「人工知能(AI)はもはや単純な革新の道具ではなく、グローバルな影響力と国家競争力を決める核心軸だ」。
これは最近発刊されたユネスコ(UNESCO)の報告書に載った言葉だ。実際、AI技術は産業全般にわたる革新を越え、各国の政治・経済秩序を再編する戦略的武器に位置づけられている。AI技術覇権のリーダーである米国は今年初め、AI革新を加速化するための行政命令に署名したのに続き、今月中にAI関連行動計画の実行のための行政命令に署名すると予告した。中国は国家レベルで莫大な予算を投入し、AIを国家戦略産業として集中育成し、AI革新とグローバル技術のリーダーシップ確保に死活をかけている。
韓国も例外ではない。「AI 100兆ウォン投資時代」を宣言した政府は、官民が共に参加するAIタスクフォース(TF)を発足し、AI新産業の育成に拍車をかけている。政府が注目するのは「Sovereign AI(ソバリンエイアイ)」だ。独自のインフラとデータを活用して独立したAI力を備え、外国技術の依存度を下げてAI主権を確保する戦略だ。
独自の超巨大AIモデル(ファンデーションモデル)の開発は、国家の技術競争力強化のレベルで非常に重要だ。しかしこれに劣らず、巨大言語モデル(LLM)を基盤に産業別応用サービスを作る「Vertical AI(バーティカルエイアイ)」の育成も必要だ。特定の産業に特化したVertical AIは、その分野で必要な事項を正確に反映して最適な回答を提供するよう設計されている。産業固有のデータで「深い学習」を通じて開発されるVertical AIは、法律、金融、医療など専門的な知識が必要な分野で実質的な価値を創出して脚光を浴びている。
◇法律分野に強く吹くVertical AI風
法律はVertical AI競争が最も激しい分野の一つだ。既にグローバルリーガルテック企業は、生成型AIの登場以降、法律特化AIサービスを先駆けて披露し拡大を図っている。代表的な企業が米国の法律AIスタートアップHarvey(ハービー)だ。2022年に設立したHarveyはLLMをベースに法律AIサービス「Harvey AI」を公開して爆発的に成長し、今年2月に3億ドル(約445億9,614万円)規模の資金調達に成功したのに続き、6月には3億ドル(約444億3,095万円)の追加投資を受けた。企業価値は4カ月ぶりに30億ドル(約4,460億4,690万円)から50億ドル(約7,434億1,150万円)と、1.67倍に上がった。
伝統的な法律情報企業もこのような変化に足早く動いている。グローバル法律情報企業トムソン・ロイターは、2023年に生成型AIベースの法律秘書「CoCounsel(コカウンセル)」のサービスを開発した米国のAIスタートアップCasetext(ケーステクスト)を6億5,000万ドル(約約961億5,843万円)で電撃買収し、法律AI技術競争に乗り出した。もう一つのグローバル法律情報企業LexisNexis(レクシスネクシス)も、2023年に米国の法律に特化した生成型AIサービス「Lexis+ AI」を披露したのに続き、今年1月にはAgentic AI(エイジェンティックエイアイ)技術を搭載した「LexisNexis Protege(レクシスネクシスプロテージ)」を公開し、パーソナライゼーションされた法律業務の遂行を手助けするAI秘書を公開した。
韓国の法律分野でもVertical AIの波が拡大する中、注目すべき成果も相次いでいる。今年3月、Law&Companyは自社開発した法律AIサービス「SuperLawyer(スーパーロイヤー)」の弁護士試験合格のニュースを伝えた。第14回大韓民国弁護士試験の選択型問題で111問正解し、合格基準である96問を大きく超えたのだ。自国の言語でAIサービスを活用して弁護士試験全領域の客観式問題を解いて合格圏に入ったのは、米国とイギリスを除きどの国でも成功しなかったことで、SuperLawyerが非英語圏で初めて成功し、大きな注目を集めた。以降、Law&Companyは最初の記録を立ててから77日で123問正答し、合格者上位5%の成績を収めた。まだグローバルビッグテックの巨大言語モデルは韓国の弁護士試験合格レベルを超えていないことから、SuperLawyerの驚くべき成果は、韓国の法律AI技術のレベルが高いことを示している。
◇よくできたVertical AI、グローバル拡大の糸口
Vertical AIの育成が重要なのは、特定分野に特化した高い性能をもとに、グローバル市場でも十分に勝算があるからだ。AI技術が産業現場で実質的な価値を創出するには、当該分野の複雑なニーズを理解し、正確に対応できる構造が必要だ。法律分野の場合、法律の条文及び判例解釈の複雑性を理解し、契約書の検討時に細かい誤りを検証するなど、高精度かつ専門性が求められるため、洗練されたロジック設計と最新の検索拡張技術(advanced RAG)、高度化したLLMの活用が必要だ。特に、ロジックを各国のサービスが共通に要求する形にし、モジュール方式で活用するようにすれば、海外の各国のデータに基づいて該当国に最適化したサービスを提供することができる。
Law&Companyが開発したSuperLawyerも韓国語及び韓国の法律に特化したAIサービスで始まったが、グローバル拡張を前提に設計された法律特化のVertical AIだ。実際、Law&CompanyはSuperLawyer独自のロジックを中心に日本を含め、海外の主要法律市場にローカライズの可能性を段階的に検討している。
Sovereign(ソバリンエイアイ)が技術自立のための国家レベルの中核戦略であるなら、SuperLawyerのようなVertical AIは、特定の産業で蓄積された専門性と技術力に基づき、国家の輸出力強化に実質的な助けになるだろう。
◇産業育成支援及び規制緩和政策を同時に展開しなければならない
法律AI産業が本格的に発展するためには、それに合った環境づくりが不可欠だ。リーガルテック企業がAI技術力を基に、より大きな成果を上げるためには、膨大なGPUインフラ、良質なデータ、果敢な投資などに支えられなければならない。また、新しい技術を存分に広げ、技術の利点を最大限活用できる合理的な政策も必要だ。
コンピュータサイエンスの分野でグラフィカルユーザーインターフェース(GUI)と客体指向プログラミングの土台を築いたアラン・ケイ氏は、「未来を予測する最良の方法は未来をつくっていくことだ」と述べた。アラン氏の洞察力は今日、リーガルテック産業にも示唆しているところが大きい。法律AIという革新的技術が登場した今、我々は自ら未来を開拓する時が来たのだ。
世界が技術覇権競争で熱く盛り上がる今、巨大な技術の流れで遅れを取らないようにするにはスピードが重要だ。技術開発を妨げる障害物は思い切って蹴り、産業を育成する支援は急速に推進しなければならない。
今、政府がスピード感を持って動いて正しい方向のガイドラインを作り、産業の育成により力を与えてくれれば、韓国の法律AI企業が思いっきり飛び出すことができる舞台が作られるだろう。その舞台の上で韓国企業は世界を先導する法律AI技術を披露し、新しい未来を使っていくものと確信している。AI時代、グローバル法律サービスの革新を主導するのか、現在のまま留まるのかは、我々の選択と努力にかかっている。

グローバルリーガルテック企業の法律特化Vertical AIサービスの事例-グローバルリーガルテック企業の法律特化Vertical AIサービスの事例
チョン・ジェソンLaw&Company副代表・共同創業者
<筆者>高麗(コリョ)大学で産業工学と金融工学を専攻、経営学を副専攻し学んだ。卒業後、約3年間、グローバルコンサルティング会社「マッキンゼーアンドカンパニー」で経営コンサルタントとして勤務。法律サービス市場で人々に必ず必要な変化を起こそうと2012年、キム・ボンファン代表と「Law&Company」を創業した。現在、Law&Companyは韓国1位の法律サービスプラットフォーム「LawTalk」をはじめ、法律情報検索サービス「BIG CASE」、韓国初の法律家用AIアシスタント「SuperLawyer」など、法律サービスの大衆化と先進化に寄与するサービスを様々作っている。
<Law&Companyのチョン・ジェソン副代表・共同創業者>