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故キム・ジョンジュが残した二人の創業者夫婦、ビューティー分野で検証したかったジャーナリズム仮説

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故キム・ジョンジュが残した二人の創業者夫婦、ビューティー分野で検証したかったジャーナリズム仮説

ちょい事情通の記者 2号 イム・ギョンオプ

今日のレターはこの写真から始まります。米国でビューティースタートアップ「Beaubble(ビューブル)」を創業した共同創業家イム・ジュニョン(30)代表とソ・ヒギョン(29)ブランド開発総括は夫婦です。2017年7月ネクソンの持株会社だったNXCで出会い、2018年10月に結婚しました。 

 写真は2人の結婚式の日の様子です。司会を努める後ろ姿は誰よりも2人を応援した故キム・ジョンジュ元NXC代表です。夫イム・ジュニョン代表はスタートアップRadish(ラディッシュ)の創業初期メンバーでした。Radishの創業者イ・スンユン代表を通じてキム・ジョンジュ代表と知り合ったそうです。

 夫婦は、肌が敏感だったソ・ヒギョンさんのペインポイントからアイデアを得てビューティースタートアップを始めました。ビジネスモデルの核心と仮説は、Radishがジャーナリズムスタートアップだった時代、イム代表が証明したかったアイデアでした。

 今回のレターには多くの人々が登場します。多くの創業者が登場し、夫婦創業者の個人的な話がこれほどたくさん掲載されるのも初めてです。お金と成功、失敗が行き来するビジネス世界における、人の縁と繋がりについての物語かもしれません。 イム・ジュニョンの回答は(イム)、ソ・ヒギョンの回答は(ソ)と表記して整理しました。





-NXCに入社するきっかけは映画とお聞きしました。

「ソ:『シリアからの叫び』という映画から始まりました。シリア内戦の惨い被害を伝えるドキュメンタリーです。NXCは映画を輸入しており、この映画をご覧になったキム・ジョンジュさんが輸入を主導していました。

映画マニアだったことから、サンダンス映画祭でこの映画を目にし、『誰もシリアの悲劇のようなドキュメンタリーに関心を持たないだろうが、私たちが輸入して戦争の惨状を知らせなければならない』と決められたといいます。

それで、採用公告が出ていたのです。制作会社とコミュニケーションのためにフランス語ができなければならず、映像や映画についての知識もなければいけません。私はフランス語が少しできましたし、ハン・イェジョン映像院で短期過程を修了しており、映画関連の知識もありました。

今考えてみると本当に珍しい志願要件でしたが…申請書を出したら翌日、チョンジュさんから連絡が着ました。『ご飯でも食べましょう』と。そうしてNXCで働くことになりました」 

 「イム:私はRadishの前身であるByline(バイライン)で働いていた頃、キム・ジョンジュ代表を知りました。コーネル大学で経済学と政治学を専攻し、イギリスのオックスフォードに一種の交換留学生として通っていました。

それでイ・スンユン代表と知り合い、スンユンさんがBylineを創業する際、共に働くことになりました。 その後、スンユンさんの知り合いだったチョンジュさんと知り合いました」

 

-途中でBylineを出たのに縁が続いたんですね。

「イム:BylineがRadishになる中で退職しました。Radishは今ではKakaoEntertainmentに5,000億ウォン(約503.7億円)で売られたウェブ小説プラットフォームですが、初期は小さなジャーナリズムプラットフォームでした。私がしたかったのもジャーナリズムでしたし。

『1人の記者に心強い1,000人の読者』という仮説を証明したかったのです。1,000人が物的に後援してくれれば、より多様なジャーナリズムの試みが続くことができるだろう、というものです。

 ところが会社の状況がだんだんと難しくなり、結局ウェブ小説へとピボットをすることになりました。その部分で、スンユンさんとぶつかり、内部でもたくさん争いました。結局私は会社を出ました。そうしてしばらく彷徨いながら、自らで創業をしようと調べてみたりもしました。

その時、ジョンジュさんから 『今、負けん気だけで創業すると失敗する』とメールが来ました。そしてNXCに来て数年働きなさい、それから、会社を出て創業しなさい、と助言されました。それでNXCに入りました。内部の会社設立や投資検討などの仕事をしていました」

 

-そして社内恋愛でしたか。

「イム:はい。会社で恋に落ちました。 ヒギョンさんと付き合うことにした日、ジョンジュさんにメールを書きました。社内恋愛をすることになりそうだ、と言わなければならない気がしたのです…嘘はつけないと思いました。返信は..「(笑)」大体こんな感じでした。

2018年に結婚し、ジョンジュさんが司会をしてくれました。結婚後もアメリカに来られるたびに会っていました。近くにメキシカンタコスの美味しい店があったのですが、いつも私に奢れと仰っていましたね。『イム代表に高いものをご馳走してもらえるのはいつかな』と私をからかったりもしていました。

「ソ:創業してからもジョンジュさんによく電話していました。特に2人で揉めると、必ず私がかけていました。私はビジネスの話はあまりしていませんでした。チョンジュさんは私の父と同い年で、個人的なことを相談して話していました。

夫婦喧嘩に対するジョンジュさんのソリューションは『家をしばらく離れてみてください』というものでした。一ヶ月くらい家に帰らなければ、夫もしっかりするだろう、と言って。チョンジュさんの答えは、突拍子もないながらも核心を突く時があります。アドバイスを聞くとスカッとするというか。



-ヒギョンさんのペインポイントが創業につながったとお聞きしました。

 「ソ:肌が本当に敏感なんです。基礎化粧品を少し間違って使うだけで肌全体にトラブルが起きます。中学校の時から化粧品ダイアリーをつけていました。化粧品の成分を見ながらどんな成分が自分に合っていて、どんな成分が入っているととトラブルが出るのかを記録したものです。

一種の化粧品1人A/Bテストとでもいいましょうか。それをつける中で、化粧品について勉強することになり、結婚後しばらく休んでいる時に、小さな副業をしようと、美容ブロガーを始めました。なのですが、現在の化粧品製品と市場の問題についての私の一連の話を聞いた夫は興奮していました。それはブログではなく、事業としてやれそうだ、と言って。 

 

-化粧品、ビューティーとも競争が本当に熾烈な市場ですが

「イム:構造的な問題がありました。まずビューティー市場は韓国をはじめ米国も過度にマーケティング競争が熾烈な市場になり、新しいブランドが出ても流通構造の中で収益を生み出すことができなくなっています。よく思い出すと、韓国においても、人気のあったビューティーブランドやスタートアップのほとんどが数年後に存在感なく消えていますよね。

アメリカでもインディーズブランドがSEPHORA(セフォラ)のような大型流通企業に入店し、積極的なマーケティングを行えば行うほどマージン率はどんどんと落ちます。口コミにより小さな規模でうまくいっている時よりも大変になり、1つの製品が年間300億ウォン(約30.2億円)以上売上げてこそ損益分岐点を超える奇形的な構造になっています。

このように製品とマーケティングに注力することになると、次の製品では心血を傾け、デザイン、製作、マーケティングを行うことになります。第1世代ビューティースタートアップでは新製品開発期間が18ヶ月に達するケースもありました」

 「ソ:グローバル化粧品のトレンドは急速に変わっていました。大衆性から一つの商品が多く売れた以前とは異なり、人種や好みに応じ、製品やマーケティングが多様になりました。

例えばビーガン化粧品が専門的に発売されたり、過去には白人を中心とした色トーンで化粧品が発売されており、他の肌トーンのための化粧品が少なかったりしましたが、今では黒人の肌トーンにフォーカスした製品が発売され、大ヒットしているケースもあります。

このように市場がトレンドに追いつくためには、製品開発過程も迅速でなければなりません 」


- Beaubbleはどれくらいの期間で製品を製作していますか。

ソ:「1番速かった製品は14週間で作りました。 まず、私は成分についての理解があったため、韓国のOEM会社とのコミュニケーションが迅速に進みました。そしてテックスタートアップの観点から開発を進めています。

テック企業は、アプリであれ製品を一度市場に出し、反応を見ながら修正する過程を経ますよね。化粧品はそうしてはいけないという決まりはありません。ブランドコンセプトと方向性を先に公開し、予約注文を受けた後に納期に合わせて製作したりもしました。

試作品を作ってフィードバックを受け取る過程を続けるよりも、とりあえず迅速に市場に製品を出して修正する過程を経るという方式を導入したのです」

イム:「そのように拡張していき、現在Beaubbleはインフルエンサーを前面に打ち出した6つのブランドと製品を出しています。2020年3月に初のブランドと製品を発売したので、2年と少しの間で、急速に歩を進めてきました。

基礎製品ブランド、肌トーンに特化したブランド、ボディケアブランドなど様々なブランドを運営しています。TikTokで1000万フォロワーを超えるインフルエンサーもいます」


ソ・ヒギョンさん(左)とイム・ジュニョンさんが創業直後にシェアオフィスで撮った記念写真。IKEAで購入した机とノートパソコンが唯一の家具だった時代だ。 /ビューブル


-美容ビジネスの新しい活路はインフルエンサーでしょうか?

「イム:インフルエンサーによるマーケティングの効果はすでに検証されています。むしろ1つの広告とメッセージを提示していた以前のマーケティングよりもチャンネルが多様化し、メッセージも多彩になりました。問題は市場の構造でした。

一括払いでインフルエンサーに投稿を提案したり、あるいは非常に少ない持分をインフルエンサーに提示したりしていました。そうしていると、マーケティングとブランドが長期的に維持できず、1度ドンとヒットしては消えるという、構造的な問題がありました。

アメリカの有名なポップ歌手、リアーナがヒットさせた「FentyBeauty(フェンティビューティー)」というスタートアップがあります。黒人や黄色人など有色人種のための美容ブランドです。リアーナ自身の姓(Fenty)を冠していますが、既存の化粧品ブランドとのコラボレーションによりスタートされたブランドであるため、アイデアとブランドアイデンティティという看板を提供したリアーナの初期持分は20%前後でした。

後に50%以上の持分になりましたが。 実際の市場でもインフルエンサーにはブランドマーケティングの対価として売上の20%以下、あるいは一括払いがされています。

 しかし、私たちはブランド全体の売り上げの40%を渡しています。インフルエンサーを説得するのです。Beaubbleと小さなスタートアップを1つを作ると考えてもらいたい、と」

 

-最初はインフルエンサーとの接点がなかったのではないでしょうか。

「イム:化粧品市場に対する私のビジョンが大きいです。 「ハイパーターゲティング」の考えを整理し、市場がこの方向に流れ、私たちと製品を作れば、長くよく売れるブランドを作ることができると説得しました。 コールドメールをかなりたくさん送り、あるマネージメント社が反応をくれたことでスタートしました。

もちろん製品が1つもない頃でした。結局スタートアップの核心はビジョンを売ること。 Radishも製品なしでチャールズ・ディケンズの1ペニー小説についての話をしながら『ウェブ小説の時代が来る』と投資を受け、ピボットしました。こうしてビジョンをよく売るのは、スンユンさん(Radish元代表)から多く学びました」

 

- 化粧品のハイパーターゲティング?

「ソ:Beaubbleのブランドはターゲットが明確です。赤ちゃんのいる30代のママインフルエンサーもいますし、Victoria's Secret(ヴィクトリアズシークレット)のモデルインフルエンサーもいます。売る製品もインフルエンサーの特徴に応じてそれぞれです。

低刺激製品もあり、ビーガン製品もあり、モデルが主に使用するトーンやメイク法をマネできるように製作したトーン特化商品もあります。そのため、みんなが使う汎用製品というよりは、特定の製品を本当にずっと使うような人たちをまず対象にしています。

ビューティー製品の平均再購入率は20〜30%程度ですが、Beaubbleの製品は再購入率が50%に達しています。

 例えばブランド「Teni(テニー)」のインフルエンサーはアルメニア出身のアメリカ人です。そのため、アルメニア出身の方々がこの方をフォローするのです。

ところでアルメニア人の特徴として、ココナッツアレルギーを持つ人が本当に多いということがあり、テニーにもアレルギーがありました。ココナッツは化粧品に本当によく使われる成分なんです。

 それで、ココナッツ成分を完全に取り除いた化粧品、ココナッツフリー化粧品をテニーと一緒に発売しました。昨年のテニーブランドの売上は10億ウォン(約1億円)を超えました」

「イム:Bylineの時に検証したかった『記者1人に1000人の読者』をビューティーに代入したら? 『1つの製品とブランドを熱心に消費する1万、いいえ10万人の消費者』なら?そのように1つのブランドが10億(約1億円)、100億(約10億円)を売上げ、このようなブランドを20~30個ずつ保有すると、事業のサイズが変わります。

 美容市場は本当にレッドオーシャンです。一度のヒットが大ヒットへとつながります。ビューティースタートアップはみんな同じ気持ちで参入しています。しかし、私たちは違います。誰も触れていなかった市場に入っていきます。このブランドのターゲットとコンセプトはきちんと売れば50億ウォン(約5億円)くらいになると仮定しています。そうすれば、大企業とほとんどのビューティースタートアップは、該当ブランドや製品を全く作らなくなります。広告に数百億ウォン(約数十億円)使わなければいけなくなりますが、そうすると損益計算すら合わなくなりますから。

 Beaubbleは歯を食いしばって参入していきます。 このように複数のブランドを保有しているため、Beaubble自体がインディーズビューティーブランドのプラットフォームになることも可能でしょう。多くの消費者のデータがプラットフォームに集まり、新しいブランドも立ち上げることができ、プラットフォームにアクセスした消費者は他のブランドを知ることもできます。美容に関連するすべてのデータがプラットフォームに集まったら、力はより強力になります。今、米国では消費財領域への投資はほとんど執行されていません。昨年からです。実際のところ、不況の前兆だったのです。それでも昨年資金調達できた理由はこのようなビジョンをお話したからでしょう」



-エンジェル投資家たちのリストにおなじみの名前が多いですね。

「イム:イ・ジェウンさんやダニエル・チューダーもRadishとBylineからの縁です。イ・ジェウンさんの場合はチューダーを通じて私が創業するという話をお聞きになり、事業アイテムというより創業チームとこれまでの縁を考えてくださったようでした。

いつかぜひジャーナリズムスタートアップとして再び創業したいです。当時RadishとBylineの仮説もジェウンさんから得たのです。ジェウンさんの言葉のように、ジャーナリズムとメディアには新しい代替案が必要です」


-キム・ジョンジュ代表から貰ったアドバイスの中で記憶が残っているものはなんですか?

「イム:チョンジュさんはいつもお金を稼ぐことの核心は『やりたくないこと』をすることだと言っていました。1度初期メンバーの1部をリストラし、場所も移さなければならない、そんな複雑で冷たい決定を下さなければならない状況になりました。

私が決定を下し、それを報告すると、チョンジュさんから『事業する準備がやっとできたな』と言われたんです。今はその言葉がどういう意味だったのか、分かる気がします。

毎回『いや、小学生もロケットを打ち上げる時代にまくしたてることだけで創業しようとするな。きちんとお金を稼ぐことを考えなさい』と、『お金を稼ぐ工夫をしなさい』と小言を言われました。

今になってその意味が分かりました。お金が稼げず、会社が大変な状況になれば、創業時には熱かった友情やすべてが1度に崩れます。結局お金を稼ぐと会社がうまくいき、みんなが幸せになります。お金を稼ぐという考えを怠ってはいけないというアドバイスを、最近は1番思い出しますね」

「ソ:ゴキブリの話をよくされました。事業はゴキブリのように耐えることが核だ、と。ビジネスというのは外から見えるほどエレガントなものではなく、核はゴキブリのように這ってでも今を乗り越えることだと仰っていました」

キム・ジョンジュ代表がイム・ジュニョン代表に送ったメールの一部。 /イム・ジュニョン提供


-米国がターゲットなのに、あえて韓国にオフィスを置く必要があるのでしょうか

「イム:モバイルパフォーマンスとインフルエンサーコマースは、韓国が米国より3~5年ほど先を行っています。特にコマースにおける、ライブコマースの活発さにおいて、韓国は最も強力な国の1つです。

今米国ではTikTok、Metaなどの主要プラットフォーム企業がライブコマースを導入しようと努力していますが、進捗はほとんどありません。アメリカの多様な人種と背景、消費トレンドに合ったライブコマースがきちんと出てこなかったのです。

Kビューティーの人気、韓国ライブコマース興行の公式をアメリカで再現することが目標です。韓国型ビューティーライブコマースをアメリカで披露でき、アメリカの消費者を説得することさえできれば、ゲームが変わるはずです。はるかに市場が大きいので。ゲームチェンジャーになるのです」 

 「ソ:韓国ビューティーインフルエンサーとのコラボレーションも希望しています。来年ごろにはKビューティーをアメリカに披露する製品を出したいと考えています。毎晩、インスタグラムを見ながら希望するインフルエンサーとの作業を頭の中に思い浮かべています。

少女時代のテヨンさんは、パステルトーンが本当によく似合います。K-POPが連想されるようなパステルな色合いのブランドを出せば東南アジア市場で大ヒットしそうですし、IUは「私のおじさん」というドラマで荒っぽいメイク、適当に塗った感じでも、清楚でした。

キム・ナヨンさんは子育てされてるインフルエンサーなので子どもたちと一緒に使えるナチュラルな製品ブランドを出せばどうだろうか?こんな1人だけの想像をします」  

イム:「実のところ、この過程自体がジョンジュさんのアドバイスを取り入れたものなんです。本当にやりたいことは面白いプラットフォーム、だからテキストであろうと、ライブコマース動画であろうと、人々が集まって面白いコンテンツを消費できるプラットフォームを作ることが本当の夢です。

しかし、その前にお金になるビジネスを作ることを優先しなければなりません。化粧品も美容も詳しくないのですが、マーケティングとパフォーマンスを行っています。つまらないことを、つまらなくやってでも今日を積み重ねていこう、というアドバイスのように」

夫婦に送ったキム・ジョンジュ代表の別のメール/イム・ジュニョン提供

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