💡このレポートで得ることができる3つのインサイト

投資動向:低迷期を経て下半期に「V字型の回復」を遂げた2025年の市場の流れと、政策面での変化を読み解きます。
主要分野:AI・ロボティクス・バイオ・美容など資金が集中した産業分野と、技術ドメイン別の代表企業の事例や投資段階別のポイントを整理します。
回収成果:厳しい市場環境の中でも実現した主なIPOやM&Aの事例を通じて、投資回収のトレンドを分析します。

1.2025年スタートアップの投資動向:低迷続くも下半期に回復の兆し

今年、全国の大学教授が選んだ四字熟語は「変動不居」でした。世の中は少しも止まることなく、常に変化し続け、一定の状態にとどまらないという意味を持つこの言葉は、2025年の韓国社会とスタートアップ生態系の姿をそのまま映し出しているようにも感じられます。

2025年は、政治的な不確実性が例を見ないほど高まる中、AI技術が急速に成長し、先行きを見通すことがこれまで以上に難しい一年となりました。AIが産業界全体に深く浸透するにつれ、革新への期待が高まる一方で、ビジネスとしての実効性を疑問視する声も強まりました。こうした技術をめぐる混乱は、韓国内外の政治的激動と重なって、市場の不安定さをさらに増幅させました。

経済指標を見ても、KOSPIとKOSDAQが下半期の短期間で記録的な上昇を記録する一方、高為替が続くなど、マクロ経済環境はこれまでにないほど複雑で異例の推移をたどりました。

このような激動の環境の中で、今年の韓国スタートアップの投資市場は、表面的には低迷が続いているように見えました。革新の森の投資データによると、2021年にピークを迎えた韓国スタートアップの投資は、その後、投資件数と投資金額の両面で今年に至るまで減少傾向が続いています。実際、IPOとM&Aに伴う投資額を除いた純粋なスタートアップ投資額は、前年の7.6兆ウォン(約8,034億円)から今年は6.6兆ウォン(約6,977億円)に減り、市場全体は縮小基調をたどりました。

しかし、年間の動きとは対照的に、四半期ごとでは市場の空気は大きく異なります。今年初めに韓国の基準金利が引き下げられたにもかかわらず、上半期には政治的不確実性とAI技術の変動性が重なり、スタートアップ投資に慎重な動きが強まりました。投資家が十分な確信を持てず、慎重な様子見姿勢に転じたためです。

転機は下半期に訪れました。新しい政府が安定的に立ち上がり、政策面の不確実性が解消され、スタートアップやディープテック分野に対する政府の強力な育成姿勢が、市場に新たな勢いをもたらしました。これにより、KOSPIとKOSDAQの株価指数が大きく上昇したことで、投資回収(Exit)への期待が高まり、下半期スタートアップ投資額は、前年同期と同水準を上回る小幅な増加を示しました。その結果、2025年のスタートアップ投資市場は、全体としては縮小傾向にあったものの、下半期からは回復の兆しを見せたと言えるでしょう。

2.今年の主な問題:AIブームと再び動き出すイノベーション

2025年初めの韓国社会で最も共有されたテーマは、政治的な不確実性そのものというよりも、国家競争力の基盤である「技術強国」としてのアイデンティティが根底から揺らいでいるのではないかという、より本質的な不安でした。こうした危機意識は、単なる心理的な萎縮にとどまらず、下半期に入ってからは、韓国のイノベーション生態系全体を改めて点検し、体質改善を促す強力な原動力として機能しているように見受けられます。

2025年の重要なテーマをひとつずつ振り返っていきましょう。2024年12月から2025年1月にかけて、トランプ政権の再発足により米中の技術覇権争いが一段と激化する緊迫した状況の中で発生した「DeepSeek(ディープシーク)・ショック」は、韓国経済と産業界に深刻な影響を及ぼしました。

中国のDeepSeekがNVIDIA(エヌビディア)の独占的地位を脅かしたことで、当時の世界市場に与えた衝撃は非常に大きなものでした。DeepSeekが新たな低コスト・高効率モデル(DeepSeek-V2、RQモデル)を公開した結果、1日でNVIDIAの株価は22%以上下落し、約800兆ウォン(約85兆円)以上の時価総額が消失するなど、市場は大きな動揺に包まれました。

<右>中国の習近平国家主席とDeepSeek創業者の梁文峰氏

特に韓国が直面した恐怖は、中国が米国を大きく下回るコスト構造にもかかわらず、圧倒的なAI技術力を実現していたという点でした。当時、マスコミと専門家たちは、世界的なAI競争という巨大な流れの中で、韓国が有意義な技術的成果を出せずに孤立している現実を厳しく批判し、このままでは永遠に競争から脱落しかねないという切迫した不安感を次々と表明していました。

今年大きな注目を集めたKBSドキュメンタリーインサイト「人材戦争:工学部に注力する中国」、「人材戦争:医学部に注力する韓国」は、KBSの公式YouTubeチャンネルに公開されてから5日で57万再生回数を記録し、多くの人々の関心を集めるとともに、起業・スタートアップ業界でも広く話題となりました。番組では、取材が厳しく制限されている清華大学の姚期智教授をはじめとする中国の著名な学者へのインタビューや、韓国の大学修学能力試験に相当する「高考(ガオカオ)」を準備する学生や保護者の姿が紹介され、科学技術をめぐる中国と韓国の対照的な姿勢が大きな反響を呼びました。
 

話題になったKBSドキュメンタリーインサイト「人材戦争:工学部に注力する中国と医学部に注力する韓国」シリーズ

また昨年から続いたTMON(ティーモン)・WEMAKEPRICE(ウィメプ)問題の余波が収まらない中、2025年上半期の韓国経済は内外の悪材料が重なり、深刻な内需低迷局面に入りました。対外面では、トランプ政権による相互関税の導入により輸出環境が急速に悪化し、韓国内では長期化する内需不振がそのまま実体経済の冷え込みにつながりました。大手流通企業であるHome plus(ホームプラス)の再生手続き申請や、映画館大手のMEGABOX (メガボックス)とLOTTE(ロッテ)シネマによる合併の動きは、こうした危機的状況を象徴する事例といえます。

さらに、ブランド品販売プラットフォームの一つであったBALAAN(バラン)も今年3月に企業再生手続きを申請しました。代表的な韓国のOTTサービスであったWATCHA(ワッチャ)も、昨年末から経営難に直面し、今年8月に再生手続きが開始されています。

一方で、こうした厳しい状況の中でも新たな機会は生まれていました。6月末に公開された「K-POP デーモン・ハンターズ」は、累計視聴回数が3億回を超え、NETFLIX史上最高のヒット記録を更新し、映画部門で1位を獲得しました。

そして「スパイシーチャレンジ」と呼ばれる韓国式の辛味ブームが2025年を通じて広がり、食品分野でも新たな需要を継続的に創出しました。市場調査会社のEuromonitor(ユーロモニター)によると、2025年の米国の小売市場における即席麺カテゴリーでは、売上高上位5ブランドの中に韓国ラーメンが複数入るほどの高い人気を集めたとされています。

こうした流れを追い風に、Kフード、Kビューティー、Kファッションなどの輸出は過去最高の実績を記録しました。三養食品や農心といった主要食品メーカーに加え、APR、d’Alba Global(ダルバグローバル)、SILICON2(シリコンツー)などの美容企業の株価も大きく上昇し、市場の注目を集めました。

<左>K-POP デーモン・ハンターズ、<右>APRのMEDICUBE(メディキューブ)

4月から始まった選挙期間中でも、AIは注目度の高いテーマとして取り上げられました。李在明(イ・ジェミョン)当時の「共に民主党」大統領候補は、出馬表明後の最初の公式日程として、AI半導体設計スタートアップであるFuriosa AI(フュリオサエーアイ)を訪れ、AIを「世界経済のゲームチェンジャー」と表現し、国家経済におけるAI分野の戦略的重要性を訴えました。実際に政権発足後、李在明政権は経済成長を実現するための中核的な政策として、「AI技術の覇権確保」を前面に打ち出しています。

従来の慣行的な支援策から脱し、AI分野に国家の力を集中させるという姿勢は、予算編成の段階から明確に示されていました。政府は、「AI 3大強国への跳躍」という目標を掲げ、関連予算を従来の3倍となる10兆ウォン(約1兆571億円)規模へと拡大することを決定しました。特に、技術主権を守るための「Sovereign AI(ソブリンAI)」の開発と、AI産業に不可欠な基盤であるGPUを国家主導で確保・供給する「AI高速道路構想」を最優先課題として位置づけています。

実際、「独自AIファウンデーションモデル」プロジェクトでは、韓国最高のIT企業が5つの精鋭チームを編成し、技術開発競争を展開しています。各チームは、それぞれ異なる産業分野の強みを持つ民間コンソーシアムで構成されており、韓国型ファウンデーションモデルの高度化を目指しています。具体的には、通信分野の大規模データを強みとするチーム、製造・金融分野に特化した垂直型モデルを構築するチーム、クラウドインフラと連動した高効率演算モデルを開発するチームなどが、競争と協力を同時に進めながら技術格差の解消に取り組んでいます。

このような国家主導のSovereign AI確保戦略は、技術的成果にとどまらず、韓国のセキュリティ体制や産業生態系に大きな変化をもたらすことが予想されます。

まず、国家保安の観点では、海外のビッグテック企業へのデータ依存を低減することでデジタル主権を守り、韓国語特有の文脈や文化的価値を反映した独自のアルゴリズムによって、情報の歪曲や漏えいリスクを抑えることができます。産業生態系の観点からは、韓国の中小企業やスタートアップが、高性能なファウンデーションモデルやGPUを手頃なコストで利用できる基盤が整備され、SaaS分野の爆発的な成長を促す起爆剤になると見られています。

<右>イ・ジェミョン政権発足後、初のユニコーン企業となったFuriosa AIのペク・ジュンホ代表

政府の人工知能分野に対する政策は、国際舞台における戦略的パートナーシップへと発展し、韓国のAI産業に質的転換をもたらす具体的な成果を生み出しました。

2025年10月末、APEC首脳会議への出席のため来韓したNVIDIAのジェンスン・フアンCEOが、SAMSUNG(サムスン電子)のイ・ジェヨン会長、HYUNDAI(現代自動車)のジョン・ウィソン会長とチキンチェーン店のカンブチキンで行った、いわゆる「カンブ(相棒)会合」は、単なる食事の席を超え、韓米AI同盟の強固さを象徴する歴史的な場面となりました。この会合の直後、NVIDIAは韓国政府をはじめ、SAMSUNG、SK、HYUNDAI、NAVER(ネイバー)といった韓国の代表企業に対し、最新の高性能GPUである「ブラックウェル(Blackwell)」26万基を優先供給すると発表し、長年にわたりAIインフラの課題とされてきた計算資源不足の解消に向けた重要な足がかりを築きました。

特に、HYUNDAIグループとは約30億ドル(約4,660億円)規模の大規模投資を通じて、韓国に「フィジカルAIアプリケーションセンター」と「NVIDIA AI技術センター」を設立することで合意しました。これにより、仮想空間で進化したAIの知能を、実際の移動手段や工場の現場に活かす「フィジカルAI」時代に向け、先行的なポジションを確立しました。SAMSUNGもNVIDIAと協力して、世界最大規模の「半導体AIファクトリー」を構築し、設計から生産に至るまでAIが自律的に判断・最適化する超知能型製造環境を整備する方針です。

このような成果は、米・中の技術覇権競争の中で、韓国が保有する世界最高水準の製造インフラとメモリ半導体技術が、米国の設計・知能技術と結合することで、最も強力な「フィジカルAIパートナー」となり、存在感を高めたことを意味します。結果的に、今回の協力は、韓国がグローバルAI3大強国へと飛躍するためのデータおよび計算インフラを国家レベルで拡充すると同時に、韓国の企業が世界的な供給網リスクを克服し、国際市場標準の形成をリードするための実践的な競争優位を確立する決定的な分岐点となりました。

NVIDIAのジェンスン・ファンCEO、SAMSUNGのイ・ジェヨン会長、HYUNDAIグループのジョン・ウィソン会長による「カンブ会合」

韓国は、米国に安定した製造環境を提供できる重要な同盟国としての地位を確立し、これを背景に世界的な供給不足の中でも中核的資源であるGPUの確保に成功しました。これは、ジェンスン・ファンCEOが今年初めのCESで語った「フィジカルAI(Physical AI)」産業の重要性、つまりハードウェアの製造力とAIが融合する時代の流れとも一致しています。結果として韓国は、製造強国としての優位性と積極的なAI政策を組み合わせることで、グローバル供給網における戦略的価値を実証していくという課題を担うことになりました。

スタートアップ業界で何よりも注目すべき点は、人材構成が官僚中心から現場の専門家中心へと移った点です。青瓦台のAI首席にはNAVER Cloud(ネイバークラウド)のハ・ジョンウAIイノベーションセンター長を、科学技術情報通信部長官にはペ・ギョンフンLG AI研究院長を任命し、中小ベンチャー企業部長官にはハン・ソンスク元NAVER代表を起用するなど、異例ともいえる人事が続きました。これは、実際に産業の最前線でイノベーションを牽引してきたIT・AI専門家を政策決定の要職に配置することで、技術的な方向性に対する不安を払拭し、イノベーション生態系の実質的な推進力を再び確保しようとする実用主義的な戦略と見られています。

左からハ・ジョンウAI未来企画首席、ペ・ギョンフン科学技術情報通信部長官、ハン・ソンスク中小ベンチャー企業部長官

こうした流れと並行して、スタートアップ生態系への資金流入を促進するための制度的な整備も進められました。「韓国型国富ファンド」や「国民成長ファンド」など新しい投資モデルが提示され、特に国民年金が未上場株式の比重を拡大する方針を示したことは、市場に流動性を供給し、イノベーション企業への信頼を下支えしようとする動きと見られています。さらに、TIPSプログラムの強化とR&D予算の再編は、資金調達のハードルを引き下げるとともに、これまで停滞していた民間の革新への意欲を再び刺激する転機となりました。

2026年から変わるTIPS支援事業、画像提供:中小ベンチャー企業部

最近の資本市場では、株価指数が徐々に回復し、一部のIPO企業が公募価格を上回る実績を示すなど、投資回収(EXIT)への期待も慎重ながら高まりつつあります。もちろん、スタートアップ生態系が完全に回復したと断言する段階にはありませんが、政策支援と市場の動きが連動することで、停滞していたイノベーションの流れが再び加速する可能性が見え始めています。


さらに詳細な分析は次回記事でご紹介👀
更新をお楽しみに!

原文:https://www.innoforest.co.kr/report/NS00000442

革新の森:https://www.innoforest.co.kr/
マークアンドカンパニー:https://markncompany.co.kr/