【そのとき投資】税金をやさしく、タックステックHeum labs
【そのとき投資】税金をやさしく、タックステックHeum labs
Korea Investment Partners キム・ヒジン首席チームリーダー
税金はあまり優しくない。足りていない場合は税務署が積極的に追徴するが、多く払ったからといって、先に教えてくれたり、返してくれたりすることはない。納税者が過去に過大申告した税金を税務署に返してもらうことを「更正請求」と呼ぶが、多くの人にとって馴染みのない難しい言葉だろう。毎年、少なくは2兆ウォン(約2195億円)から、多くは4兆ウォン(約4390億円)以上の税金が更生請求を通じて還付されているのに、だ。
このように大きな金額が還付されている制度だが、更生請求があまり知られていない理由には、これまで大企業が大手会計・税務法人を通じて更生請求を申請し、還付を受けるケースがほとんどであったことがある。もし、大企業だけでなく、中小企業や小規模事業主も簡単に更生請求ができる技術が開発されれば、それ自体が素晴らしいビジネスモデルとなり、同時に社会的にポジティブな影響を持つサービスになるだろうと感じた。
税理士法人Heum(ヘウム)のイ・ジェヒ代表税理士(写真左)とHeum labs(ヘウムラボ)オク・ヒョンソク代表/Heum labs提供
工学系の3人が税理士業でチャンスを見つける
2021年にもフリーランスを対象に簡単に税金を照会して還付を受けるサービスは存在したが、事業者を対象とした複雑な更生請求プロセスを簡素化するサービスは存在しなかった。小さくない市場であるにもかかわらず、市場の大きなイノベーションが現れていない状況だった。これは、税金に関する領域は高い専門性が必要であることが当然の前提であり、スタートアップの参入自体が少なかったと推測できる。
結局、タックステック(Tax-tech)企業として成功するためには、基本的に税務に関する専門知識を持つだけでなく、従来にない技術革新を生み出すことができるチームが存在しなければならないという結論に達した。だからこそ、Heum labsのオク・ヒョンソク代表を初めて紹介され、C-Levelの経歴を聞いたとき、とても嬉しかったことは記憶に新しい。まず、Heum labsのオク・ヒョンソク代表は、LG電子技術院在職中に派遣で博士課程に進み、博士号取得中に悩んだ末にスタートアップを起業した。AIへの関心が高まる前から関連技術を研究し、スタートアップの運営経験まで持つ開発者出身の連続起業家だった。シン・スンファン副代表は、機械工学修士課程を修了後、LG電子、HYUNDAI AutoEver(現代オートエバー)で100人以上の組織をリードし、ビジネスをリードした経験がある。ユ・テウォンCTOの場合、コンピュータ工学の修士課程を修了後、SK telecom(SKテレコム)やDelivery Hero(デリバリーヒーロー)などで開発リーダーとして勤務していた。
このように開発者を中心に構成されたチームが「Heum labs(ヘウムラボ)」であるとすれば、その背後には税務の専門性を支えてくれる「税務法人Heum(ヘウム)」が存在した。「税務法人Heum」は2021年にすでに本店を含め6つの支店を運営し、約1,800人の顧客を確保していた。本店及び支店化事業による年間売上高が40億ウォン(約4.4億円)程と予想される状況だった。本店だけでなく、良才(ヤンジェ)、驛三(ヨクサム)など全支店で顧客が急速に増加しており、優秀な税理士が着実に税理士法人Heumに入社していた。面白いのは、「税理士法人Heum」の代表税理士であるイ・ジェヒ税理士はHeum labsのオク・ヒョンソク代表の配偶者であるということ。開発者の夫と税理士の妻が力を合わせて、テックとタックス(税務)がうまく組み合わされたタックステック(Tax-tech)会社が作ったわけだ。
Heum labs提供
ベンチャーキャピタル、サムギョプサル店、薬局も簡単に還付されるサービス
既存のスタートアップのための税務サービスがERPのようなツール型サービスであるのに対し、Heumの税務サービスがチャットベースの秘書型サービスであることも目を惹いた。既存のIT税務サービスが掲示板中心で、すぐに答えを得るのが難しく、メニューベースで代表が自ら機能を習得しなければならないのに対し、Heumのサービスは、KakaoTalkで税務専門家に直接質問して節税のTIPSをアドバイスしてもらうことから、書類発行まで簡単に行うことができ、税務ダッシュボードを通じて税務状況を確認することができる。
Heumの税務サービスの顧客忠誠度指数(NPS)が税務サービス平均の-33点より高い69点で、優れた忠実な顧客を保有している点もポジティブ要素だった。アプリベースで代表が直接使用し、管理しなければならないツール型SaaSではなく、チャットベースの秘書型SaaSに新たなチャンスがあると見た。Heumは事業者の金融秘書を作るのに適したノウハウと優秀なチームを持っていた。
税金還付という大きな市場はあまり知られていなかったが、存在することを確認し、続いて良いチームを見つけることに成功したため、今度は「どのようなビジネスモデルを作り、誰をターゲットにするのか」という段階に移る必要があった。HeumLabsの戦略は、AIを活用して、人がいちいち関与しなければならない従来の更生請求方式を効率化することだった。これをスタートアップを含め、中小企業、小規模事業者の誰もが簡単に税金を照会し、還付を受けることができるサービスとしてリリースしようというものだった。しかし、個人ではなく事業者を対象とした更正請求の場合、考慮すべき制度や法案が多く、頻繁に変更が起きる状況であった。果たして、人が直接行っていた作業を技術がどれだけ効率化できるのかという不安は大きかった。
そんな中、投資検討に参加したある会社がHeum Labsの税金還付技術のベータテストに直接参加した。納税額を分析すると、約500万ウォン(約55万円)の還付税額が導き出された。HeumLabsは追加で47人の事業者を確保し、ベータテストを行った。その結果、参加事業者の約44%が税金還付を受けることができ、平均で約1,000万ウォン(約110万円)を還付された。3,000万ウォン(約330万円)以上を還付される対象者も10%にも上った。顧客の立場からすれば、当然取り返すことのできるはずのお金なのに、まるでお金が降ってわいたような感覚になるだろうし、これは今後強いバイラル効果を生み出せるのではないかと感じた。
Heumは、2021年末に法人事業者向けの更生請求サービス「더낸세금(Deonaensegeum、払いすぎた税金)をリリースした後、2022年9月に個人事業者向けの更生請求サービスに拡大し、急速に成長している。23年5月現在、Heumを通じて約30万事業者が利用するサービスに成長し、法人事業者の場合、平均1,050万ウォン(約115万円)、個人事業者は平均594万ウォン(約65万円)を還付された。
最近、Heum Labsが宣陵(ソンヌン)駅で飲食店を経営しているある社長のインタビューを行ったところ、「더낸세금(Deonaensegeum、払いすぎた税金)」で従業員一人の給料分が戻ってきたという。特に物価が上がり、いろいろと大変な状況で還付額を確認した瞬間、感動が大きく、携帯電話を何度も再確認したそうで、他の中小企業家も「더낸세금(Deonaensegeum、払いすぎた税金)」で還付を受けて頑張ってほしいと口コミを残した。このようにHeum LabsのAI技術のおかげで、更生請求はもはや大企業の専有物ではなく、中小企業も十分に恩恵を受けることができる制度となった。還付だけでなく、税務サービスを通じ、今後もより多くの事業者が税務についてサポートを得られることを願っている。また、Heum Labsのサービスが事業者から最も愛されるB2Bサービスとなれるよう心から応援している。
朝鮮日報のニュースレター、「ちょい事情通の記者(쫌아는기자들)」です。
関連記事
-
【ちょい事情通の記者】 FINIT、株を適時に売買する方法
#ちょい事情通の記者 #フィンテック #金融 #資金調達 #スタートアップ -
【そのとき投資】Tesser、患者の切実さが生んだイノベーション
#ちょい事情通の記者 #医療 #ヘルスケア #スタートアップ #資金調達 -
韓国のモビリティ・スタートアップが中古車市場に投げた一石
#韓国 #スタートアップ #モビリティ -
[寄稿]ブロックチェーンスタートアップは法律上ベンチャー企業にはなれない、しかしそれは正しいのだろうか。
#ちょい事情通の記者 #ブロックチェーン #スタートアップ -
スタートアップ支援金打ち切り問題、TIPSだけ信じていいのか?
#韓国 #スタートアップ #資金調達 -
投資の低迷期に革新を生み出すスタートアップになるには
#韓国 #スタートアップ #ユニコーン企業