁止する警告文が貼られたり、ローマのトレビの泉に入ると450ユーロ(約6万8000円)の罰金を科すなど、極端な方法をとったりしました。

また、ディズニーアニメ「アナと雪の女王」のモチーフとなった住民778人のオーストリアの小さな田舎町ハルシュタットでは、2019年基準、一日約1万人の観光客が訪れ、村人の日常が完全に破壊され、物議を醸しました。

このように、観光客が訪れることにより、地域経済が活性化し、交通や宿泊などのインフラが発展するというポジティブな側面もありますが、キャパシティーを超えるレベルの観光客はむしろ環境を破壊し、地域文化を損なうという副作用が発生します。 

その結果、むしろ元々住んでいた地域住民が他の地域に追い込まれることを加速させる、ツーリスティフィケーション(Touristification)現象が起こることもあります。

実際、ソウル北村韓屋村のある鍾路(チョンノ)区嘉会(カフェ)洞の人口は、2023年2月現在約3,900人で、2011年の約5,500人に比べ約30%減少しました。同期間、鍾路区全体の減少幅である16%と比べると、この地域の人口減少幅は2倍です。

このような問題に対して、各国の政府や自治体は特別管理区域に指定したり、観光税を徴収するなど様々な解決策を提示していますが、根本的な問題解決には至っていません。  

 

どうすれば解決できるのか

オーバーツーリズム問題に対して法的な罰則を科したり、別途観光税を徴収する直接的な方法は、観光需要が減少するリスクがあるため、政府が先制的に動くことも容易ではない状況です。

しかし、それでもこの問題を解決するためには、政府の積極的でより創造的な観光戦略構想が必要です。今回は、インフラ整備と観光商品開発という2つの観点からお話したいと思います。

オーバーツーリズムの問題は、該当地域の住民や既存のインフラが対応できないほど、多くの観光客が押し寄せることで生じる問題です。 継続的な統計分析を通じて、交通や宿泊、水道など社会全般にわたるインフラを拡充していかなければなりません。 

また、IoTなどの技術を活用して混雑度を分析し、事前に予測して該当地域に警察を事前配置したり、観光警備員や案内人を予想される観光客数に合わせて配置することで、一部の観光客の非常識な行動を制限することができるでしょう。

しかし、インフラを無制限に増やすこともできず、インフラ拡充だけではその問題を解決することは容易ではありません。特に観光客は時間が限られているからです。短期旅行者の場合、一つの地域に半日または一日程度の時間をかけて2~3カ所の主要観光地を周り、写真を残すことが多いのはこのような理由からです。

そのため特定の時間や地域に観光客が過度に集まる可能性が高く、最終的に地元住民に過度の不便をもたらす可能性が高いことを意味します。そのため、様々な観光商品を開発することが代案になるのではないでしょうか。

例えば、地域滞在型観光、体験型観光など、地域独自のストーリーテリングに基づいた様々な観光商品を開発することで、一つの地域に長く滞在させ、観光客が訪れる時間帯を分散させるのも一つの方法であると言えます。また、観光スポットの継続的な発掘と新規開発が必要です。

残念ながら、韓国はこの分野において改善が必要な状況です。2023年現在、「韓国観光の日」を新たに設定し、K-POPをはじめとする文化コンテンツと連携し、2023年の観光客3,000万人を目指しています。残念なのは、観光の質よりも観光客の数にこだわっていることです。これは韓国だけでなく、多くの国が観光政策でやっている大きな間違いでもあります。

 


また、全国どこへ行っても同じような飲食店やカフェ、見慣れた観光地ではなく、地域固有の文化と連携したストーリーテリングツアー商品が、観光客に新しい経験を与えることを忘れてはいけません。 韓国の自治体で流行し、今も作られていますが、特別な意味のない全国200余りの吊り橋の失敗事例は、われわれが記憶しておくべき事例です。  

そのため、韓国の若者らは済州(チェジュ)島や釜山(プサン)などの国内旅行よりも、隣国である日本やベトナムなど周辺国へ旅行に行きます。 その結果、韓国の国内総生産(GDP)で観光産業が占める割合が、OECD加盟国の中で5年連続最下位を記録しているという悲しい現実に直面することになります。

 

持続可能な観光(サステナブルツーリズム)

実際、私が考えるオーバーツーリズム問題の最大の原因は、常識の欠如と現地の文化に対する敬意の欠如です。鎌倉だけを見てもそうですが、相手の立場で考え、ゴミをむやみに捨てたり、周りの人に迷惑をかける行為をしてはいけないというのは現代人の常識です。しかし、一部の観光客は、観光地だからといって、地元の人々の生活を尊重しなければならないという常識がきちんと機能していないようです。 

日常から離れて余裕を楽しむために出発する旅が、むしろ他の人の日常を壊し、ダメージを与えるのであれば、それは果たして意味があるか、 と考えてみると、おそらくほとんどの人は意味がないと答えるでしょう。

そこで最近、このような問題の代案として、旅行者と旅行対象国の国民が平等な関係を結ぶ「フェアトラベル(Fair Travel)」という概念が浮上しています。フェアトラベルとは、現地の住民や文化、自然を尊重し、「持続可能な観光(Sustainable Tourism)」を追求します。

フェアトラベルは2000年代には炭素排出を最小限に抑えるなど、主に環境保護の目的で旅行を見る概念でしたが、最近韓国では北村韓屋村の事例を通じ、旅行においても地域のコミュニティや文化を尊重しなければならないという広い概念として解釈され始めました。

特に、パリ気候協定の後、環境問題が本格的なグローバル課題として浮上し、韓国人のフェアトラベル(持続可能な旅行)への関心が高くなったことが分かりました。

グローバルOTA(Online Travel Agency)であるBooking.com(ブッキングドットコム)が韓国を含む世界32ヶ国、約3万人の旅行者を対象に調査した内容を基にした「2022年持続可能な旅行レポート」によると、韓国人の74%が「持続可能な旅行」を重要視していると回答しました。

 


 

韓国でもフェアトラベル(持続可能な旅行)のための企業の活動が少しずつ始まっています。その中で最近最も頭角を現わしているスタートアップは、社会的企業である「共感万歳(公正さに感動した人々が作る世界、Fair Travel Korea)」です。

この企業は国内外を問わず、青少年旅行学校や、日本の広島県の山間部である椎の森地域の古い民家を修理・改修する地域再生プロジェクトを行うなど、成果を上げています。

実は、これまでの観光は政策的に国の輸出商品の一つとして考えられていたため、どうしても地域住民に被害を与える形で発展してきたのが事実です。

これを打開するために出てきた概念であるフェアトラベル(持続可能な旅行)は、論語にある近者說遠者来(近き者喜び、遠き者来る)という言葉のように、近くの人を喜ばせれば遠くの人も来てくれるというごく当たり前の常識を実践する一つの方法です。

 


このような持続可能な観光は、オーバーツーリズム問題の代案として多く語られています。 しかし、大多数の人は、一部のNGOの社会活動程度にしか考えていない場合が多いようです。 しかし、最近は地域住民にも経済的なメリットが行き渡るなど、住民にも直接的な特典が行き届く参加型事業へと形を変えています。

国際公認の持続可能な観光認証機関であるGreen Destinations(グリーンデスティネーションズ)から、岐阜県の白川郷と長良川流域が「世界100大サステナブル観光地」に認定されました。 しかし、まだ韓国では持続可能な観光に対する認識も低く、まだ始まったばかりです。  

持続可能な観光は、政府の政策だけでは生まれません。 様々なチャンネルを通じて、観光客の意識改善が先行する必要があります。 自身の人生が大切であるように、観光地の住民の人生も大切であることを認識し、どこへ行っても観光客自身がその国の顔であるという認識が伴わなければなりません。 日常から離れ、新しい経験を得たいという旅行者の欲求をコントロールするのは、結局自分自身だからです。 

/media/パク・ジュニョン(박준영)
記事を書いた人
パク・ジュニョン(박준영)

世の中の様々な話題を人々に伝えるコンテンツを扱うエディターです。 会社に通いながら人々に知識を共有し感じる幸せが好きで、現在はフリーランサーコンテンツエディターを目標に文を書いています。 誰でも読みやすい文を作成することが私の目標です。 現在は個人ブログと韓国の投資コミュニティ2~3ヶ所に寄稿しています。