13秒に1台、APRが美容市場のルールを変えた方法

2025年8月6日、Kビューティーの戴冠式

<出典:hankyung.com>

2025年8月6日、韓国の美容業界に新たな王者が誕生しました。2024年10月に株式市場に上場したビューティー企業エイピーアール(APR)が、数十年の間化粧品業界を二分していたアモーレパシフィックとLG生活健康を抜き、時価総額で業界1位(8月6日現在7兆9,322億ウォン)に躍り出たのです。何十年もの間決して揺るがないように思われた美容市場の秩序が崩れたこの瞬間は、単なる株価の変動にとどまらず、美容産業の構造的転換を知らせる大事件でした。

APRは自らを「ビューティーテック企業」と呼んでいます。これは、従来の化粧品の製造・販売を超え、技術とデータに基づいた美容プラットフォームへと進化する新しい企業モデルの登場を示しています。それでは、APRはどのようにして伝統的な強者たちと異なる次元の競争力を確保し、市場の主導権を掌握することができたのでしょうか。

美容市場の新しいジャンル、「ホームビューティーデバイス」

長年、既存の化粧品企業は化粧品(=ソフトウェア)自体の成分の効果とブランド価値を高めることにとどまっていました。しかし、APRはこの定石を破り、「ハードウェア」を前面に押し出しました。まさに「ホームビューティーデバイス」です。

過去にもホームビューティーデバイスは存在していましたが、ほとんどが単機能かつ高価であり、効果も微々たるものであったため、消費者に敬遠されてきました。しかし、APRはこの点を深掘りしました。代表製品である「メディキューブエイジアール(AGE-R)」は、複数の機能を一つに統合した「オールインワンデバイス」である「ブースタープロ」を通じて、ホームビューティー市場の新たな基準を提示しました。超音波、高周波、微小電流など専門家向けの技術を一つの機器として手軽に使用できるようにしたものです。2025年上半期にかけて、AGE-Rデバイスはグローバル累積販売量400万台を突破し、最近の5か月間では13秒に1台売れるほど驚異的な販売量を記録しました。

このようなハードウェアの成功は、単に技術力だけでなされたものではありません。これは、皮膚科の施術と比較して価格面で圧倒的な違いを示し、市場の地形を変えたためです。一度に数十万ウォン(数万円)に達する皮膚科施術とは異なり、AGE-R製品は30~50万ウォン(30~50万円)の初期投資だけで数十回にわたるケアが可能です。さらにSNSを通じた口コミまでつながり、APRは単に性能の良い製品を売っただけでなく、皮膚科に行きたいがコスト問題で足が遠のいていた消費者にもアピールに成功し、市場の規模自体を拡大するに至りました。

データに基づく「収益性最大化戦略」

<出典:chosun.com>

APRのもう1つの差別化要素は、DTC(Direct-to-Consumer)モデルを介して構築された「データ経営システム」です。流通マージンを削減すると同時に、顧客と直接妻がることで、膨大な量のデータを確保することができました。データに基づくマーケティングを通じてコスト効率化を追求し、顧客の購入パターンとフィードバックを即座に分析して新製品を計画し、需要予測と在庫負担を減らすことができます。その結果、2025年第2四半期のAPRの営業利益率は25.8%に達し、従来の流通チャネルの割合が大きい大型化粧品企業(アモーレパシフィック7.1%、LG生活健康5.5%)よりはるかに高い収益性を記録しました。

特に海外市場でオンラインチャネルを通じて現地の顧客の反応を素早く把握し対応する能力は、複雑な海外流通網に依存していた既存企業が到底ついてこられないほどの競争力です。2010年前後から、従来の化粧品企業は国内のロードショップブランドの成長により収益性が悪化し、海外売上の大部分も中国に依存した結果、近年の米中対立のリスクをもろに被り、売上と営業利益、株価まで下落した一方、APRはそうした影響を受けませんでした。

2025年第2四半期現在、APRの売上の78%が海外市場で発生しています。7月に実施された米アマゾンプライムデーで300億ウォン(30億円)以上の売上を達成し、最近まで行われた日本Qoo10「メガ割」イベントでは250億ウォン(25億円)の売上を記録し、前年比で売上が3倍に成長しました。同イベントでビューティーデバイスが販売1位を獲得したのは今回が初めてです。このように、APRは「急成長しながらも高い収益性を維持する」ビジネスモデルの可能性を証明しました。

彼らが売ったのは”化粧品”ではなかった

<出典:magazine.hankyung>

APRの成功は、K-ビューティーの王座が単にある企業から別の企業に移動したのではなく、「美しさ」に対する価値についての消費者の認識が変化したという重要な出来事です。長年、美容市場で踏襲されてきた華やかなブランドの歴史、感性的なスターマーケティングなど、ブランドが約束する抽象的な価値に魅了されて消費されてきました。

しかしAPRは、このお決まりの公式を破り、ビューティーデバイスというハードウェアを通じて、目に見える数値データと使用前後の明確な変化によって、製品の効能を自ら証明しました。いまや消費者は、ブランドが築いてきたヘリテージに喜んでお金を払うのではなく、技術が保障する確かな効果にが財布の紐を緩めるのです。

APRは巨大な遺産に閉じ込められた既存企業とは異なり、市場を”生きた研究室”として活用してきました。そしてその研究結果に基づいて、消費者と共に製品を作り上げていく新しい方法を選びました。彼らは単に化粧品を販売したのではなく、「美しさの主役はブランドではなく、まさにあなた自身である」という新しい経験と価値を売りました。APRは現在、国内1位の座にとどまらず、2035年までにグローバルスキンケアトップ3レベルになるという抱負を明らかにしています。今回の成功事例は、K-ビューティーが感性の時代を超えて、ITのような超個人化された経験を設計する市場へと変化している事例として記憶されるでしょう。