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【そのとき投資】江原道からグローバルへ… Webベースのメタバース企業thepict

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【そのとき投資】江原道からグローバルへ… Webベースのメタバース企業thepict


sopoong Ventures(ソプンベンチャーズ)ハン・ジュンホ パートナー

@そのとき投資(私はその時、投資することを決めました)では、現役の投資家がなぜこのスタートアップに投資したのかを共有します。

首都圏を脱け出し、地方都市に基盤を置くスタートアップに投資をしようとする投資家には少しの勇気と決断が必要だ。首都圏の企業に比べて相対的に低評価されている可能性が高く、良い条件で投資することができ、自治体の直・間接支援も受けられるというメリットはあるが、市場が狭く採用や資金融通が難しいため、急速な成長を図ることが容易ではないというハンディキャップがあるためである。江原道春川(カンウォンド チュンチョン)にあるメタバース専門企業thepict(ザピクト、代表チョン・チャンデ)はまさにそうしたケースである。


 「私は必ず投資を受けなければならないとは思っていません。」


昨年8月、猛暑が猛威を振るっていたある夏の暑い日、江原(カンウォン)大学内江原(カンウォン)創造経済革新センター会議室で行われた投資審査に出席したチョン・チャンデ代表は「投資を受けたら、そのお金をどのように活用する計画か」という質問に意外にもこんな答えを出した。いや、どういうことだ。審査場は一瞬重い沈黙に包まれた。投資されなくてもいいって?じゃあ、この人はなんでここに現れたのか。あえて投資されなくても構わないという創業者に投資すべき理由は何だ。チョン代表が退場した後、議論を重ねたsopoong Ventures(ソプンベンチャーズ)の投資審査委員は結局投資を決定した。その理由は何だったのか。


thepict チョン・チャンデ代表/thepict


メタバースブーム以前から江原道でXRを掘り下げ

チョン・チャンデ代表は中学校を卒業した後、IT特性化高校に進学してデジタル放送を専攻し、早くから映像撮影・編集専門家という夢を育てた。高校卒業後すぐに映像プロダクションに就職し、より深く学ぶために再び大学に進学した。一時はテレビ記者を夢見たりもしたが、折よく訪れたVRの世界に目を付け、大学の起業サークルで始めたthepictが江原創造経済革新センター入居企業に選定されたことで、事業家としての人生の行路が始まった。

最初は360度カメラで映像を撮った後、その映像をつなぎ、まるで一つにつながった空間を見るような体験を仮想空間で提供する映像コンテンツを作ることに集中していた。そこに多様なIT技術を組み合わせることで、実際の現実空間を凌駕する豊かなユーザー体験を提供することができる。折よく、グローバル技術市場では拡張現実(AR)と仮想現実(VR)が脚光を浴びていた。このような流れに乗ってthepictは地域では独歩的なXR(拡張現実:拡張現実 仮想現実 混合現実など多様な没入型コンテンツサービスを合わせた用語)専門企業として浮上した。


XRで具現した<江原道生涯学習博覧会>/thepict

江原道庁は毎年大規模な産業展示会を開催していたのだが、そのためには広いスペースを借り、参加企業のブースを個別に設置し、集客のための広報に大金を使わなくてはならなかった。thepictがこの展示会を仮想空間に移動させた。現実と同じように再現された仮想の空間で、各企業の製品やサービスを見て回り、会社の担当者とチャットまでできるようになり、参加者は例年の数倍に増え、参加地域も全世界に拡張された。

thepictの力量が口コミで回っていく中で、様々な機関からの注文が押し寄せた。スタッフが1人2人と増え、外注契約を1つ終えるたびに事務所には新しい撮影装置とハイスペックのコンピュータが導入された。窮屈な空間を抜け出し、春川(チュンチョン)市の融資を受けて市役所近くに5階建ての独立社屋も用意した。ヘッドセットやメガネのようなハードウェア技術が停滞し、XRに対する世論の関心がやや薄れるかと思われた時、今回はコロナウイルスの流行により主流となった非対面やリモートでのコミュニケーションの有力な代案としてメタバース旋風が強く押し寄せてきた。この時からthepictの競争力が本格的に発揮され始めた。

ROBLOX(ロブロックス)やZEPETO(ゼペト)など、私たちがよく知る有名なメタバースサービスは、ほとんどが自社独自のサービスプラットフォーム内でのみ動作するように作られている。このサービスを利用するには、かなり大きなアプリファイルをダウンロードせねばならず、その中で動作するプログラムを作成するには、指定された開発ツールのみを使用する必要がある。そうしてみると、不便な点がひとつやふたつではない。クラウドサービスが日常となった時代、利用者は自分のスマートフォンや複数のデバイスでメタバースにアクセスし、高品質の映像と多様な双方向コミュニケーションサービスを超高速で自由に楽しむのは当たり前のことだと考えているが、ほとんどのサービスは閉鎖型アプリサービス中心であり、限界がある。

この問題を解決するため、thepictはオープンなウェブベースでメタバースを実装するという方向性を確立、確実な差別化を図るという戦略を立て、これは市場から熱い反応を受けた。チョン代表は通常テキストとイメージファイルで構成されている、これまでの2次元ホームページがリアルタイムコミュニケーションが可能な3次元のメタバース空間へと徐々に変化していくという確信を持っている。江原大学の場合、単にキャンパスを紹介するだけでなく、受講申請や図書の貸出などの学校生活全体をメタバースで実装できるウェブベースのメタバース体系をthepictの手助けにより構築した。thepictは着実な売上の成長と採用増加の功労により昨年末、江原道庁から「就職大賞」を受賞した。 


江原道にあるthepictのオフィスとメンバー団体写真/thepict


「グローバルを狙うが、ローカルを崩れさせることはできない」

このように事業方面では着実に成長を重ねているが、それと共にチョン代表の心の中の新たな悩みと疑問も大きくなっていた。創業初期には新しい技術を開発し、サービスを作って顧客に提供する楽しさから夜を明かしても疲れたとは思わなかったが、会社が徐々に成長する中で新たに迫ってくる悩み、例えば採用や組織管理をどうすべきか、資金はどのように融通し、利益金が出ればそれをどのように活用すべきか、自治体をはじめ、地域のさまざまな分野の人々とはどのような関係を作っていくべきか、長期的に会社の未来をどのようにデザインするのかなど、「開発者」ではなく「事業家」として決めてなければならない多くの問題に取り組む必要があったのだ。

チョン代表が投資審査場で、必ず投資を受けたいとは思っていない、という「爆弾発言」をしたのもこのような悩みの一端を表わしたものだった。事業資金不足に苦しみ、投資家に手を取ってもらわなければならないという状況ではないものの、会社の将来を共に相談できるパートナーが必要だという思いは強かった。sopoongもやはり、短期間の財務的成果だけでなく、チョン代表が企業人として成長していく過程を共にできるという点に大きな意味を感じ、彼が及び腰で差し出した手を取ったのだ。チョン代表は今年初め、「投資を受けた後、投資家たちと会社の経営現況資料をめぐり討論を重ねるという過程を通じて、企業人として自分が成長しているという気がした」と話した。

そんなジレンマの中でチョン代表は非常に明確な考えを持っている。Webを基盤に構築されるメタバスサービスが一般化すれば、テキストとイメージだけで構成されている今の企業ホームページがすぐにXR技術を活用してはるかに豊かなコンテンツを提供するメタバース型ホームページへと変わるようになるだろうし、その部門ではthepictが最も先に進んでいるという自信があり、これまでの大きなイベント用ホームページを必要とする顧客、自治体や公共機関が主であったが、それらをテストベッドとして積極的に活用している。


thepictが製作したメタバース銅雀(ドンジャク)区歴史旅行/thepict


投資家として悩むもう一つの問題は、地域企業の限界をどのように突破するか、である。多くの人口が密集している地方都市の場合、人口が停滞しているか減少し続けているため、市場がますます小さくなっており、それにより売上も長期的に減っていく他ない。投資金を入れ数年以内にその持分を取り戻して残りの利益を出資者に返さなければならない投資者の立場としては、短期間で急速に成長できる企業への投資を好まざるを得ないのだ。チョン・チャンデ代表はこの点において「より大きな市場」を探し、会社を首都圏に移すよりも、自分が地域の必須存在となり、地域経済が崩れるのを防ぐ「ローカル優先」の道を選択したが、こうした地域密着型事業モデルが持つ普遍性はグローバル市場で必ず通じるという「グローカル(glocal+local)路線」に重心を据えている。

thepictは今年創業6年目を迎え、1月8日から1週間の間、全職員がアラブ首長国連邦で研修を行ってきた。チョン代表は今年、シード投資をもう一度受けた後、来年から本格的な機関投資誘致に乗り出す計画である。売上指標をぐっと引き上げることができるという自信が大規模資金調達に対する期待感につながったのだ。それと共に、より素晴らしい企業人へと変身していくチョン代表の未来の姿が気になる。


海外研修中のthepictチーム/thepict

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