2006年3月、最初のワールドベースボールクラシック(WBC)が開かれた。第2ラウンドで韓国とアメリカが対戦した。当時、米国の選抜メンバーの年俸総額は879億ウォン(約93億1,500万円)だった。アレックス・ロドリゲス、ケン・グリフィー・ジュニア、デレク・ジーター、メジャーリーグを代表するスーパースターたちが名を連ねた。韓国の選抜メンバーの年俸総額は45億6000万ウォン(約4億8,200万円)。米国の5%に過ぎなかった。試合結果は韓国が7対3で勝利した。

数字だけ見れば、起こり得ないことだった。ところが、トーナメントでは起こった。その場面が出発点だ。20年が過ぎた今、WBCが再び始まった。大谷翔平ひとりの平均年俸が7,000万ドル(約110億9,500万円)の時代だ。年俸の差はさらに広がったのかもしれないが、トーナメントの本質は変わらなかった。興味深いのはこの結果だけではない。WBCという舞台の構造自体、そして、野球というスポーツの本質が開業の時間と妙に似ている。

リーグが終わるとトーナメントが始まる

韓国プロ野球(KBO)の正規シーズンは144試合だ。長い旅だ。不振の日があっても、エースがけがをしても、次の試合がある。失敗を挽回する時間があり、結局は累積した成績がチームの実力を収斂(しゅうれん)させる。

ところが、この長い旅を支配したチームさえ、シーズンを通して勝率6割を超えるのは容易ではない。これまでのKBOの最高勝率は1985年のサムスンの0.706だ。圧倒的な数字のように見えるが、裏を返して読み取ると違う。そのシーズンでも、サムスンは3試合のうち1試合は負けた。リーグを制覇した最強チームもシーズンの3~4割は負ける。これがリーグの本質だ。失敗が既定値のまま、長い時間耐えること。

しかし、リーグが終わると局面が変わる。準プレーオフ、プレーオフ、韓国シリーズ。トーナメントが始まる。144試合を耐え抜いたチームの前に、1回限りの勝負あるいは5戦3勝制の勝負が待ち受けている。ここに冷酷な現実が現れる。過去の正規シーズン1位のチームが韓国シリーズの優勝を逃したケースは約14%に上る。6ヶ月の成績がわずか数試合で無力になる瞬間だ。WBCはこの構造を国際舞台に置き換えただけだ。4組の総当たり戦、8強トーナメント、準決勝、決勝の段階ごとに勝負が初期化される。リーグもなく、蓄積もない。今この試合しかない。879億ウォン(約93億1,500万円)のメンバーも、45億ウォン(約4億7,600万円)のメンバーも、グラウンドでは同じ9イニングを戦う。

スタートアップの時間もこの構造とピッタリ重なる。初期製品を作り、顧客を集め、市場を検証する過程はリーグに似ている。失敗があっても次の試みがあり、蓄積された学習がチームを強くする。しかし、投資ラウンドという関門の前では局面が変わる。シードからシリーズAへ、シリーズAからBへ、各段階は直前のラウンドの成果だけで評価されるトーナメントだ。リーグで積み上げてきた実績も、チームの底力も、その関門を自動的に通過させてはくれない。リーグのように考えていて、トーナメントで脱落するチームが非常に多い。

最高で10回のうち7回は失敗する

ここに、野球が持つパラドックスが現れる。トーナメントはミスを許さない。ところが、野球はもともとエラーがデフォルトのスポーツだ。

打率3割。かつても今も、スーパースターの基準だ。10回打席に入って7回失敗しても最高と言われる。しかし、数字はそこで終わらない。3打数1安打、4打数1安打といっても、一度が決定的なホームランだったり逆転打点だったりするなら、その選手はチームの主力になる。野球は成功の頻度ではなく、決定的な瞬間に何を作り出したのかが記憶に刻まれるスポーツだ。失敗がデフォルト値の環境では、たった一度のインパクトが全てを変える。

開業も同じ構造だ。韓国ベンチャー投資によると、投資を受けた開業企業の7年後の生存率は72%だ。裏を返して読み取れば、投資を受けた企業の10社中3社は7年を耐えられないという意味だ。それでも、その一度が決定的なイグジット(出口)につながればそれで十分なのだ。開業エコシステムに失敗した開業者を、再び呼び戻す理由もここにある。何回三振したのかではなく、彼が再び打席に立つのかを見る。

ところが、野球にはもっと残酷な真実がある。バットの中心に正確に当たっても、野手の正面にボールが飛んで行けばアウトだ。完璧なスイングは完璧な結果を保証しない。開業も同じだ。精巧に作った製品が市場でそっぽを向かれる。完璧に実行するも、タイミングが合わないことがあり、方向が少し間違っている可能性がある。だから、失敗した開業者を単純に実力不足と断定することは難しい。

同時に、これは開業者が制御できるものと、できないことを区別しなければならないという意味でもある。スイングの精度、製品の完成度、チームの実行力、は制御可能な領域だ。打球の方向、市場のタイミング、マクロ環境、競争相手の登場はそうではない。最善のスイングをしても、方向へのこだわりが次の打席を妨げてはいけない。

トーナメントで、失敗がデフォルト値のまま耐え抜く方法

これら2つが交差する所に、開業の核心ジレンマがある。トーナメントは失敗を許さない。ところが、試合自体は失敗がデフォルトだ。

答えは失敗の単位を分けることにある。一打席を人生として受け入れなければ、今このイニングは揺れ動かない。大きな単位の失敗を許容し、小さなユニットでは崩れないこと―これがトーナメントを通過するチームのやり方だ。

スタートアップも同様だ。ピボットは敗北ではない。一打席の三振だ。ビジネスモデルを変えること、ターゲットの顧客を再定義することは次の打席のための調整であり、競技をあきらめることではない。しかし、今このラウンド、今この四半期の指標はトーナメントのイニングのように扱わなければならない。長期的な失敗への耐性と短期的な実行集中、これら二つを同時に実行できる開業者が結局、生き残る。

観客が野球場を離れない理由

WBCの中継を見て人々が熱狂するのは、単に勝敗のためではない。年俸総額879億ウォン(約93億1,500万円)のドリームチームの前に、45億ウォン(約4億7,600万円)のメンバーがバットを持って立つシーンを見るためだ。三振するとわかりながらも、打席に立つことをためらわない選手、七回の失敗の末に飛び出す逆転ホームラン、トーナメントの最後のイニングで動じない投手の目つき。20年が経ってもその場面は繰り返される。

開業者もその打者だ。投資家も、チームのメンバーも、顧客も、結局その場面を見ている。10回中、7回失敗することを知りながらも打席に立つことをためらわない人。完璧なスイングをしたが、野手の正面にボールが飛んで行き、それでも次の打席を準備する人。リーグで強くなり、トーナメントに全てをかける人。

原文:https://platum.kr/archives/283110