T-money、進化の現在地
韓国を訪れたことのある人ならば、誰もが一度は利用したことがあるであろう「T-money(ティーマニー)カード」。
日本のSuicaやPASMOに当たるT-moneyカードは、地下鉄やバスで利用される韓国の交通系ICカードです。バスや電車の乗降をスムーズにするだけでなく、乗り換え割引といった制度によって交通費の節約にも貢献してきました。

様々なキャラクターとコラボレーションしたカードも発行されている。/公式Instagramより
しかし、今やT-moneyは、もはや単なるプリペイドの交通カードではありません。韓国スマートカード株式会社が運営するT-moneyは今、モバイル決済技術と最先端のモビリティサービスを統合し、急速なデジタル変革を進めています。
本記事では、T-moneyが主導する韓国の公共交通機関における最新の動向、特にiPhoneユーザーの利便性を左右するApple Pay連携の行方、そしてカード不要の乗車を実現する「タグレス」システムなど、今年大きな話題となったT-moneyの動向についてまとめていきます。
デジタル変革の波:モバイルとApple Payの行方
T-moneyが主導するデジタル変革の波の中で、最も大きな関心を集めているのが、Apple Payとの連携です。

今年7月Apple Payを通じての利用を開始したT-money/公式Instagramより
📱 注目の動向:Apple Payとの公式連携への期待
T-moneyにおいて、iPhoneユーザーの交通決済における利便性に関しては長らく大きな課題となっていました。
日本では、iPhoneやApple Watchを改札にかざしてそのまま通過することが当たり前になっています。一方で韓国では、独自の交通決済規格などの制約から、galaxy端末には対応しているものの、apple社製品ではT-moneyを利用することが難しい状況が続いていました。
ですが、今年、ついにこの課題に大きな動きが見られました。T-moneyシステムを提供する韓国スマートカードとAppleが、Apple Payとの連携を実現するための技術的な協議や準備を進めていると発表、iPhoneユーザーもApple Payを通じてT-moneyの利用が可能になったのです。
▶︎この記事を読む『Apple Payでバスに乗る…韓国上陸から2年、T-moneyと連動』
▶︎この記事を読む『T-money、Apple Pay支援開始···iPhone·Apple Watchで公共交通機関利用可能へ』
📌 この連携と国際化がもたらす「利便性の飛躍的向上」
T-moneyシステムと国際的な決済プラットフォームの連携は、特に外国人観光客の障壁解消に直結します。
- 外国人観光客の障壁解消: ソウル市は、短期的施策として、今年末までに地下鉄の新型キオスクで海外のクレジットカードを使って交通カードをチャージできるようシステムを改善する計画です。さらに、iPhoneユーザー向けには、Apple Pay経由で海外のクレジットカードを使ってT-moneyを充電できる機能が年内に追加される予定です。
これにより、外国人観光客は韓国到着後に現金で交通カードをチャージする手間がなくなり、使い慣れた決済方法で移動が可能になる道筋が示されています。
国際標準化の動き:オープンループ決済の導入
Apple Pay連携の動きと並行し、ソウル市は交通決済システムの国際標準化という、さらに大きな一歩を踏み出しています。
💳 2030年までの目標:海外クレカでバス・地下鉄乗車が可能に
ソウル市は2030年までに、国際標準であるEMV(欧州・マスター・ビザ)規格基盤の「オープンループ交通決済システム」を段階的に導入する計画を明らかにしました。
「オープンループ決済」とは、T-moneyのような特定の交通カード(クローズドループ)を介さず、利用者が持っているVisaやMastercardといった海外のクレジットカード(EMVコンタクトレス対応)を直接、改札機やバスの端末にタッチして利用できるようにするシステムです。
このシステムが完全に導入されれば、外国人観光客は韓国到着後、別途交通カードを購入したりチャージしたりする手間がなくなり、海外で普段利用しているクレジットカード一枚でソウルの公共交通機関を利用できるようになります。
ソウル市は、2025年から2026年にかけてバス端末への認証モジュール設置、2027年に地下鉄端末の交換を進めるなど、観光都市としての競争力向上を目指し、中長期的なインフライノベーションを推進しています。
▶︎この記事を読む『ソウル市、2030年までに「オープンループ交通決済」全面導入…海外のクレジットカードで地下鉄・バス利用可能に』
モビリティ体験の革新:MaaSと「タグレス」システム
T-moneyは、ソウル市が推進するMaaS(Mobility as a Service)戦略の中核を担っています。利用者のデータを統合し、移動の計画から決済までを一元的に提供するMaaSの実現に向け、T-moneyの技術が活用されています。
🚌 新たな乗車システム:「タグレスバス」の登場
さら注目したいのが、カードやスマートフォンをタッチすることなく乗降が可能な「タグレス(非接触)バス」の実証実験についてです。
これは、専用アプリをインストールしたスマートフォンを持って乗車するだけで、乗降時に自動的に認証・決済が完了するシステムです。利用者はスムーズに乗降できるだけでなく、両手が荷物で埋まっている場合や小さな子供を連れている場合など、様々な状況で役立ちます。
また、タグレスシステムの導入によりT-money側は詳細な移動データをリアルタイムで収集でき、これによりバスの運行経路の最適化や混雑緩和、さらには事故予測までが可能になると期待されています。このタグレスシステムは、究極の利便性とスマートシティの実現に向けた重要な一歩と言えます。
▶︎この記事を読む『ソウル市内バスに「タグレス決済」導入』
まとめと今後の展望
🚃T-moneyは「未来のインフラ」へ
T-moneyが現在進めている様々な取り組みは、単なる利便性の向上に留まりません。その根底には、ソウルを「国際標準に適合したスマートな観光都市」へと進化させるための長期戦略があります。
🔑 これから注目すべき「三つのキーポイント」
今後のT-money、さらに韓国のモビリティ動向を追う上で、注目すべきポイントは以下の三点です。
- 「オープンループ」の展開: 2030年までの目標達成に向けたバス・地下鉄端末の交換スケジュール。これにより、韓国が国際的な交通アクセス性をどこまで高めるか。
- 「Apple Pay連携」の浸透: 韓国国内のiPhoneユーザーの利便性を飛躍的に高める、公式連携の実現時期と、海外クレジットカードによるチャージ機能の提供による利用者の拡大。
- 「タグレス」システムの全国展開: 実証実験段階にあるタグレス決済が、ソウル市や他都市の公共交通機関にいつ、どのように拡大・定着していくか。
T-moneyの進化は、単なる移動手段の利便性向上に留まらず、スマートシティの実現に向けた可能性を象徴しています。
今後も同社の戦略と技術的発展に、引き続き注目していく必要があるでしょう。

