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韓国リーガルテックの成長、このままで大丈夫なのか?Part5|リーガルテック徹底分析

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リーガルテックは世界的に急速に成長している分野です。 市場調査機関の「CBインサイツ(CB Insights)」が集計した昨年の結果によると、リーガルテック分野におけるグローバル投資規模は2016年の約2億ドル(約226億円)から2019年には約16億ドル(約1,806億円)程度で、年平均81%の増加を見せました。また、「トムソン・ロイター(Thomson Reuters)」などによると、英国においてリーガルテック・スタートアップに投資された金額は、2019年に、2億6000万ユーロ(約340億円)に達したと推定されています。 グローバルの主要企業としては、米国のオンライン法律相談、弁護士選任サービスの「リーガルズーム(LegalZoom)」「アボドットコム(Avvo)」などがあり、また、カナダを拠点にしている「クリオ(Clio)」のように、企業価値10億ドル以上と評価されているユニコーン企業もいます。ただでさえ成長していた市場が、コロナ感染拡大をきっかけに、さらに成長の勢いが強まったという見方をされています。


一方、韓国ではグローバル市場の成長のスピードに追いつけずにいます。韓国は、2015年から2020年上半期までのリーガルテック分野の投資規模は累積1200万ドル水準(約1億4千万円)であり、まだ規模が小さいです。エルボックスを含め、30社余りのリーガルテック企業があると述べましたが、皆まだよちよち歩きの段階で、 韓国のリーガルテックの成長段階について専門家は「初期段階」と口を揃えています。

あるリーガルテック企業のイ代表は「以前から電子技術を活用した法律サービスは数多くあったが、リーガルテックが本格的に議論されるようになったのは『アルファ碁とイ·セドル九段の対局』が話題になって、人工知能に対する大衆的関心が2016年頃から高まった」と説明しました。 また、イ代表は「今は当時から既に5年ほど経っているが、弁護士仲介プラットフォームなどの一部サービスが弁護士法に違反するのではないかという論議で難航するなど、様々な限界に直面していることから、韓国のリーガルテック水準は未だに初期段階にとどまっている」と述べました。

このように韓国は法律に関する規制が厳しいことが、リーガルテック産業の発展の妨げになっています。弁護士は公共性と倫理性を追求すべき職業であって、その弁護士としての職務を全うするための厳格な法律と規制が弁護士法によって定められています。

代表的な例としては、弁護士法に「ブローカー禁止条項」があります(弁護士法第34条1、2項)。弁護士及び非弁護士ともに、金品などの利益を得て依頼人や弁護士を紹介する行為(「事件を斡旋するブローカー」の行為)を禁止するというものです。 

この条項によって営利目的で弁護士を紹介することが制限されますが、その一方で、この条項がない場合の弊害も考えなくてはいけません。斡旋が認められる場合、バックマージンなどの裏取引が横行する可能性がありますし、また、斡旋料目的で事件数を増やすための手段に集中する弁護士も現れるかもしれません。このような不健全な過度な利益追求行為を防止するために「ブローカー禁止条項」が存在します。

また、「非弁護士の法律事務禁止条項」(弁護士法第34条5項)があります。弁護士ではない者が、弁護士業務つまり法律事務をしてはならないという条項です。弁護士でない者が勝手に他の人に対して法的に問題があるかどうか診断してはいけないということです。

「マネーバック(MoneyBack)」のパク代表と「インテリコン(Intellicon)」のイム代表は、このような各種規制が国内のリーガルテック市場の成長を妨げていると吐露しました。 弁護士法第34条は、仲介手数料を取る法曹ブローカーを防ぐ役割をしていますが、その一方でリーガルテック産業が活発になるにつれ、技術発展を妨げているとも言われています。 

また、韓国のリーガルテック産業の成長が遅いもう一つの要因として、「判決文データ」のような法律関連データを確保することが難しいことが挙げられます。リーガルテック事業においてAI学習は必須です。AI学習のためには、大量の法律関連データの確保が不可欠となりますが、十分な量のデータが公開されていないという問題が存在します。

韓国では総合法律情報システムを通じて閲覧可能な判決文が、最高裁の判決全体の約3.2%、下級審判決の約0.003%に過ぎません。一方、 リーガルテックの先導国である米国や英国などは、基本的に全ての判決文を直ちに実名公開しています。韓国国内の判事は判決文の公開拡大に反対の立場を示しています。 クム·テソプ元議員が第20代国会の際に提出した報告書によると、2019年基準で、弁護士のうち94%が判例公開に賛成したものの、判事の78%は反対したとされています。

反対の理由としては、「個人情報漏洩のおそれ」「無罪推定の原則毀損」「非実名化作業に多大な費用が費やされる」「判例の偽変造のおそれ」などが挙げられました。


このような法律と規制、難しい環境が存在するにもかかわらず、韓国の小さな市場の中でも成長している企業はあります。 しかし、より一層リーガルテック事業を成長させるためには、このような規制を緩和する必要があるのではないかと思います。

そして、それが現在韓国のリーガルテックの最大の課題だと思われます。 法律や規制によりまだ困難な分野が多いリーガルテック市場ですが、困難だということは、裏返せば、機会が多いという意味だと言えます。 今後、韓国でまたどのようなスタートアップが登場していくのか、リーガルテックをどう革新していくのか、今後の韓国のリーガルテックに期待したいと思います。


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