2025年5月、東京・TIB(Tokyo Innovation Base)にて、ソウル市のスタートアップ支援機関「Invest Seoul」が主催するビジネスマッチングイベント「BEYOND SEOUL:TOKYO IR」が開催された。本イベントは、日韓間のスタートアップ交流と協力を目的としており、現地に根ざした成長戦略、進出時の課題、そして成功事例の共有を通じて、多くの示唆を与えた。

日韓協力への期待と感謝の声
主催者であるヤン・ヨンジュン氏は、「このようなイベントを開催できたこと自体が大変嬉しい。支援してくださった方々に心より感謝申し上げたい。今後も日本と韓国のスタートアップが連携し、共に成長できるよう努力したい」と感謝と意気込みを語った。
東京都スタートアップ戦略推進本部の小澤恒広氏は、「ソウルのスタートアップ支援イベントがTIBで開催されることを非常に嬉しく思う。明日から始まるSusHiTechのようなグローバルイベントでも、サステナブル・イノベーションの鍵はスタートアップにある。昨年比3倍となった各国パビリオンの参加数にも期待が高まる」と話し、日韓協力の場がさらに拡大していくことへの期待を寄せた。
AI・SaaS分野における韓国スタートアップの強みと日本進出のポイント
AI関連投資に注力しているPKSHA Algorithm Fundの海老原氏は、「韓国企業は日本語を話せる人材も多く、新しい事業が次々と生まれている。私たちはそうした韓国の企業やプロジェクトを広めるお手伝いができればと思っている」と述べた。
韓国企業の日本進出を実際にリードしてきた、株式会社アルゴリズムクラウドのアン・ジョンソン代表とAllganize Japan株式会社佐藤靖生代表は、韓国スタートアップが日本市場で直面する課題とその対処法について具体的な事例を交えて語った。

日本市場での成功ポイント
佐藤氏は、「B2B市場は今後も成長が期待できる。AIの活用については、アメリカ≒韓国 > 日本というのが現状。日本市場は導入に慎重で、特に生成AIに関しては浸透に時間がかかる」と分析した。
アン氏は、「2015年以降、日本のSaaS市場は大きく成長し、現在は1.5兆円規模にまで拡大している。日本でチャレンジを続けられた理由のひとつは、適切な資金調達ができたことだ」と語った。
ローカライズを超える「現地化戦略」
アン氏は、「サービスのローカライズだけでは不十分。日本の商習慣、法律、パートナーシップの在り方など、包括的な現地理解が不可欠だ」と指摘し、「日本の大企業と提携することで、単独では接点を持ちにくかった自治体や公的機関とも連携できた」と成功の要因を振り返った。
また佐藤氏は、「言語の壁は依然として大きい。日本では『郷に入っては郷に従え』が重要。契約書やサービス内容も含めて、現地担当者を中心とした体制構築が必要」と語った。
組織と人材育成のリアルな課題
アン氏は、「韓国ではひとつの都市(ソウル)でビジネスが完結することが多いが、日本では地域ごとに事情が大きく異なる」と語り、「エンドユーザーのニーズに適した製品を提供できなければ、パートナーにも採用されない。売れるものを持ってくることが重要」と強調した。
意思決定プロセスの違いにも触れ、「日本ではお客様の前で確認や調整をすることを好まない傾向があり、事前準備と品質管理が非常に重視される」と述べた。
また、人材育成に関しては「日本では目標とゴールまでの中間指標を丁寧に設けて、段階的に成果を積み上げていく文化がある」とし、「即戦力となる中間管理職の採用が今後の課題」とした。
日韓スタートアップ連携の未来へ
最後に、ヤン・ヨンジュン氏は「韓国は“アジアのラテン”、日本は“アジアのゲルマン”と形容されるほど、近いようで全く違う文化を持っている。それでも、互いの違いを理解し尊重し合うことで、より強い連携が生まれると信じている」と語った。
アン氏も「不屈の精神が何より大事。日韓の経済・文化の交流をこれからも広げていきたい」と述べた。
その後今回のイベントに際して採択された韓国スタートアップ企業10社がピッチを行い、それぞれのシステムやサービスの良さをアピールした。
事業内容は教育やゲーム、モビリティなど様々で、今後の日本での活躍に期待が高まった。

ピッチ実施企業一覧
🔗【Glorang】エドテック
韓国の学生500万人中200万人が利用するオンライン教育プラットフォームを運営。AIで教育効果を高め、日本・シンガポール・インドネシアにも展開中。
🎨【KENAZ】Webtoon
100社以上と提携するWebtoon制作会社。データ基盤の「Kiphub」を開発、2026年にスタジオ設立予定、2028年には北米進出も視野。
📱【Photowidget】クリエイターエコノミー
全世界で2,500万DL超のホーム画面ウィジェットアプリ。Z世代女性に人気、自己表現や収益化支援機能も充実。
💡【NINEAM】クリエイター支援プラットフォーム
画像・動画・PDF・ステッカー・テンプレート等の素材をアップロードするだけで収益化可能なクリエイター支援SaaS。アジア市場で希少な存在で、安価な手数料と多通貨決済対応も強み。
🕹️【Play Legend】インドアスポーツ
スクリーンゴルフ技術を応用した体験型エンタメ施設を提供。日本国内7店舗・45システム展開済、カスタマイズ性とリアルタイム保守が強み。
🤖【SionicAI】AI導入支援/B2B SaaS
企業向けに柔軟な生成AI導入支援を提供。すでに40社以上に導入実績があり、金融やメディア分野で1億円超の売上を達成。
🎮【Clovergames】ゲーム
韓国ゲームアワード1位受賞。日本ユーザーの好みに合わせたゲーム開発を行い、日本市場向けのスタジオ設立も検討中。
🏟️【WDG】eスポーツ配信・運営
eスポーツ観戦の裾野拡大に対応し、チケッティングや視聴プラットフォーム開発で収益化を実現。視聴者数は急成長中。
🚗【Chabot Mobility】モビリティ/自動車ディーラー向けSaaS
ディーラー業出身者が立ち上げたSaaS企業。韓国より3倍の規模を持つ日本市場での展開を加速予定。
Chabot Mobilityカン・ソングン代表へのインタビューはこちら👀
✍️【Carpenstreet】Webtoon制作支援ツール
漫画制作の効率化を図る3Dモデル対応の制作支援ツールを提供。クリエイター支援と作業環境改善を目指し、日本法人設立も検討中。