KAIST、6000人を調査し、無料サービスの実際の価値を初測定、GDP 8.7~17.5%規模…ジェローム・パウエル氏の「デジタル価値の欠落」警告現実に
紙の地図を買っていた時代は終わった。百科事典を買う人もほとんどいない。しかし、我々は過去よりはるかに正確な地図を使って、はるかに膨大な知識にアプローチする。無料で。
ここにパラドックスが存在する。我々の生活は明らかに豊かになったが、国内総生産(GDP)はこの価値をきちんと捉えられていない。米国連邦準備制度理事会のジェローム・パウエル議長(当時)が2019年に「デジタルサービスの価値が公式統計から欠落している」と警告した理由だ。
今、その「見えない価値」が韓国で初めて測定された。規模は最低222兆ウォン(約23兆4,815億1,700万円)。2024年の韓国のGDP(約2,550兆ウォン、約260兆7,201億3,000万円)の8.7~17.5%に上る。
1年間、NAVER(ネイバー)検索できない場合は、いくら与えるべきか
KAIST(韓国科学技術院)デジタル革新研究センターとソウル科学技術大学デジタル革新研究所は7月、韓国人6000人を対象に実験を行った。
質問は簡単だった。「1年間このサービスを使えない代価としていくら受け取りたいですか?」
10万ウォン(約1万500円)~1,000万ウォ(約105万7,000円)の間で金額をランダムに提示し、受け入れるかどうかを尋ねた。米国のMIT(マサチューセッツ工科大学)が開発し、米国とオランダで既に検証されている手法だ。
結果は注目に値した。韓国人1人が主要デジタルサービスにつける年間価値は:
△検索エンジン1,220万ウォン(約129万円、NAVER検索704万ウォン・約74万4,000円)△デジタル地図857万ウォン(約90万6,000円、NAVER地図428万ウォン・約45万2,000円)△Eメール273万ウォン(約28万8,000円、NAVERメール139万ウォン・約14万7,000円)△電子商取引316万ウォン(約33万4,000円、NAVERショッピング97万ウォン、約10万2,000円)。
「ネイバーだけ222兆ウォン…Kakao・Google含めればさらに大きく」
個人の価値を国家全体に拡大すると、数字はさらに大きくなる。
2024年のインターネット利用者数(約3164万人)とサービス利用率を乗じて計算した結果、NAVERのサービスが創出する年間消費者厚生(使用者が実際に享受する経済的恩恵)は、△検索222.65兆ウォン(約23兆4,848億7,600万円)△地図131.50兆ウォン(約13兆9,093億9,900万円)△メール43.05兆ウォン(約4兆5,536億円)△ショッピング24.19兆ウォン(約2兆5,585億9,000万円)など、計222~447兆ウォン(約23兆4,848億7,600万~約47兆2,619億3,000万円)だった。
研究陣はNAVERひとつだけでもこの程度の規模であり、Kakao(カカオ)、Google(グーグル)、YouTube(ユーチューブ)などを全て含めると、韓国のデジタル経済の実際の価値ははるかに大きいと見ている。
自動車産業全体の年間生産規模より2倍以上大きい価値が「無料」サービスで出ているわけだ。だが、GDPには0ウォンと集計される。
米国では検索エンジン2,426万ウォン…世界的な現象
これは韓国だけの現象ではない。米国では2017年の検索エンジン全体の価値を1人当たり1万7,530ドル(約266万円)、Eメールを8,414ドル(約127万円)と測定した。オランダは2019年、WhatsApp(ワッツアップ)の価値を6,429ユーロ(約113万円)と推算した。
研究陣は韓国の結果が米国、オランダとおおむね一致しているとし、デジタル価値がGDPで捉えられないのは世界的な構造上の問題だと指摘した。
紙の地図が消えるやGDPが減り…実際の価値は激増
報告書は、GDP中心の政策がデジタル時代の実際の価値を歪める可能性があると警告している。
例えば、紙の地図を購入した消費者が無料のデジタル地図に切り替えると、地図市場のGDPは減少する。しかし、デジタル地図の実際の価値は1人当たり857万ウォン(約90万円)で、紙のマップよりはるかに高い。価値は大幅に上がったが、GDPにはむしろマイナスで捉えられるパラドックスだ。
印刷された百科事典、CD・アルバム産業も同様だ。GDPだけ見ると「衰退」したが、実際には無料検索とストリーミングが消費者の厚生を爆発的に育てた。
研究陣は、もし政策当局が「地図産業が衰退するので保護しなければならない」とデジタル地図を規制すれば、131兆ウォン(約13兆8,527億1,200万円)の社会的価値が毀損される可能性があると懸念した。
産業関連分析29兆vs実際の価値222兆…7.7倍の差
一部ではデジタル企業の経済貢献度を産業関連分析で推算する。研究陣が別途実施した産業関連分析によると、NAVERの付加価値の誘発効果は29兆ウォン(約3兆円)台だ。
しかし、報告書はこうしたアプローチの限界を指摘している。産業関連分析は伝統的な「生産」観点の測定であり、デジタル経済の真の価値である「ユーザー厚生」は捉えられないということだ。
生産の観点29兆ウォンとユーザー厚生222兆ウォン。7.7倍の差がある。
報告書は、「煙突産業」(重厚長大型の産業)の物差しでデジタル経済を測定することは本質的な誤りであり、プラットフォームの価値は生産ではなく消費者の便益にあると強調した。
「GDPは20世紀の指標…消費者余剰が21世紀の尺度」
研究陣は政策パラダイムの転換を促す。
まず、デジタルサービスの規制前に「消費者余剰影響評価」を導入すべきと主張している。特に検索、地図といったデジタル必須財に対する政策は、社会全体の厚生を考慮して、より慎重にアプローチしなければならないと提案した。
第2に、GDPを補完する新しい経済指標の開発が必要だ。報告書は、定期的にデジタル厚生を測定し、公表するシステムを整えることを提案。「測定できなければ管理できない」と指摘した。
第3に、無料で提供されるデジタルサービスでも社会的価値は莫大なため、現代版「公共財」として認識する観点の転換が必要だと強調した。
研究陣はGDPが20世紀の製造業時代の指標であるならば、消費者余剰は21世紀のデジタル時代の尺度だとした。
クズネツの90年前の警告「GDPで厚生測れない」
皮肉なことに、GDPの概念を作った経済学者サイモン・クズネッツは1934年に既に警告していた。 「国家の厚生はGDPでほとんど測定できない」。
90年が過ぎた今、その警告はデジタル時代にさらに切実になった。
紙の地図が消えてGDPは減ったが、我々の手には世界地図が握られている。百科事典を買う金がなかった時代は過ぎ、今や誰もが知識にアプローチする。
見えない物がより大きな価値を持つ時代。韓国のデジタル経済の「見えない222兆ウォン」はその始まりに過ぎない。
 
    
 
             
             
            