企画記事

【02】サービスローカライズの話| 韓国在住エミカの「ちょっとまじめな」韓国スタートアップの話

アイキャッチ
目次

サービスローカライズの話 

 こんにちは、韓国ITスタートアップで働くエミカです!

先月から始まりました連載第2弾!韓国在住エミカの「ちょっとまじめな」韓国スタートアップの話、2回目のテーマは「サービスローカライズの話」です。

元々韓国のサービスだったSpoonを、どうやって日本進出させたのか?について過去を振り返りながらお話ししてみようかなと思います。

 

1.ローカライズってそもそも何?

「ローカライズ」ってそもそも何を指すんでしょうか?定義を調べてみたところ、「製品やサービスを、別の国や地域でも受け入れられるように最適化すること」と出てきました。

この中でもポイントは『受け入れられるように最適化』という点だと思います。単純に意味を理解できる状態にするだけではなく、それを自然に受け入れられる、違和感を全く感じない状態にすることが必要です。単純に言葉を翻訳することだけを指すのではなく、異なる文化的背景で生まれたサービスを別の文化に馴染ませるイメージです。

私が日本進出の準備をする際に決めたローカライズの基準は「初見のユーザーがサービスを見て、日本企業が作った日本発のサービスと感じられる状態にする」というものでした。

「日本語で表示さえされていれば余裕では?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、日本語の表示一つをとってもォント文字の太さ改行の位置、などなど違和感に繋がるポイントは多数あります。

仮に全く同じ文章だとしても、下の図を見ると右と左で違和感を感じるグループが明確にあるのではないでしょうか?

 

 

なんでそこで改行?何その漢字?といった小さな違和感が積み重なることで、「日本で作ったサービスではなさそうだな」という認識になることが容易に想像できたのではないでしょうか?

こういった小さな違和感を一つずつ取り除き自然に受け入れられる状態にしていく作業、それがローカライズです。

  

2.ローカライズ、具体的にどんな作業をするのか?

 私がSpoonで実施したローカライズについてもう少し噛み砕いてご紹介していこうと思います。


■サービス内外の翻訳

これは上記でも既に述べた部分に繋がりますが、翻訳がローカライズの全てではありませんが、ローカライズ成功の鍵を握る非常に重要な要素であることは間違いありません。

新規ローンチをする際は、サービス名、キャッチコピー、アプリ内の様々な機能名から、利用規約など本当に様々な翻訳対象があります。

入社日に「これ全部翻訳してね」と数千行を超えるリストが掲載されたスプレッドシートを渡されたことを今でも鮮明に覚えています。

現在はすべての翻訳をネイティブが担当していますが、リリース当初はスケジュールとリソースに制限があったため、優先順位の緩急をつけて日本人の私が一次翻訳から行うものと、日本語が流暢な韓国人メンバーが一次翻訳を行い私が手直しをするものにわけて実施をしました。

特にサービスのキャッチコピーは、多くの人の目に触れる非常に重要な部分ですので、こだわり抜いて時間をかけた部分です。

当時の韓国Spoonのキャッチコピーは「당신이 듣고 싶은 모든 이야기」というものでこれは直訳すると「あなたが聞きたいすべての話」となり、意味はわかるものの日本語的にはグッと心掴まれる文章ではありませんでした。

何度も何度もアイデア出しを行い、「声で繋がるスプーンラジオ」というコピーにたどりついた時の「これだ!!!」感は今も忘れられません。ピッタリじゃないですか?

 

■UIUXの調整

リリース当時こだわったのは、ソーシャルログインの追加です。

元々のバージョンではFacebookログインのみ提供されていたのですが、私は日本市場での想定ユーザーはFacebookよりもTwitter上に多いと踏んでいました

加えてビジネス感があり、本名を前提とするサービスであるFacebook。そのソーシャルログインだけを提供するのは、匿名性を特徴とするSpoonともあまり合わないとも感じました。

韓国ではあまり利用ユーザーが多くなくニッチサービスの扱いを受けていたTwitterでのソーシャルログインの提案に、社内は当初猛反対。それでも説得に説得を重ね導入し、今では日本サービスで最も利用されているログイン方法です。

 

■サービス内アイテムの現地化

Spoonのサービス内には有料の応援アイテムがいくつかあります。そのデザインも日本ユーザーにとって違和感がなく、使ってみたいなと思えるデザインに変更することにもこだわりました。

デザイン全てを変更することはできないため、ある程度問題がないものはそのまま利用、共感が難しいアイテムは除去、日本らしいアイテムを追加でデザイナーに制作してもらいました。

例えば、韓国ではチキンを日常的によく食べるのでチキンデザインのアイテムがあったのですが、日本ではそのアイテムを寿司、ラーメンのアイテムに置き換えました。

「何これ?」と感じる回数を減らすことは、ローカライズの基本的な作業の一つです。

 

■法的な整備

当然ですが国によって法律は異なります。競合サービスを調査し、必要なページの作成やサービス内制度の調整を入れました。一度サービスを始めてしまうと変更が難しい部分も多いので、事前に丁寧に時間をかけ実施した部分でもあります。

 

■運営するSNSの選定

公式SNSの運営をどのプラットフォームで行うかも重要なポイントです。韓国企業はInstagramをよく運営するということもあり、日本でもInstagramの運用実施を提案されました。それ自体はもちろん可能です。実際日本でもInstagramの公式アカウントを運営する企業は多いので。

ただリリース当初の少ないリソースをわざわざ投資してまでSNSを運用するのなら、最大限の効果を出せるのはサービスの特性上Twitterだと判断し、Twitterを開設しました。

言われた環境や方法内でローカライズを徹底的にこなすことも重要ですが、そもそもその環境で戦うべきなのか、もっと優先順位が高い方法をネイティブの自分だからこそ知っているのでは?と根本から思考する意識が非常に重要だと思っています。

 

3.ついにリリース、日韓の違い

さまざまなローカライズ作業を実施し、期待と緊張の中ついにリリース。

全く同じ機能をもつサービスにも関わらず、文化的背景の違いなどから、各国ユーザーの活用の仕方は全く異なっていたのがとても不思議でした。

顔を見せず声だけで配信できることへのメリットの捉え方が日韓で異なっていました。

韓国ユーザーは顔写真をみせ、日本ユーザーはイラストなど自分自身の顔写真ではないものを使用することが多いです。

つまり韓国は、顔を見せることに抵抗はないがリアルタイムの自分(=すっぴんだったり、ベッドでゴロゴロしていたりするオフの姿)を見せたくはなく、一番盛れている時の自分だけを見せることができることに良さを感じていて、日本は自分自身の姿を晒さずに済む(=プライバシーを守れる)ことに良さを感じているということです。

 

4.日本チーム長として

 一度リリースをすれば終わりのような気もしますが、むしろここからが始まり。

アプリのアップデートのたびに新しい機能が追加され、過去の翻訳と違和感のない翻訳にするためにはたった一言の翻訳にも神経を尖らせます。

日本語がわからない社員が、「一言だけだからまぁいいか」と翻訳依頼をせずに翻訳機を使って勝手に翻訳作業を実施してしまうといったことが発生すると、たった一言でも違和感のきっかけになってしまったりします。

逆に日本語ネイティブメンバーが増えた時も要注意です。統一して使っている言い回しを別の日本語で表現してしまう可能性があるからです。

日本チームのリーダーとして、ローカライズの重要性を社内に浸透させていくことは重要な業務の一つです。サービスの統一性は小さな積み重ねから生まれると信じています。 

そこまでこだわるのか?という小さな点まで全てこだわった結果、サービスのリリース当初、日本のあるスタートアップの方が「日本発のサービスで、こんな面白いサービスが出てきたとは」といった趣旨のツイートをしているのを拝見し小さくガッツポーズをしたのはいい思い出です。

また、日本のさまざまな企業様とオンライン打ち合わせをする際に、自分が韓国から参加していると伝えると毎回驚かれ、それだけ日本のサービスとして認知されていることを実感でき嬉しい瞬間です。

  

エミカの韓国トピック!∼超大型ライアン&チュンシク ∼

 ヨイドにある더현대서울(ザ現代ソウル)というデパートで行われていたカカオフレンズのライアンとチュンシクの展示をご紹介します。

元々、各種動画プラットフォームでライアンとチュンシクがK-popアイドルのダンスをカバーをしている動画が人気でした。

そして今回、その2人(2匹?)が新しいカバーダンス動画が公開されたことを記念して、まるで本物のK-popアイドルがカムバックをしたかのような展示が行われるとのことで見に行ってきました。

超大型ライアン&チュンシクがお出迎え。(マジででかい・・!)

 

アイドルの待機室、アイドルがファンたちに振る舞うプレゼントのようにパッケージされたグッズ、ペンラ(ペンライト)の形のうちわ、ファンが用意した地下鉄広告風のポスターなどなどディテールへのこだわりがぎっしり。

グッズをもらうにはYoutubeアプリでの動画の再生が必要など、しっかりとエンゲージメントにつなげているところはさすがというしかありませんでした。

世界観の作り込みの深さが、ファンの没入の深さに繋がっている素晴らしい事例だと思い、ご紹介しました。期間限定のため、直接見にいくことは難しいかもしれませんが #라춘컴백쇼  とInstagramで検索すると展示の様子がたくさん画像が上がっているので気になる方はチェックしてみてくださいね。



川村絵美香(かわむら・えみか)‐Spoon Radio ジャパンカントリーマネージャー

 <SNS・ブログ>

Twitter:https://twitter.com/by_emika

ブログ:https://monika-kj.hatenablog.com/

韓国のIT事情や、韓国で働く生活を紹介するブログを運営しています。


◆関連記事


【01】カントリーマネージャーって何をしているの?| 韓国在住エミカの「ちょっとまじめな」韓国スタートアップの話|韓国のIT&スタートアップ業界専門メディア「KORIT」

私は今、Spoonという音声配信アプリを運営している韓国のITスタートアップでジャパンカントリーマネージャーというポジションで働いています。一言でカンマネと言っても会社によってその定義は様々だと思うので、「こんなパターンもあるんだな〜」と参考程度に読んでいただければ幸いです。

korit.jp

og_img

韓国ITスタートアップ企業で働く日本人‐Spoon Radioジャパンカントリーマネージャー川村絵美香さん|韓国のIT&スタートアップ業界専門メディア「KORIT」

早稲田大学社会科学部卒業。2014年ヤフー株式会社に新卒で入社。アプリ運営や新規事業の立ち上げに携わった後、留学のため渡韓。渡韓中の2018年にSpoon Radio Inc.に日本人第一号社員として入社。Spoon日本サービスの立ち上げから携わり、現在はSpoon Radio ジャパンカントリーマネージャーを務める。

korit.jp

og_img


◆過去の連載「韓国在住エミカの韓国スタートアップレポート」


#1 韓国スタートアップで働くとは|韓国在住エミカの韓国スタートアップレポート|韓国のIT&スタートアップ業界専門メディア「KORIT」

#1 韓国スタートアップで働くとははじめまして。韓国のITスタートアップで働くエミカです。日本の大企業に通う社会人の生活を飛び出し、韓国で生...

korit.jp

og_img


/media/川村絵美香
記事を書いた人
川村絵美香

早稲田大学社会科学部卒業。2014年ヤフー株式会社に新卒で入社。アプリ運営や新規事業の立ち上げに携わった後、留学のため渡韓。渡韓中の2018年にSpoon Radio Inc.に日本人第一号社員として入社。Spoon日本サービスの立ち上げから携わり、現在はSpoon Radio ジャパンカントリーマネージャーを務める。

関連記事

  • ホーム
  • 企画記事
  • 【02】サービスローカライズの話| 韓国在住エミカの「ちょっとまじめな」韓国スタートアップの話