繰り返されるK-モビリティ規制
特定の企業のための2年間の猶予?

最近の韓国の自律走行産業をめぐる議論の核心には、ある1つの発言があります。今年3月末、国土交通部主管で自律走行発展のための討論会が行われ、その場でソウル大学の教授と自律走行ソリューション会社CEOが「海外の自律走行車の韓国進出を、2年間ストップさせなければならない」という主張を行い、議論が巻き起こりました。
政府の公式立場ではないという釈明はありましたが、この「2年」という具体的な数字にはどういう根拠があるのか、なぜ2年なのかについて多くの噂が行き交いました。そうして、メディアの追加報道により明らかになった事実は、HYUNDAI(現代自動車)グループが昨年8月に買収したスタートアップ、42dotの自律走行技術開発に対する時間確保である可能性があるというものでした。

近頃、中国電気自動車の大規模韓国進出、そしてGMのSuper Cruise (スーパークルーズ)の年内韓国リリースなど国内外の自律走行技術の韓国進出が可視化されている中、42dotを通じて開発中のE2E(End-to-End)自律走行技術「Atria0AI(アトリアAI)」を発表できる時まで、つまり、特定の大企業の技術転換のための時間を稼ぐ特恵(特別恵沢)的な庇護ではないかという疑惑を受けています。
この「時間を稼ぐ」政策が、韓国の自律走行産業全体をグローバル競争から隔離し、革新の時計を止めてしまう可能性があるという懸念が起きているのです。
グローバル競争のスピードとKモビリティの停滞

<出典:hankyung.com>

<出典:hankyung.com>
実際、世界の自律走行競争はすでに「データを基盤とした商業サービス」段階に入っています。米国のWaymo(ウェイモ)と中国のBaidu(バイドゥ)は、数千台の無人ロボタクシーを市内中心部に投入して、商業的に運行しており、毎日数百万キロメートルの走行データを蓄積する好循環構造をコア競争力にしています。最近はTesla(テスラ)もロボタクシーアプリをリリースし、Waymoとの自律走行競争に飛び込みました。
一方、韓国はスピードを出せずにいます。初め、HYUNDAI(現代自動車)がAptiv(アプティブ)と合作で作った企業Motional(モーショナル)は既存のモジュラー構造(一種の分業型自律走行方式、見るプログラム、判断するプログラム、動くプログラムが別々に働きながら一つの車両を制御。人が手動でデータを確認後バージョンアップしなければならない煩わしさがある)の限界と莫大な損失(5年間累積2兆6千億ウォン(約2750億円))の末、2024年のグローバル技術ランキングでは10階段以上下落した15位にとどまっています。

これにHYUNDAI(現代自動車)は新たに42dotを買収し、高価なライダーセンサーとHDマップを排除したAIベースE2E方式の「AtriaAI」での逆転を企てているものの、この技術の商用化時点である2027年末までの時間を確保するため、政府政策が動員されるのではないかという批判に直面することになりました。現在、韓国の自律走行技術水準は先導国に比べて3~4年ほど遅れていると分析されており、残念ながらグローバル技術ランキング10位圏内に韓国企業は一社も参入できていないのが現実です。
「時間の無駄」の声を呼ぶ韓国モビリティ規制の影

<出典:news.appstory.co.kr>
2年猶予発言に対する議論が業界に大きな懸念を生んでいるのは、韓国モビリティ産業はすでに「規制が革新を妨げた」手痛い前例であるTADA(タダ)事件を目の当たりにしているためです。2020年、革新的な乗車共有サービスだったTADAは既存のタクシー業界の既得権を保護しようとする制度的圧力に押され、代表は旅客運送法違反で不拘束起訴され、事実上市場から退出しました。これはイノベーションを阻害し、消費者選択を制限しており、今日に至るまで韓国モビリティ政策の決定的な欠点として歴史に刻まれています。
現在、自律走行分野でもこのような構造的問題が繰り返されているのです。ロボタクシー市場への参入を妨げるタクシー免許の総数制限と、スタートアップが実道でのテストのための大規模走行データを確保するのにかかる複雑な規制及び個人情報問題は、TADAと同じ轍を踏んでいるという批判を避けられないでしょう。
韓国はセンサー、認知、セキュリティなどのコア部品技術では、StradVision、Bitsensing、SOSLABなどのスタートアップが世界的な競争力を確保していますが、この技術を学習し検証する「実質的なデータ基盤の実証システム」が規制の壁に阻まれています。 「部品は世界的なのに、システムはまだ実験段階」というジレンマを抱えているのです。
イノベーションのゴールデンタイムをつかむ

<出典:dentalnews>
韓国の自動車産業が特定企業に集中しているのは事実ですが、自律走行産業の未来は、特定企業の技術革新のタイミングまで保護することはありません。むしろその逆です。国家政策の焦点は、競争を制限する「猶予」ではなく、イノベーションが息づくことができる公正な競争環境の構築に合わせるべきです。
現在最も緊急の課題は、規制革新を通じて大規模データ(Mass Data)を蓄積することです。過去のTADAが示したように、既得権保護を名分に革新的なモビリティサービスの芽を切り取る行為は結局消費者厚生を阻害し、産業全体の競争力を後退させます。
ロボタクシーをはじめとする自律走行サービスが、複雑な認可手続きや既存の産業規制で足を引っ張らないよう、既存の規制サンドボックス(新技術を活用した新製品やサービスについての期間、場所、規模の一定条件下では現行規制を免除、猶予する制度)を大幅に拡大し柔軟にしなければなりません。技術を実験できる自由な環境こそ、膨大なデータを確保し、技術を高度化できる唯一の道になります。
同時に、内需市場を海外技術から人為的に遮断したり差別してはなりません。もちろん、最近は自国中心の保護貿易が主となっていますが、公正な競争と消費者選択権の保証こそ、現在の韓国の停滞している経済構造と市場の革新を加速させることができる最も確実な手段です。
グローバル市場ですでに検証された技術であっても、韓国市場に急速に導入されれば、韓国企業と善意の競争を繰り広げなくてはならなくなります。このような競争の構図になれば、韓国企業は一時的に出遅れたとしても、さらに早く技術格差を解消し発展する動力を得ることができるでしょう。韓国の企業はこれまで、2等戦略(Fast Second Strategy)を成功させて1等へ上り詰めた経験を多く持っています。
最後に、モビリティ業界で自律走行が導入される場合、タクシーはもちろんバスなどの既存の公共交通インフラとの利害衝突において、どのように対処していくかについても熟慮が必要です。産業的にも、社会経済的にも多くの機会費用を吹き飛ばしてしまった第2のTADAとなるようなことがあってはなりません。
結論として、自律走行技術開放を2年間ストップするという発言は韓国における自律走行産業の不足を、自ら明らかにする結果を生みました。この時間を保護の名分で浪費するのではなく、規制イノベーションと公正な競争の場を開いてデータエコシステムのゴールデンタイムにしなければなりません。猶予ではなく、革新を通じた先導だけが韓国の自律走行技術を世界の舞台に引き上げるでしょう。
