広告を「見せる」道具から「動かす」道具へ。Pango GY、Neuroの実験
「ダッシュボードは死んだ。」
ユ・スンジェ Pango GY開発総括代表(CTO)が自社製品を作りながら抱くようになった考えだ。市場に出ている広告レポートツールの大半はダッシュボードだ。いくら使い、露出がどれくらいだったかを集計して見せる。しかし人が本当に求めているのは、その数字を見て次に何をすべきかという答えだ。大規模言語モデル(LLM)にデータを入れれば次のステップを導き出してくれる時代になり、結果を見せるだけのダッシュボードの有用性が下がっているというのが彼の見立てだ。ただしダッシュボード自体がなくなるという意味ではない。人が結果を確認し検証する画面は残るが、「データを見せるだけ」の製品ではなくなるという話だ。
Pango GYは2019年に共同創業された会社だ。一般的な広告会社やアドテック企業と異なり、広告代行とAIマーケティングソリューション開発を一つの会社の中で行っている。広告戦略を立て実行・運用するチームと、その広告を自動化する製品を作るチームが同じ屋根の下にいるのだ。会社によれば社員の半数ほどが理系出身者で、プロンプト・コンテクストエンジニアが中核人材だという。そういった環境から生まれた製品が広告運用自動化ソリューション「Pango Neuro」だ。
Neuroが変えようとしているのはマーケターの業務の性質だ。ユCTOが代行事業を運営する中で確認したのは、マーケターが行う業務の大半が「判断」ではなく「操作」だという事実だった。媒体ごとの管理画面にログインし、数字をExcelに移し、レポートを作り、また管理画面に戻って予算と入札額を修正する。肝心の、人が最も得意とする戦略判断に残された時間はほとんどない。
ところが最初に作った製品では、その問題を解決できなかった。
「私たちが最初に考えたのは、レポート作成に時間がかかりすぎているという点でした。市場にレポート製品が多いのは、人々が必要としているからだと考えていました。しかし、実際にはレポートはそこまで重要ではなく、それ以外の運用業務にはるかに多くのリソースが割かれていたのです。
例えば広告主がデータがおかしいと問い合わせてくると、レポートを超えて中身を掘り下げて確認しなければならず、美容業界のように広告素材を100個ずつ設定しなければならない場合、媒体に入って一つひとつ手作業をしなければならない。
そういった業務の中で、レポートを自動化する最初の製品が実務で大して役に立たないというフィードバックを受け、サービスの方向を転換を検討しました。そして、実行まで代行する製品を改めて作ったのです。今では代行業務を行う実務者から「これがないと困る」といったご意見をいただくほどの実務に活用できるサービスとなりました。」
Neuroが他のツールと分かれる点は、実際に広告アカウントに変更を加えるところにある。大多数のAI広告ツールが閲覧権限のみを開放しているのとは異なり、Neuroはキャンペーンの作成・修正・停止、予算変更、入札調整をチャットで指示できる。ユCTOはこれを「バイブマーケティング」と呼んでいる。開発者がAIと自然言語で対話しながらコーディングする「バイブコーディング」のように、マーケターがAIと対話しながら広告を運用するという意味だ。
「操作はチャットベースで行われます。『Metaに100万ウォン設定されているうち50万ウォンだけGoogleに入れて』というだけで指示は完了しますし、『コンバージョンが良かったところを教えて』と聞けばAIが結果を分析して教えてくます。そして、『この結果を踏まえてもう一度分析してみて』とさらにやり取りを重ねながら予算を動かすわけです」

Pango Neuroの広告運用例の画面。複数の媒体の成果データを取り込みレポートを生成する過程を示している。ⓒPango GY
AIに実行権限を与えるということは、事故のリスクも共に負うということだ。これに対し、ユCTOは人の役割がなくなるのではなく、変わるのだと説明した。実務者がディレクターへと変化するということだ。
「テスラの自動運転がすごいからといって、運転席に人が乗らないわけにはいかないでしょう?人は乗って、AIが目的地まで問題なく運転できているか管理・監督し、確認しなければなりません。私たちの製品も同じです。使い始めた瞬間から人のはディレクターへと変わり、AIが正しい方向に進んでいるかを確認する役割となるのです。」
しかし、、責任の所在もその延長線上にある。AIが設定したとしても、責任はレビューした人が負うということだ。むしろAI導入によって人のミスを見つけた事例もあった。存在しないランディングページに数か月間広告が出稿され続けていたのを、代行会社も広告主も気づかず、AIで点検している最中に発見したという事例だ。リスクは技術の問題ではなく責任の問題であり、だからこそ大半のツールが閲覧権限しか開放していないというのが会社の判断だ。
Neuroはこれを製品設計で解決したと説明する。ブランド・広告主ごとにワークスペースを分けてデータと権限を隔離し、アカウント認証情報はサーバー上でのみ管理してAIとの対話に露出させず、危険な変更はユーザーの承認を経てから実行される。AIが実行できる範囲自体が、連携された権限内に制限されている。
競争構図についての見方は「媒体の幅」にある。GoogleやMetaが自社のAI自動化を強化しても、自社媒体の中でしか作動しないだろうという話だ。
「バイブコーディングツールのCursorを使う理由は、複数のモデルを選んで使えるからじゃないですか。Googleが私たちのようなものを作っても、Google広告だけ動くようにするのではないでしょうか。一方で私たちのサービスは導入して設定すれば、Google、Meta、NAVER、Kakao、LINEヤフーまでチャット画面一つで全部できます」
会社によれば連携可能なコネクターは29種で、このうち実際に広告を出稿できる媒体は16種だ。料金はワークスペースあたり月額100ドルの購読制で、7日間の無料体験を提供する。日本語・韓国語・英語のUIをすべてサポートしている。
課題は参入障壁だ。製品に初めて入ると、チャットボットのようにチャット画面しかなく、何を聞けばいいか戸惑うユーザーが多いという。その代わり一度きちんと体験すれば、以前のやり方に戻るのは難しいというのが彼の説明だ。
福岡を最初の拠点に選んだ理由もここにある。実行を代行する製品であるためデモだけでは検証できず、実際の広告アカウントを連携させて予算を調整し結果を一緒に確認する密着したプロセスが必要である。福岡であれば、韓国から近いため本社チームが直接足を運びやすいということだ。
日本を最初の海外市場に選んだ根拠は市場構造にある。会社によれば、日本は複数の広告媒体を同時に運用するケースが多く、媒体ごとの実行業務まで代行するツールの効用が大きい。グローバル媒体と共にLINEヤフーのようなローカル媒体の比重が大きい点も韓国と似ている。NAVER・Kakaoのようなローカル媒体を実行単位まで連携させながら積み上げた経験を、日本市場でも活かせると考えた。グローバルツールが主にGoogle・Metaに集中している間に、Neuroはすでに LINEヤフーとの連携を終えているという。日本語UIと海外決済がすでに稼働中で、追加開発なしに顧客獲得に入れる点も根拠として挙げた。
ユCTOは大きな流れをDX(デジタルトランスフォーメーション)からAX(AIトランスフォーメーション)への移行だと見ている。今はその初期段階だという。
「カーナビが初めてできたときは住所や電話番号を直接入力していましたが、今は口頭で「ここに行こう!」と言えばAIが案内してくれるじゃないですか。広告運用もそうなっていくでしょう。操作はAIが行い、判断は人が行うのです。今後私たちの製品でなくても、様々な領域でチャットで業務をする日が来ると思います」
日本進出はまだ第一歩を踏み出した段階だ。彼は自社製品が時代を少し先取りしすぎたのではないかと自問しつつも、参入障壁が高い分、ロックイン効果が強いという点を信じていると語った。日本の次にはアメリカ市場も視野に入れている。
<ユ・スンジェ パンゴジワイ開発総括代表(CTO)が広告運用自動化ソリューション「Pango Neuro」について説明している。ⓒPlatum>
