2021年秋、「イカゲーム」の人気が世界中を取り巻いた時、多くの人たちが問うた。
「これが終わりなのか、始まりなのか?」
4年が過ぎた今、38万9440件のデータが有意なヒントを提供する。NETFLIX(ネットフリックス)のグローバルトップ10(Netflix Global Top 10)のデータを分析した結果、Kコンテンツは一過性の現象ではなく、グローバル文化産業の新たなパラダイムを提示していた。
目次
◇圧倒的数値で証明されたKコンテンツの競争力

Kコンテンツは平均36.8ヶ国でトップ10に入った。コンテンツ全体の平均(13.9ヶ国)の2.6倍、非英語コンテンツの平均(28.2ヶ国)よりも30%高い数値だ。64作のKコンテンツのうち70%が10カ国以上で成功した点は、これが単純な「韓流ブーム」を越えた構造的競争力であることを示している。

時系列分析はより印象的だ。新規Kコンテンツの進出は2021年の8作から2022年に15作、2023年に22作と急増し、2024年にも17作が追加された。コンテンツの影響力指数(CDI)もKコンテンツ平均が0.253で、全体の平均(0.131)の2倍に達する。CDIは、特定のコンテンツがどのくらい長く、どのくらい多くの国で、どれだけ高い順位で人気を維持しているかを総合した指標だ。「イカゲーム」(0.842)は9603個のコンテンツ中、3位を記録。「ザ・グローリー」(0.564)、「地獄が呼んでいる」(0.548)、「今、私たちの学校は…」 (0.602)など、後に続く作品も上位1%に入る成果を上げた。
◇多様性が作った持続可能なエコシステム
韓国のコンテンツ多様性指数(Shannon Entropy)は1.976で94ヶ国中3位だ。興味深いのは上位10ヶ国のうち5ヶ国がアジア国家だという点だ。日本(1位、1.981)、台湾(2位、1.979)、韓国(3位、1.976)、香港(4位、1.970)、タイ(5位、1.967)の順で、これらの共通点は英語コンテンツの依存度が低いということだ。韓国の英語コンテンツの比率は35.7%で全体の平均(66.3%)の半分程度だ。

さらに注目すべき点は、韓国が「コンテンツ長期滞在順位」で94ヶ国中93位という事実だ。ほぼ最下位だ。しかし、これこそが韓国のコンテンツエコシステムの健全性を示す逆説的指標だ。1位のロシアは同じコンテンツが継続してトップ10を占め、新しい作品に触れられる機会が少ない一方、韓国はコンテンツが頻繁に変わり、様々な作品の視聴機会を得る。毎週3.3の新しいコンテンツがトップ10に入るこのダイナミクスは、創造的な試みを可能にする。
韓国のグローバルブロックバスター依存度は47%で、全体の平均(77.1%)より著しく低い。ロシア(89.3%)、モロッコ(86.9%)などが数少ない大作に依存している間、韓国は様々なジャンルと規模のコンテンツをバランスよく消費した。これは市場の多様性が創作の多様性につながる好循環構造を作り出した。

◇グローバルOTTと韓国の協業成功モデル
Kコンテンツ成功のカギは、NETFLIXをはじめとするグローバルOTTと韓国コンテンツ事業者との革新的な協業だ。NETFLIXは190カ国の配給網とビッグデータを提供し、韓国の制作会社は創造的なコンテンツを生産する相互補完的な関係を構築した。
「イカゲーム」はNETFLIXにおいて、28日で約1億1100万世帯が視聴する最高記録を打ち立てた。NETFLIXは2023~2026年に韓国コンテンツに約3兆2,500億ウォン(約3,484億7,000万円)を投資する計画で、約6万8000の雇用創出が予想される。韓国コンテンツの輸出額は2021年の124億ドル(約1兆8,315億3,500万円)から、2023年には141億6,500万ドル(約2兆900万円円)と約14%増加した。
特に注目すべき点は創作の自律性の保障だ。グローバルOTTは制作過程に干渉せず、韓国の制作陣の創造性を尊重した。こうした協業は韓国コンテンツの制作環境も革新した。十分な制作費の支援で韓国ドラマも映画レベルのクオリティを実現できるようになり、グローバルポストプロダクションインフラを活用して、視覚効果とサウンド品質が飛躍的に向上した。
◇文化的特殊性と普遍性のバランス
Kコンテンツの成功の秘訣は文化的特殊性と普遍性の絶妙な調和にある。 「イカゲーム」は、韓国の伝統的な遊びを通して世界の不平等を取り上げ、「ザ・グローリー」は校内暴力から出発し、復讐と正義という普遍的な情緒に触れた。初週の平均進出国数が2021年の7.0ヶ国から2025年には10.1ヶ国と44%増加したことは、こうした戦略の成功を立証している。

◇持続可能な成長のための課題
しかし、現在、韓国のOTT活性化のための法・制度的整備は不十分だ。OTTサービスは放送法の適用を受けておらず、グローバル事業者と韓国の事業者の間で逆差別が発生している。
第一に、韓国のOTTコンテンツの制作支援を強化しなければならない。制作の政策資金の拡大、税額控除の拡大、中小制作会社のためのファンド助成が急務だ。第二に、K-OTTのグローバル進出を戦略的に支援しなければならない。海外進出を担う専門部署の設置、グローバル流通技術の開発、東南アジアをはじめとする段階的な市場拡大が必要だ。第三に、公正な競争環境を作り出さなければならない。IP収益配分の明確化、違法流通防止の強化、グローバルOTTに対する義務賦課など、法制度の改善が求められる。それとともに、韓国のOTTの競争力確保のための制度の障壁を撤廃しなければならない。
◇Kコンテンツが作る新しい標準
4年間のデータが証明したのは、Kコンテンツの成功が偶然ではなく必然だったという事実だ。世界がいくつかのブロックバスターに画一化している間、韓国は多様性を武器にした。グローバルOTTとの協業はこれを加速化した。
38万9440のデータが示す未来は明らかだ。多様性が競争力になる時代、創造性が規模に勝つ時代が来た。今、我々が作っていくのはKコンテンツを越えた「Kスタンダード」だ。重要なことは、この成功が続くよう、体系的な支援と公正な競争環境を構築することだ。Kコンテンツの成長は韓国の文化産業の未来であるだけでなく、グローバル文化の多様性の砦になるだろう。
<筆者>鮮文大学経営学科教授、OPEN ROUTE(オープンルート)研究委員で、情報通信技術(ICT)とメディア分野の専門家だ。メディアや経営関連の学会でも活発に活動している。メディア政策関連の各種研究班とタスクフォース(TF)で活動し、メディア産業を見る幅広い専門性を兼ね備えている。メディア産業における社会・経済効果についての研究を継続しており、メディアコンサルティングと研究を遂行するOPEN ROUTEを運営している。
<画像・資料=鮮文大学経営学科キム・ヨンヒ教授>
