本記事では、韓国観光公社の「2026観光プラステックブリッジプログラム」に選定されたTownzをご紹介します。

「2026観光プラステックブリッジプログラム」は、技術企業の観光分野への事業拡大を支援する観光事業化支援プログラムです。韓国の国家研究開発事業(R&D)への参加実績を持つ企業の中から、人工知能、スマートモビリティ・航空・交通、フィンテック、持続可能な観光の4分野で有望企業が選定されています。


チェ・ユンジン代表

韓国の中央大学校で自動車デザインを専攻し、2009年に世界的なタイヤメーカーである韓国タイヤに入社。先進的なプロジェクトを数多く主導し、コンセプトタイヤを起点とした未来のモビリティサービスの企画や、エアレスタイヤの開発などに携わった。これらの取り組みを通じて、iFデザイン賞やレッドドット・デザイン賞など、国際的なデザイン賞を多数受賞した。

その後、韓国タイヤの社内ベンチャー制度を活用し、P2Pカーシェアリングサービス「Towncar」を提案・事業化して創業。韓国初の政府承認P2Pカーシェアリングプラットフォームとして、累計90億ウォンの投資を獲得した。モビリティ分野における革新的な取り組みが評価され、国土交通部、科学技術情報通信部、中小ベンチャー企業部の各長官表彰を受けた経歴も持つ。


会社を設立されたきっかけを教えてください。

Townzは、自家用車をレンタルするTowncarというサービスを提供している会社です。私がこの会社を設立したきっかけは、自身の経験でした。

ご存じの通り、韓国にはアパートがとても多く、特に新しく作られた都市にはアパートが密集しています。私も結婚して新婚生活をアパートで始めましたが、我が家には車が1台しかありませんでした。子どもが生まれ、1台では不便だと感じるようになったものの、もう1台購入するのは負担が大きい。そんな悩みを抱えていた平日のある日、通勤しようと駐車場へ降りてみると、ほとんどの車が駐車されたままであることに気が付きました。

車を持っている人でも、朝の渋滞やオフィス近くの駐車場不足などの理由で公共交通機関を利用して通勤していることが多く、会社員が持つ車の多くは、平日は駐車場に置きっぱなしになっているのです。

負担に思いながらも、必要だからと買ったはずの車なのに、駐車場に置きっぱなし。そんな光景を目にして、すごくもったいないと思いました。そして、こうして置いてあるだけの車を、自分が使わない時には近くに住む人に貸すことができればいいのではないかと考えたのです。

もともと自動車には関心があって、大学では自動車デザインを専攻していました。ですが、車をスタイリングすることよりも、車を通じて新しいライフスタイルを創り出す仕事、いわゆる「モビリティ」に挑戦したいと思うようになりました。その思いを形にしたのが今の事業です。Townzを通じて自動車のさまざまな活用方法を提供し、人々の新しいライフスタイルを創り出しています。

他社にはない強みや、利用者の反応について教えてください。

一番の特徴は、「近所の人同士」で車を共有するという点です。韓国では、これまで個人での車の貸し借りはかなりタブー視されてきました。車の貸し借りというアイデア自体は特別なものではありませんが、そうした文化があるため、これまで挑戦できなかったのだと思います。そこで、車の貸し借り以外にも顔を合わせる可能性のあるご近所同士であれば、車を清潔に、マナーを守って、何より安全に使おうという意識が高まるのではないかという仮説を立てました。実際これまで多くの方に安全に、満足してご利用いただいてきました。

また、企業が所有する車ではなく個人の車を共有するため、一般のカーシェアやレンタカーと比べて、車種が多様で普段は中々乗れない車にも出会うことができます。現在Towncarに登録されている車両の約半分は電気自動車で、その中でも近年注目を集める自動運転(FSD)が使えるテスラなども登録されています。

アイデアこそ近所の人同士での車の貸し借りから始まった事業ではありますが、実際には近所に住んでいなくても車のあるところまで行けば自分の借りたい車を借りることができます。また、少し遠くても自分の車に乗って行って、借りる車が置いてあった駐車スペースを利用できるので、車を乗り換える形での利用も可能です。

そのため、大人数で乗れる車を借りたい、荷物をたくさん積みたいといった一般的なレンタカーによくある需要だけでなく、電気自動車や自動運転機能などを試してみたいといった、Towncarならではの需要にもお応えできます。特にテスラは実店舗が少なく試乗の機会が限られるため、購入前にじっくりと試乗したい、オーナーの話を聞きたいという理由で借りる方も少なくありません。

実際に私も、先日の出張では自分の車から乗り換える形で、Towncarで自動運転ができる車を借りて行きました。片道5時間という長距離移動でしたが、自動運転のおかげでゆったりと移動できました。

地図上で借りれる車の台数や位置を確認できる

もちろんオーナーにとっても、Towncarは車を貸して収入を得る一種の事業として大きなメリットがあります。特に、何度も同じ車を利用するリピーターをつくることで案内を省略でき、借りる側が車に慣れることで事故率が減るため、皆さんリピーターをつくりたいと考えます。その結果、車内を清潔に保つのはもちろん、ホテルのアメニティのように飲み物やちょっとしたお菓子などを用意してくださることもあります。

レビューに関しても、特典を用意しているわけではないのに皆さん長文で丁寧に書いてくださいます。単純に「車が良かった」という感想よりも「オーナーがとても親切だった」「車内がいい匂いで心地が良かった」といった声が多く、「またこの車に乗りたい」「自分だけの秘密にしておきたい」などの気持ちのこもったレビューも目立ちます。スポーツカーを借りたら子どもがすごく気に入ってくれたという感想や、体の不自由なご両親と一緒に快適に移動できたというお話もあり、利用者それぞれの目的に合わせて自由に使っていただいていることが分かります。

日本市場をどのように見ていますか?

一度、市場調査のために日本を訪れました。日本は世界有数の自動車大国で、子どもの頃から日本車が大好きだった私にとっては憧れの国でもあります。日本でのカーシェアについて調べる中で、私たちと似た個人間カーシェア「Anyca(エニカ)」があったことを知りました。2024年末にサービスを終了してしまったようですが、日本も韓国と同様に規制が厳しいと感じました。

近年韓国人の中でも人気が高まっていますが、日本は諸外国から観光地としての注目度が高く、レンタカーを利用されている方も多いです。ただ、北海道や沖縄のようにレンタカー需要・供給共に高い地域がある一方で、それ以外の地域では外国人がレンタカーを借りられる場所があまり多くありません。そこで、観光とカーシェアを掛け合わせ、日本のオーナーが友人のような旅行ガイドとして、一緒に案内するのはどうかと考えています。韓国では「ご近所さん」、日本では「親切な観光ガイド」というコンセプトです。

弊社のサービスについて、よく「車版Airbnb」と紹介するのですが、実際の民泊とは大きく違う点があります。それはリピート率です。旅行の場合一度訪れた旅行先を何度も訪れることは多くないですし、同じ旅行先を選んだとしても、2回目には別の施設を利用することが多いと思います。

ですが、Towncarでは手軽に近所の車を借りることができるという最大のメリットを活かし、何度も同じ車を借りる方がとても多いです。そこで、オーナーと親しくなり、車にも慣れ、顔見知りの車だからきれいに使うという良い循環が生まれます。

つまり、Towncarは利用者にとってもオーナーにとってもメリットのあるカーシェアなのです。

オーナーの収益や、電気自動車の多さも特徴的ですね。

Towncarを始めてほぼ5年になりますが、今年が一番変化の大きい年だと感じています。自動運転技術が急速に発展し、テスラが自動運転タクシー「Cybercab(サイバーキャブ)」を発表したことで、モビリティを取り巻く世界的な流れが一気に変わりました。イーロン・マスクは「オーナーが乗らない時は、車が外に出て稼ぐべきだ」と語っています。この考え方が広まってから、車の所有に対する見方も大きく変わったように思います。

私たちは毎月、オーナーの収益ランキングを発表していますが、先月の1位は1台で700万ウォン(約810,000円)、平均でも90万ウォン(約10,4000円)程でした。車選びを適切に行い、しっかりとしたメンテナンスを行うことで、月500万ウォン以上も十分に狙えます。また、一般的な株式投資よりも収益性が高く、株やビットコインと違い車という資産は手元に残り、いつでも売ることができるという点も大きなメリットだと言えます。

車両の半分が電気自動車という点もTowncarの大きな特徴です。このようなカーシェアサービスは、世界的に見てもほとんどないと思います。一般的なレンタル業者では少なくとも数十台を管理するため、一台一台を充電することが大きな負担になります。ですが、Towncarではオーナーが自分の車一台だけを管理し、多くの方が充電設備の整った住宅に住んでいます。さらに、エンジン車はオイル交換や冷却水の補充など整備の手間がかかりますが、電気自動車はタイヤ交換くらいで済みます。個人の車を共有するTowncarだからこそ、電気自動車を無理なく運用できるのです。

今後の事業計画やビジョンを教えてください。

自動運転車は今後さらに増えていくと確信しています。テスラだけでなく、シャオミやLi Auto(リ・オート)、Zeekr(ジーカー)など、中国にも優れた車が数多く登場しています。運転したくない時に自動運転車を借りられれば、事故も起きにくく安全ですし、オーナーもより多くの収入を得られます。自動運転車を中心に、誰もがもっと簡単に移動できるようサービスを広げていきたいと考えています。

そしてもう一つ、私たちにとって何よりの資産は車両オーナーの皆さんです。自動運転が普及すれば、移動中に車の中で何をするかが重要になります。本の貸し出しやマッサージ機など、車という空間で快適に過ごせる付加サービスを提供できる商品も検討しています。

さらに、最近はすでに移動という観点を超えて、漢江(ハンガン)の駐車場でトランクを開けてピクニックを楽しんでいる人もいます。電気自動車はエンジンをかけなくてもエアコンが使えるので、後部座席をベッドのようにして休んだり食事をしたりして楽しんでいるんです。そうした楽しみ方のための用品を、提供しているオーナーもいらっしゃいます。

最後に、事業を取り巻く環境について教えてください。

実は韓国でも、個人の車を貸し出すことはまだ合法ではなく、多くのスタートアップが規制の狭間で苦労しています。そこで活用しているのが、韓国の「規制サンドボックス」という制度です。

これは、まず一時的に事業を許可し、蓄積したデータを政府に提出することで、それをもとに法の制定や改正を進めるといった仕組みです。私たちは現在この制度のもとで個人間カーシェア事業を行っている唯一の企業で、いわば韓国政府と一緒に法律をつくり変えているところです。

また、韓国最大の保険会社であるサムスン火災が株主として出資し、私たち専用の保険を作成してくれたため、補償も非常に手厚くなっています。保険会社が株主として参画していること自体が、私たちの事故率の低さを示す何よりの証拠だと思っています。

車の種類や自動運転技術、そしてモビリティの捉え方そのものが大きく変わりつつあります。そんな時代だからこそ、車を大切にするオーナーの皆さんと、車を必要とする人とをつなぐことで、車とともに歩む新しいライフスタイルを提案し続けていきたいと思います。