韓国の李在明(イ・ジェミョン)大統領が15日に大統領府で主宰した規制合理化委員会の第1回全体会議は、スタートアップエコシステムに少なくない含意を残した。先端産業のネガティブ規制転換、4大分野のメガ特区導入、規制サンドボックスのアップグレード、開業関連の行政書類の50%以上削減など、初期企業と革新事業者に直接影響を及ぼすとみられる内容が多く含まれたためだ。
この日の会議は、1998年に発足した規制改革委員会が28年ぶりに「規制合理化委員会」に名前を変え、委員長が国務総理から大統領に格上げされて開かれた初の全体会議だった。会議には副委員長3人と民間委員26人、金民錫(キム・ミンソク)国務総理ら関係省庁の長官と大統領府の参謀ら60人余りが出席した。
「言っておきながら不安になった」…ネガティブ規制の両面
今回の会議の核となるメッセージは「ネガティブ規制への転換」だ。李大統領は「先端分野において、ネガティブ方式に規制システムを転換することが必要だ」とし、「『これだけせよ』と定めてしまうと、現場では競争力を失うことになる」と強調した。法令で禁止したものだけ除き、残りはすべて許容する形で、これはロボット・バイオ・AIなど急速に変化する領域でポジティブ方式が現実に追いつかないという問題意識が土台になっている。
興味深いのは大統領自らが表わしたアンビバレンスであることだ。李大統領は「私も正直、このように言っておきながら、とても不安だ」とし、「問題が生じたらすぐに禁止するか、統制しなければならない」と付け加えた。2014年のセウォル号の事故当時、旅客船の使用年限の規制緩和が事故原因の一つとして指摘されたことを取り上げ、「産業・経済的必要性から規制を大幅に緩和したが、それが生命と安全を脅かす状況になれば、歴史に残る最悪の大統領として記録されることもあり得る」とした。規制緩和の方向性と安全確保の間でバランスをどのように取るかが、結局、実行段階のカギであることを示唆した発言だ。
メガ特区、既存の小規模特区とは性格が異なる
最も注目すべき政策は、全国を5つの超広域圏と3つの特別自治道に再編する「5極3特」支援のためのメガ特区だ。従来は全国2400余りの地域で80以上の特区が小規模に分散し運営されてきたが、今後は広域・超広域単位にまとめてロボット(産業通商省)・再生エネルギー(気候エネルギー環境省)・バイオ(保健福祉省)・AI自律走行車(国土交通省)の4分野を集中的に育成する。既存の規制自由特区・研究開発特区などとの関係は、今後の特別法の制定と指定手続きの過程で具体化される見通しだ。
メガ特区の入居企業が受けることになる規制特例は三つだ。1つ目は「メニュー表式規制特例」だ。地方政府と企業が必要な規制緩和項目をあらかじめ準備しておけば、需要者が直接選択できる方式だ。2つ目は「需要応答型規制猶予」だ。メニュー表になくても企業や地方政府が直接要請すれば審議を経て規制を排除・緩和する。3つ目はスタートアップに特に意味のある「アップグレード規制サンドボックス」だ。大規模な実証、手続きの簡素化、審議期間の短縮など、既存のサンドボックスより改善された実証環境をつくるという構想だ。
これに財政・金融・税制・人材・インフラ・技術開業・制度など7大統合支援パッケージが結合される。特区内の環境影響評価と認可の手続きは60日以内に短縮され、特区に移転する企業や職員のための追加優遇も検討対象だ。
規制サンドボックス、量的成長の次の段階
韓国型規制サンドボックスは2019年の導入以降、2025年2月時点で累積1752件の承認、373件の規制改善という成果を上げた。現在はICT融合・産業融合・革新金融・規制自由特区・スマート都市・研究開発特区・モビリティ・循環経済の8分野が、6つの省庁で運営されている。政府は2025年4月、複数の省庁にまたがる規制サンドボックスの標準運営指針を設け、付加条件の乱発と法整備の遅延といった慢性的な問題の解決に着手した。
今回発表された「アップグレード規制サンドボックス」は、実証段階で規模を拡大し、審議期間を減らすことに焦点を当てている。実証環境自体は明らかに広がるわけだ。ただ、これまで韓国型サンドボックスの構造的ボトルネックと指摘されてきただけに、法整備遅延の問題まで今回のアップグレードで扱われるかは現在の発表だけでは確認できない。特別法制定の過程で、この部分が併せて整備されるのかが実効性を左右するカギとなるだろう。
開業行政書類50%削減… AI規制ナビゲーターまで
政府は規制・許可・承認・免許・特許申請時に提出する書類を50%以上削減する目標を立てた。行政機関で発行する書類の大部分の提出を免除し、残りの書類も必須でなければなくすか、分量を半分に減らす。初期開業者にとっては最も実感できる領域だ。
現行の規制を一目で見ることができるAIベースの「規制ナビゲーター」システムの開発も既に着手している。複雑な規制体系で道を探すために時間を費やさなければならなかった初期企業の立場からは意味ある変化だ。不要な行政調査も50%削減を目指し、法的根拠のない調査は廃止し、存続する調査もオンライン転換する。国務調整室傘下の官民合同規制合理化推進団には、公務員だけでなく、企業や経済団体の人材も派遣される。
地方ベンチャーエコシステムとのつながり
メガ特区構想は中小ベンチャー企業部(省)が先に発表した「地域拠点開業都市」構想と連動する。中小ベンチャー企業部は、地域拠点の開業都市を2030年までに10ヶ所に拡大し、地域の中小企業・スタートアップに重点投資する地域成長ファンドを14の市・道にそれぞれ1つ以上、計3兆5,000億ウォン(約3,772億8,000万円)規模で造成すると明らかにした。複数の地域が共にする「広域連携型規制自由特区」も、来年、2ヶ所の試験運営後、2030年までに5ヶ所に拡大する。
首都圏の集中を緩和し、地方ベンチャーエコシステムの活性化を図る政策は、規制緩和(メガ特区)と資金供給(地域成長ファンド)、インフラ(開業都市)を軸に複数の省庁にまたがって連携する流れと見ることができる。
「ツァーリ制度」と副委員長の人選から読み取れるシグナル
会議では規制調整の実行力をめぐり、興味深い場面も見られた。民間委員の一人が「大統領に調整権限が委任される『ツァーリ制度』を導入してはどうか」と提案すると、李大統領は「我々のスタイルだ」とし「本当に必要だ。全面導入して、実際に活用できればいい」と応じた。その上で、「制度を作れば悪用する人も出てくるため、民主的統制もうまく行なわなければならない」と条件も付けた。産業通商部のキム・ジョングァン長官は「ロボットメガ特区は私が一度ツァーリになりたい」と述べた。
副委員長の人選も注目に値する。企業現場の経験があるナム・グンボム前S-1(エスワン)代表、政界出身のパク・ヨンジン元「共に民主党」議員、規制緩和を一貫して主張してきたイ・ビョンテ韓国科学技術院(KAIST)名誉教授ら精通する3人があてられた。李大統領は「お三方は全く異なる視覚を持たれている。一生懸命議論を戦わせても、感情的になって関係を壊すことなく、バランスを取っていきましょう」と述べ、意図した人選であることを匂わせた。
残る課題、「今回は違うのか」
方向性ははっきりしているが、実行力に対する懐疑的な見方も少なくない。李明博(イ・ミョンバク)元大統領は規制を「電柱」に、朴槿恵(パク・クネ)元大統領は「チョン・ソンイ(ドラマ『星から来たあなた』の主人公)のコート」を例に挙げ、徹底的に討論したが、実感できるほどの改善は見られなかった。文在寅(ムン・ジェイン)、尹錫悦(ユン・ソクヨル)政権も規制を「爪の下のとげ」と呼び、改革を叫んだが、結果は似ていた。
経済紙のソウル経済が引用した駐韓米商工会議所のアンケートでは、回答企業の68.8%が韓国の規制環境を「制約的」または「非常に制約的」としたことが分かった。このような現実認識の上で今回の改編が推進されるだけに、宣言が現場での実感変化につながるかがカギとなる。韓国の有望スタートアップが本社を米国・シンガポールなどに移転させる「フリップ」現象、グローバルユニコーン企業の多数の事業モデルが韓国内で制限される構造、外国人開業者のビザ・データ規制など、スタートアップエコシステム固有の課題が今回の枠の中でどれだけ具体的に取り上げられるかが試される見通しだ。
政府は上半期にメガ特区特別法(仮称)の制定、下半期に指定申請の受付を目指している。自治体・企業が計画を樹立して申請すれば、規制合理化委員会の審議を経て産業通商部長官が指定する方式だ。ロボット、バイオ、AIのスタートアップは、特区の指定段階から現場需要をどのように設計に反映させるかがカギになると見ている。
