AI特許は1位、人材は純流出?今韓国AIエコシステムで起こっていること

OpenAIが韓国に注目した理由

ジェイソン・クォン最高戦略責任者(CSO)がOpenAI韓国支社設立を発表している <出典 joongang.co .kr.jpg>

最近、OpenAIがソウルに支社を設立し、開発者や法人営業担当など関連人材の現地採用に乗り出し、国内メディアはもちろんオンライン上で大きな話題になりました。OpenAIがアジアで支社を構えるのは、東京とシンガポールに続いてこれが3カ所目です。

OpenAIは韓国を「半導体からソフトウェアまでAIエコシステムの全過程を備えた国家」とし、「すべての世代がAIを日常的に活用する国」と評価しています。実際、韓国は米国に続き、世界で2番目にChatGPTの有料会員数が多い国でもあります。

また、AIサービスを実際に迅速に受け入れ、様々な産業や現場で実証できるテストベッド国家としての可能性を見いだされています。その結果、ChatGPTの韓国ユーザーの週間アクティブユーザー数も1年間で4.5倍に増加し、単なる市場拡大ではなく、AIの実験場として韓国に支店を設立したと見られます。

しかし、テストベッドで必要なのは、技術だけではありません。最終的には、どれだけ優秀な人材が留まり、イノベーションを推進できるかがカギとなります。OpenAIが韓国で期待しているのも、まさにこのような人材による好循環の形成でしょう。しかし今、韓国のAI人材エコシステムはその期待に十分答えられていないようです。

表と裏のある韓国のAI人材エコシステム

国別ファンデーションモデル開発件数の比較

一見すると、韓国のAI技術力は非常に高く見えます。AI特許数では世界1位(人口10万人当たり10.26件)を記録し、AI半導体・クラウドインフラ・超高速ネットワークなどのインフラも揃っています。
しかし内実を見ると、状況は異なります。

グローバルAI競争の核心であるファンデーションモデルの開発では、昨年韓国は0件を記録しました。米国は109件、中国20件、英国8件、UAEですら4件を開発しました。韓国政府は一定の説明をしているものの、世界で認知される韓国発AIモデルがほとんど存在しないのは事実です。大きな問題は人材の流れです。

最近のビジネスソーシャルメディアであるLinkedInのデータを見ると、韓国のAI人材移動指標は「-0.3」となりました。ゼロを基準にマイナスという言葉は、海外に流れる人材の流れが強いという意味です。

韓国は2020年だけでも「+0.3」だったのに対し、今ははっきりした「純流出国」となったのです。

OECDも韓国をイスラエルとインド、ハンガリー、トルコに続いて世界5番目のAI人材流出国に分類しています。民間AI投資も2023年は13.9億ドルで、前年比半分以上減少しました。技術では先行していても、それを支える人材と資本の流れは不安定な状況です。

それでも成果を出す韓国のAI人材

ドイツ・マックスプランク研究所の研究団長に任命されたチャ・ミヨン博士 <出典 基礎科学研究院ホームページ>

韓国の人材流出が激しくなる状況でも、韓国出身のAI人材たちはグローバルの現場で成果を上げています。

AI研究の分野で著名な研究者であるチャ・ミヨン博士は、昨年1月、世界的基礎科学研究機関である「マックス・プランク研究所(ドイツ)」の研究ディレクターに選ばれました。チャ博士は、AIベースのネットワーク解析や超大規模データの分析手法に関して世界的な成果を挙げています。Google Scholar(グーグルスカーラー)では、論文の被引用数が2万件を超えています。

その他にもSAMSUNG(サムスン電子)・AMD出身のエンジニアたちが創業したAI半導体スタートアップ「FURIOSA AI」は、事実上NVIDIAの独占市場であるAIチップ分野で、NVIDIAの「H100」と並ぶ性能のAI推論用チップ(RNGDチップ)を開発しました。電力対比性能はNVIDIAの2倍、価格は半分に過ぎない自社開発チップをベースに、最近は米国のMetaから8億ドル(約1兆2千億ウォン)の買収提案も受けました。

これらの事例は、韓国のAI人材がグローバルな舞台でも環境に応じて十分な競争力を持つことができることを証明しています。しかし、こうした例はあくまで少数であり、成果の多くが「韓国国外」で生まれている点が課題です。人材が海外で成長し、その成果が韓国に還流する仕組みを設計しなければ、国内のAI産業は孤立してしまうでしょう。

何を変えるべきか

今必要なのは、より本質的な変化です。政府は、単にビザ政策を緩和するのではなく、外国人材が定住できる国を作ることに集中しなければなりません。ビザ発給、定着支援、生活インフラ、言語障壁などでこれまでは明確な改善が行われておらず、「先端専門人材ビザ」を発給された人はわずか23人で、1年前の58人に比べて半分が韓国を去りました。

実際、このビザは「世界100位圏の大学卒業+グローバル500大企業経歴+1億4000万ウォン以上の年俸」などの要件を同時に満たす必要があるため、事実上「形式的な緩和」という批判も大きいのです。現場では、最近注目を集めるベトナム、インドなど新興国出身のAI人材がビザ発給を受けられない点も問題とされています。単に人材流入ではなく、流入と韓国定着という両方を見据えた政策の推進が必須です。

このような政策が改善されれば、FURIOSA AIの事例が示すように、世界水準の技術を保有した人材や技術と積極的に協業したり、国内で成功したテストベッドの事例が増えるでしょう。今のようなインフラと特許成果だけでは、テストベッド国家にはなれません。人が滞在して働きたいと思う環境こそが、産業を成長させます。 

韓国は、AI特許とAIを活用した教育分野で十分な可能性を見せています。しかし、真の成長は、その可能性を産業とサービスにどれだけ迅速かつ有意義に転換できるかにかかっています。

このためには人材が離れず、外部の優秀な人材も滞在したい環境を作ることが急務となります。

流出ではなく、「拡散と再流入」の時代へ

この流れを作ることができるかが、韓国のAIエコシステムの次なる成長を決定づけるでしょう。