1.序論:美容医療アプリは、いま本当に成長しているのか。

江南(カンナム)駅周辺を歩いていると、至るところで目にする「カンナムオンニ」の広告ポスター。現在、韓国の美容医療プラットフォームはどの段階にあるのでしょうか。

2020年から2025年にかけて、韓国の美容医療プラットフォーム市場は急速な成長を遂げてきました。市場調査会社Embrain(エムブレイン)によると、2025年時点で10代の美容整形・美容医療アプリのインストール数は前年比57.4%増加しています。これは、市場の中心が急速に「Zalpha世代(Z世代+アルファ世代)」へと移行していることを示しています。 

病院選びの一連の流れを、モバイルで検索・比較・共有することに慣れた世代をいかに取り込めるかが、プラットフォームの成否を分ける重要なポイントとなっています。こうした動きを受けて、主要な美容医療プラットフォーム各社は、モバイルネイティブ世代に最適化したUI/UXの見直しや、ショートフォームの口コミコンテンツの強化に力を入れています。

この記事では、規制環境の変化と世代交代という大きな流れの中で再編が進む美容医療プラットフォーム主要3社(ヒーリングペーパー、ケアラボ、ファーストレイン)について比較・分析を行います。各社がどのような戦略的差別化とビジネスモデルの革新によって競争優位を確立しているのかを考察していきます。

2.カンナムオンニ(ヒーリングペーパー)

2.1.企業概要

Healing Paper(ヒーリングペーパー)は、医学部出身のホン・スンイル代表とパク・ギボム副代表により、2015年1月に共同で設立されました。創業当初は慢性疾患管理サービスを展開していましたが、同年9月に美容医療情報プラットフォーム「カンナムオンニ」へとピボットし、本格的な成長軌道に乗りました。財務面では、2024年に売上高530億ウォン(約56億円)を記録し、前年比で約20%の成長を達成しています。さらに営業利益は129億ウォン(約14億円)となり、黒字を維持しています。2023年時点の営業利益率は29%に達しており、マーケティング費用を抑えつつ事業規模を拡大できたことで、プラットフォームとしてしっかり利益を出せることが示されました。こうした実績を背景に、2025年2月にはAltos Ventures(アルトスベンチャーズ)などが参加したシリーズCラウンドで総額428億ウォン(約45億円)規模の資金調達を実施しています。この過程で企業価値は約6,000億ウォン(約632億円)と評価され、2023年と比べて2倍以上に上昇しました。資本市場では、カンナムオンニは単なるアプリの枠を超え、グローバル美容医療分野における「スーパーアプリ」、さらには有望なユニコーン候補として評価されています。

革新の森に基づくHealing Paperの財務損益データ

カンナムオンニの日本進出成果

カンナムオンニは、韓国と日本の両市場で高い成果を上げています。公式発表によると、2025年6月時点で累計ユーザー数は750万人を突破し、韓国約2,700カ所、日本約1,500カ所を含む、合計4,200以上の医療機関ネットワークを構築しています。サービスの利用も活発で、2025年9月時点における日韓合計の累計予約件数は130万件を超えました。さらに、240万件の実利用レビューと600万件にのぼる相談申請データは、情報の非対称性を解消する重要な資産として活用されています。現在の月間アクティブユーザー(MAU)は約30万~40万人規模と推定されています。また、アプリ分析会社Sensor Tower(センサータワー)によると、2024年初頭を境に日本国内のデイリーアクティブユーザー(DAU)が韓国を上回るなど、海外ユーザーの比率が大きく増加しました。日本進出から5年で、提携医療機関数において韓国最多を誇るトップサービスへと成長しています。さらに、2024年11月にはタイでのサービス提供を開始し、東南アジア市場への展開を本格化させるなど、グローバル美容医療プラットフォームとしての存在感を強めています。

革新の森に基づくHealing Paperの訪問者データ 

革新の森のデータによると、Healing Paperの韓国ユーザー構成では、20代以下の女性が48.4%と最も大きな割合を占めています。また、30代以下が全体の84.5%に達しており、主要3社の中でも特に若年層の利用が目立つ構成となっています。

2.2 サービス企画とUX戦略

①信頼できるデータ基盤の構築とレビュー機能の高度化(2021~2023年)

2021年以降、カンナムオンニは「ユーザーの信頼」を確保することを重視し、レビューの信頼性を高めるための技術的な取り組みを進めてきました。代表的なのが「レシート認証レビュー」で、ユーザーが実際の支払い情報をOCRで証明しなければ投稿できない仕組みにより、偽のレビューを防いでいます。さらに、医療費の分かりにくさや情報のばらつきを解消するため、価格帯や設備、待ち時間、接客対応などを統一フォーマットで収集し、比較しやすい環境を整えました。レビューの信頼性を高めるための二重チェックも導入しています。また、若年層の利用スタイルに合わせて、紙のレシートだけでなく、カード利用通知や銀行アプリの画面キャプチャなど、複数の認証方法を用意し、利用のハードルを下げています。加えて、AIによる24時間の監視体制を整え、不自然なレビューや類似テキストを検知して不正行為を防止しています。さらに、来院後のユーザーに対してフォローコールを行い、価格の不当表示やレビュー強要といった医療法違反の問題がないかを確認しています。これらの取り組みは、「違反が6回で利用停止」という厳しいルールとともに、プラットフォームの信頼性向上を支えています。

Healing Paperのレシート認証レビューのUI/UX

② B2Bソリューション(SaaS)の統合によるリアルタイム予約エコシステムの構築(2023~2024年)

2023年半ば以降、Healing Paperは、自社開発のCRMソリューション「KOS」を中核に、病院の運営システムと直接連携する「SaaS統合型マーケットプレイス」への転換を本格化させました。KOSは単なる顧客管理機能にとどまらず、カンナムオンニの予約データと各医療機関の運営データをリアルタイムで連携する統合ソリューションです。従来の非同期型予約の課題を解決するため、主要なCRMソリューションとAPI連携を行い、リアルタイムでデータを同期する仕組みを構築しました。これにより、ユーザーは病院からの確認電話を待つことなく、アプリ上で実際の予約可能時間を確認し、その場で予約を確定できるようになりました。

さらに、医療機関向けの「カンナムオンニ パートナーセンター」は、単なる管理ツールではなく、ユーザーの行動データをダッシュボードで確認できる重要なインターフェースとして機能しています。カウンセリング担当者は、来院予定の顧客の検索履歴や関心のある施術を把握し、それに合わせた提案ができるため、カウンセリングの成功率向上につながっています。加えて、KOSは、カンナムオンニの予約だけでなく、NAVER(ネイバー)やKakaoTalk(カカオトーク)といった外部流入チャネルもまとめて管理できる仕組みを提供しており、医療機関の業務効率を大きく高めています。これらの取り組みにより、プラットフォームと医療機関、そしてユーザーがスムーズにつながり、美容医療市場のデジタル化を支えるO2O基盤が一層強化されています。

③ 悩みの部位を起点とした超パーソナライズUXとグローバル標準の確立(2024~2026年)

2024年以降、カンナムオンニは、膨大なデータの中からユーザーが迷わず選べるようにする「超パーソナライズ」に力を入れています。アプリを起動すると、まず自分の悩みの部位を選ぶ仕組みになっており、専門知識がなくても直感的に使える設計となっています。AIはユーザーの選択内容や行動データをもとに、最適な施術情報やビフォーアフター、個別に合ったキャンペーンをトップ画面に表示します。この仕組みは韓国だけでなく、日本など海外でも同様に展開されており、言語の壁を越える共通UXとして機能しています。さらに、2025年から2026年にかけては、多言語レビュー機能が進化し、韓国ユーザーのレシート認証付きレビューがAIによってリアルタイム翻訳され、世界中のユーザーに共有されています。これにより、Kビューティーへの信頼がより広がっています。

2.3.ビジネスモデルおよびUSP

カンナムオンニは、医療機関とユーザーを結びつける両面プラットフォーム型のビジネスモデルを基盤としています。従来の掲載課金モデルにとどまらず、ユーザーの実際の行動に連動したCPV(Cost Per View)型広告収益を主軸としています。また、医療機関の運営効率化を支援するCRMソフトウェアや医療機器の販売といったBtoBソリューション領域にも事業を拡張し、収益源の多様化を進めています。海外展開においては、日本市場での高いシェアを背景に、全体売上の約30%を海外で創出しています。さらに、訪韓外国人観光客と現地ユーザーの双方を取り込むクロスボーダー戦略を展開しています。

中核的な競争力は、データ資産と運営インフラにあります。100万件以上のレシート認証付きレビューや医師の経歴情報を提供することで、ユーザーの情報探索を支援しています。また、AIによる不正レビューのフィルタリングや、保健当局のガイドラインに準拠した医療広告の自主審査プロセスを導入することで、プラットフォームの信頼性を維持しています。さらに、韓国と日本にまたがる統合ネットワークは、新規参入者に対する一定の参入障壁として機能しています。

ソウル市江南区・論峴洞に位置するオンニガイドセンター

一方で、ソウル江南区に外国人専用の複合体験施設オンニガイドセンターを開設し、オフラインチャネルへの展開を進めています。同センターでは、3D機器を用いた肌分析、1対1での医療機関マッチングおよび予約サポート、多言語対応スタッフや通訳者の常駐などを通じて、従来の非対面プラットフォームにおける情報の非対称性や言語の壁を補完しています。多言語対応の外国人向け専用サイト、オンニガイドの開設とあわせて、グローバル顧客との接点拡大を図る取り組みと位置づけられます。

3.バビトーク

3.1.企業概要

BABITALK(バビトーク)は、KOSDAQ上場企業であるCarelabs(ケアラボ)が株式の99.56%を保有する主要子会社であり、グループ内で安定したキャッシュカウとしての役割を担っています。2024年の売上高は前年比約21%増の307億6,000万ウォン(約32億円)を記録し、営業利益は42億9,000万ウォン(約5億円)、営業利益率は13.9%に達しました。プラットフォーム企業としては異例ともいえる、赤字を前提としない成長を実現しており、2024年上半期時点で34四半期連続の営業黒字を維持しています。2025年も広告運用の効率化を背景に、堅調な成長を続けています。

株主構成を見ると、2025年時点でWonik Holdings(ウォニックホールディングス)がCarelabsの31.77%を保有する最大株主となっており、この体制を基盤に日本市場や海外への展開を進めています。

革新の森に基づくバビトークの財務損益データ

2012年に韓国で初めて美容医療サービスを開始したバビトークは、2025年時点で累計ダウンロード数が900万件を突破し、韓国内の月間アクティブユーザー(MAU)約31万人を安定的に維持しています。現在ではカンナムオンニと並び、市場における寡占構造を形成しています。2026年時点で累計レビュー数は約100万件に達し、全国約2,500の医療機関ネットワークを構築することで、意思決定関与度の高い美容医療分野において高い情報競争力を有しています。さらに、公式採用情報によると、2024年時点で美容医療アプリにおける利用時間シェアは57%に達し、業界1位を記録しました。これは、他の競合アプリと比較して、ユーザーがプラットフォーム内で活発に情報探索を行っていることを示しています。

革新の森に基づくバビトークの訪問者データ

ユニークユーザー数を見ると、性別・年齢構成はカンナムオンニと非常によく似た傾向を示しています。特に20代以下の女性が49.3%と最も多く、全体の女性比率も80.4%と高い水準です。ただし、30代の割合は21.8%と、カンナムオンニの26.7%より低く、相対的に20代の利用者比率が高いことが分かります。

3.2.サービスおよびUX戦略

① 共感を軸にしたコミュニティづくりと透明性を基盤とする信頼の確立(2021~2022年)

サービス初期、バビトークは、カンナムオンニがレビュー中心で信頼を築く中、コミュニティの「匿名性」と「共感」に着目した戦略を選びました。アプリ内の掲示板では、病院情報だけでなく、施術後の回復に関する悩みや不安をユーザー同士で共有できる場が用意されています。このコミュニティ中心のUXにより、ユーザー同士の交流が活発になり、アプリ内での滞在時間も伸びました。

さらに2022年には、「美容整形はシミュレーションではない」というメッセージを掲げたキャンペーンを実施し、副作用のリスクを伝えることで透明性を強調しました。また、「副作用トーク」掲示板の運営や、「手術室の映像を公開している医療機関」の情報提供を通じて、安全性に関する情報も積極的に発信しています。こうしたレビューや安全関連データは、バビトークの中核コンテンツとして蓄積され、ユーザーからの信頼形成に大きく寄与しています。

バビトークのコミュニティ中心のUI/UX

バビトークの透明性重視戦略

② データ活用を通じた情報探索の最適化と運営効率の向上(2022~2024年)

2022年から、バビトークは、収益構造の多様化とサービス利便性の向上を目的に、BtoBソリューション「UnoCare CRM(ウノケアCRM)」の普及を進めてきました。UnoCare CRMは、医療機関の診療スケジュールとプラットフォーム上のデータをリアルタイムで連携させることで、ユーザーがアプリ上で即時に予約を確定できる環境を提供しています。その結果、予約につながる割合の向上にもつながっています。

2024年には、蓄積された約82万件のレビューデータを活用し、「ビューティー悩みフィルター」を導入することで、ユーザーの情報探索コストの削減に注力しました。これまでの地域や価格ベースの検索に加え、「眠たそうな目」や「薄い唇」といった具体的な悩みに合わせて結果が表示されるため、より自分に合った情報を見つけやすくなりました。また、気に入ったレビューに登場する医師や施術内容をそのまま相談につなげられる機能や、実際のカウンセリング体験を共有する「現地訪問レビュー」なども用意されており、ユーザー目線の使いやすさがさらに高まっています。

③ AIによる超パーソナライズドプラットフォームへの進化とグローバルインフラの拡張(2025~2026年)

2025年、バビトークはアプリの大幅なリニューアルを行い、AIを活用したパーソナライズ機能を強化しました。ホーム画面は、行動データに基づくレコメンドフィードと個別に最適化された特典タブで構成されており、ユーザーは検索をしなくても自分に合った情報へアクセスできるようになっています。グローバル展開においては、2025年下半期に日本向け専用ウェブサービスを開始し、Kビューティー医療のインバウンド需要の取り込みを本格化しました。日本のユーザーが日本語で情報収集から予約まで完結できる環境を整え、言語の壁や情報のギャップを解消しています。2026年現在、バビトークはこれらのBtoB SaaS基盤とAIによるパーソナライズ技術を融合させ、海外ユーザーと韓国の医療機関をつなぐグローバル・ビューティーテックプラットフォームへと進化を続けています。

2025年、全面的にリニューアルされたバビトークのアプリUI/UX

3.3.ビジネスモデルと収益構造

主な収益源は、医療機関のイベント掲載や検索結果上位表示を通じた広告手数料(CPC/CPT)です。最近では、比較的短い周期で利用される皮膚科施術に注力し、新たな成長の柱として収益の幅を広げています。また、レビューから予約、イベント探しへとスムーズにつながるUX設計によって、広告の効果も高めています。

また、同サービスの中核的な強み(USP)は、信頼を基盤としたコミュニティエコシステムにあります。「副作用安心ゾーン」や「現地訪問レビュー」を通じて副作用の事例をオープンに共有し、術後のケアサポートも提供しています。こうした取り組みにより、ユーザーからの信頼を高めています。累計100万件以上のレビューと約31万人のMAU、そして「傷跡」や「左右非対称」といった具体的なキーワードで検索できる「ビューティー悩みフィルター」も、同社の重要なデータ資産として機能しています。

バビトークのAI検索機能

収益の広がりという観点から見ると、日本やタイを中心としたクロスボーダー医療観光の拡大と、LLMを活用したAI検索やパーソナライズフィードの導入が注目されます。2025年に日本向けのウェブサービスを開始して以降、日本語で相談できるかどうかを事前に確認できる機能など、外国人ユーザーにとって使いやすい環境を整えてきました。また、350万件以上の投稿データを学習したAIを活用し、情報探索の効率向上にも取り組んでいます。こうした技術やチャネルの蓄積が、今後どのように収益モデルとして具体化されるかは、今後の実行結果を見て判断する必要があります。

4.女神チケット(ファストレーン)

4.1.企業概要

FASTLANE(ファストレーン)は、韓国国内でトップクラスの皮膚施術情報プラットフォーム「女神チケット」を運営しています。美容整形手術を中心とする競合サービスとは異なり、同社は皮膚施術という高頻度かつ比較的意思決定負荷の低い領域に注力することで、独自のエコシステムを構築してきました。2025年上半期時点で、累計ダウンロード数は360万件、累計会員数は85万人、月間アクティブユーザー(MAU)は53万人に達しており、安定したユーザー基盤を確立しています。また、同期間における海外MAUは前年同期比173.4%増の4万人を突破し、グローバルユーザーの流入も拡大しています。2020年代に入りモバイルプラットフォームの浸透が進んだことで、市場の透明性は急速に高まりました。女神チケットは155万件以上の実体験レビューを提供することで情報アクセス性を強化しています。また、2023年以降に本格化したエンデミックへの移行は、スキンケア需要の増加につながり、プラットフォームのトラフィック拡大にもプラスに作用しました。

革新の森に基づくFASTLANEの訪問者データ

訪問者のユニークユーザーにおける性別・年齢構成を見ると、30代(34.1%)と20代以下(34.3%)がほぼ同水準で分布しています。さらに、40代以上の比率が31.5%と3社の中で最も高く、幅広い年齢層、特に比較的年齢層が高いユーザー層を抱えている点が特徴です。また、男性比率も22.0%と3社中で最も高い水準となっています。

女神チケットのMAUとレビューデータ

FASTLANEの売上は毎年二桁成長を続けており、2022年の64億ウォン(約7億円)から2023年は91億ウォン(約10億円)、2024年には137億ウォン(約14億円)へと拡大しています。2024年には営業損失を約3億ウォン(約3,000万円)まで縮小し、第4四半期には四半期ベースでの黒字転換を達成するなど、成長と収益性のバランスを確立しました。こうした財務体質の改善を背景に、同社は2024年に100億ウォン(約11億円)規模のシリーズC資金調達を実施し、累計調達額は263億ウォン(約28億円)に達しています。

革新の森に基づくFASTLANEの財務損益データ

4.2サービスとユーザー体験

① 皮膚科施術特化インフラの構築と韓国初の安心ケア導入(2020~2023年)

女神チケットは、サービス初期から美容整形手術中心のプラットフォームとの差別化を図り、日常的に利用される皮膚科施術に特化したユーザー体験の設計に注力してきました。2020年に提供を開始した「皮膚科施術マップ」は、韓国の健康保険審査評価院の公共ビッグデータと連携し、ユーザーの位置情報に基づいて近隣クリニックの施術価格や評価を地図上で可視化することで、情報探索の利便性を高めています。また、業界で初めて導入された「副作用安心サービス(施術保険)」により、施術後の万一のトラブルにも対応できる仕組みを整えました。価格だけでなく、安全性や対応体制も含めて情報を提供することで、ユーザーが安心して選べる環境をつくっています。こうした初期戦略は、美容医療プラットフォームに付きまとう安全性への懸念を緩和し、競合サービスと比較して高いブランドロイヤルティを確立する基盤となりました。

② データに基づく探索最適化とAI診断ソリューション「F-RAY」の導入(2024年)

2024年、女神チケットは60万件以上に及ぶ施術レビューの蓄積データを活用し、ユーザーの意思決定時間を短縮するためのUX改善に注力しました。具体的には、各医療機関の強みとなる施術部位や、リアルタイムでの人気施術ランキングをホーム画面に配置することで、目的意識の高いユーザーが必要な情報に迅速にアクセスできる設計としています。同年にリリースされたAI皮膚診断サービス「F-RAY」は、施術およびカウンセリングプロセスの効率化を支える中核機能として位置づけられています。ユーザーは時間や場所にとらわれることなく、自身の肌状態を精密に把握できるようになり、医療機関側もカウンセリング時に施術効果をより客観的に説明することが可能となりました。こうした位置情報に基づく探索機能とデータドリブンな診断機能の融合は、ユーザー体験の高度化を促進し、プラットフォームの成長に寄与しています。

③ AI皮膚研究所の進化と世界的なメディカルビューティープラットフォームへの成長(2025~2026年)

2026年現在、女神チケットは単なる予約プラットフォームを超え、データを基盤とした「AIビューティーヘルスケアプラットフォーム」への転換を進めています。2025年にリリースされた「AI皮膚研究所」は、ユーザーがアップロードした顔写真をAIが分析し、肌の弾力やシワなどの主要指標を可視化する皮膚診断機能です。同社は「SEOULCon(ソウルコン) 2025」に出展し、グローバルインフルエンサーや海外来場者に対してこのAI皮膚分析技術を披露することで、韓国のメディカルビューティー技術の競争力を世界に発信しました。さらに、英語版サービス「YEOTI(ヨティ)」や中国語版サービス「女神团购」を展開し、多言語プラットフォーム基盤を構築しています。AI診断結果に基づいて個別最適化されたKビューティーコンテンツを提供するなど、超パーソナライズ体験も強化しています。現在は、蓄積されたスキンデータベースや3D施術原理の動画コンテンツなどの技術資産を組み合わせ、さらなるサービス高度化を進めているとしています。

女神チケットが2025年に導入したAI皮膚診断サービスおよびグローバルプラットフォーム「YEOTI」

4.3.ビジネスモデルおよび主要資産

女神チケットの主な収益源は、医療機関向けのインプレッション課金(CPM)型広告です。なかでも、成果につながりやすいプレミアム広告のリピート利用が、売上の伸びを支えています。さらに、ユーザーがアプリ上で施術チケットを事前に購入・予約できる仕組みによって、支払いの手間を減らしつつ、クリニック側のキャンセルリスクも抑えています。2023年第4四半期に黒字転換を達成した後、2025年9月には約100億ウォン(約11億円)規模のシリーズC資金調達を実施しました。現在は2027年のKOSDAQ上場を目標に、事業拡大を継続しています。

中核となる強みは、皮膚科施術という高頻度領域をいち早く押さえた点にあります。美容整形手術と比較して参入障壁が低く、月次・四半期単位での継続的な需要が発生する特性から、顧客生涯価値(LTV)およびリテンションの観点で構造的な優位性を確立しています。さらに、「AI皮膚研究所」で蓄積される肌データは、ユーザーがサービスを継続的に使う動機となるだけでなく、将来的には一人ひとりに合わせた商品提案や美容医療関連ビジネスへの展開にもつながる可能性があります。こうした方向性は経営側からも示されているものの、具体的にどのタイミングでどの程度収益化されるかについては、今後の動きを見守る必要があります。

グローバル展開では、単価の高い海外患者の受け入れを重要な成長ドライバーと位置づけています。中国人団体観光客のビザ免除といった環境変化も追い風に、インバウンド対応の体制を強化しています。また、歯科や眼科といった隣接診療科へのサービス拡張も並行して進め、プラットフォームの適用領域を拡大しています。

5.美容医療プラットフォームのポジショニングとグローバル事例

5.1韓国主要3社のポジショニングマップ分析

本ポジショニングマップに用いた数値はすべて、スタートアップ成長分析プラットフォーム「革新の森」のデータに基づいて算出しています。

「訪問者が多いサービスは、取引額も大きいのか」

[チャート1] x軸:総取引額(億ウォン)/ y軸:訪問者あたりの取引額(千ウォン)/ z軸:MUV(万人)

▎訪問者当たりの取引額:月間総取引額 ÷ 月間ユニーク訪問者数(MUV)

①カンナムオンニは、3社の中で最も少ないMUV(31万人)でありながら、最大の総取引額(約37.6億ウォン{約4億円})を記録しました。特に訪問者当たりの取引額(約1.2万ウォン)が突出しており、トラフィックに対する収益化効率の高さが際立っています。

②バビトークは、カンナムオンニより多い訪問者数(45万人)を有する一方で、総取引額(約6.4億ウォン{約7,000万円})および訪問者当たり取引額(約1,422ウォン{約150万円})は低水準にとどまりました。この結果から、同プラットフォームでは購買よりも情報収集やコミュニティ利用の比重が高いことがうかがえ、今後はコミュニティ資産を購買行動につなげる戦略的補完が求められます。

③ 女神チケットは、最大規模のMUV(64万人)を背景に、カンナムオンニに迫る総取引額(約35.1億ウォン{約4億円})を達成しました。一方で、訪問者当たり取引額は約5,484ウォン(約580万円)とカンナムオンニの半分程度にとどまっており、豊富なトラフィックを実際の購買へ転換する収益モデルの高度化が今後の成長の鍵となります。

「集まったユーザーは、実際の購買へとつながっているのか」

[チャート2] x軸:購入転換率(%)/ y軸:1年以内の再購入率(%)/ z軸:MUV(万人)

▎購入転換率:月間取引件数 ÷ 月間ユニーク訪問者数(MUV)×100

①カンナムオンニは、3社の中で突出した購入転換率(10.3%)を記録しており、流入したユーザーを確実に購入へと導き、その後も安定した再訪・再購入(47.5%)へとつなげる理想的なビジネスファネルを構築していることがわかります。

② バビトークは、購入転換率(0.7%)および再購入率(22.1%)ともに相対的に低い水準にとどまりました。これは、流入ユーザーが決済よりも情報収集やコミュニティ利用に偏っていることを示しており、単なる流入拡大ではなく、購入へと導くUX設計や特典の再構築が急務であることを示唆しています。

③ 女神チケットは、再購入率56.3%という高い数値を記録し、強い顧客ロイヤルティを示しています。一方で、購入転換率(3.3%)は相対的に低く、豊富なトラフィック(64万人)を初回購入につなげるためのハードル低減が今後の成長の鍵となります。

「どのサービスが、最もユーザーの購買行動を引き出しているのか」

[チャート3] x軸:年間平均購入回数(回)/y軸:1年以内の再購入率(%)/ z軸:平均取引単価(万ウォン)

①カンナムオンニは再購入率(47.5%)および利用頻度(年4.6回)ともに高い水準を維持し、安定した顧客ロイヤルティを確保しています。一方で、平均取引単価(約11.7万ウォン{約1万円})は相対的に低く、今後は高単価施術の提案やパッケージ商品の設計を通じて収益レバレッジを高めていくことが課題といえます。

②バビトークは、3社の中で最も高い平均取引単価(約20.3万ウォン{約2万円})を記録しており、高付加価値施術を中心とした決済構造が特徴です。ただし、再購入率(22.1%)および利用頻度はやや低調であり、単発の高関与施術に偏った利用傾向が反映されていると考えられます。今後は、低価格帯のメンテナンス施術の拡充やアフターケアとの連携を強化することで、リテンション向上と単価競争力の両立が期待されます。

③  女神チケットは、再購入率(56.3%)および年間購入回数(5.4回)ともに最も高い水準を示し、平均取引単価(約16.8万ウォン{約2万円})も安定しています。これは、顧客一人当たりの収益(LTV)が最も高い構造であり、皮膚科施術という高頻度領域に注力してきた戦略が奏功していることを示しています。

「いま最も勢いに乗っているのは、どのプラットフォームか」

[チャート4] x軸:取引額成長率(%)/ y軸:取引件数成長率(%)/ z軸:平均取引単価(万ウォン)

①2025年9月から2026年1月までのデータを分析した結果、バビトークは、取引額成長率(+220%)、取引件数成長率(+100%)、平均取引単価(約20.3万ウォン{約2万円})のすべての指標において3社中で突出した数値を記録し、ポジショニングマップの右上において独自の位置を確立しました。これは、同サービスが単なる情報探索チャネルから脱却し、高単価施術を軸とした収益化モデルへと転換しつつ、市場シェアを急速に拡大していることを示唆しています。ただし、この高い成長率には、もともとの取引規模が比較的小さいことによるベース効果が含まれている点にも留意が必要です。

②絶対的な取引額の増加額に着目すると、カンナムオンニ(+9.3億ウォン{約1億円})および女神チケット(+7.5億ウォン{約8,000万円})が市場全体の成長を牽引しています。すでに高いシェアを確保している中でも、安定した右肩上がりの成長を維持し、業界トップとしての地位を一層強固なものとしています。

5.2 世界の主要な美容医療プラットフォーム事例

①中国を代表する美容医療プラットフォーム、SoYoung(シンヤン、新氧)

米NASDAQ上場企業であるSoYoung(シンヤン)は、ユーザーが投稿する膨大なUGC(ユーザー生成コンテンツ)である「美容日記」と、厳格に検証された医療データを組み合わせることで、中国国内において圧倒的なシェアを確立した美容医療O2Oプラットフォームです。情報提供にとどまらず、医療機器メーカーの買収やオフラインの美容センター運営を通じて、施術の品質や価格の標準化にも取り組んでいます。さらに、提携医療機関に対してデータ基盤のB2B SaaSソリューションを提供することで供給網の結束を強め、情報探索から決済、アフターケアに至るまでを一体化した「コンテンツ・コミュニティ・コマース」エコシステムを構築しています。

<左>中国代表美容プラットフォームのSoYoung、<右>創業者のJin Xing(ジンシン、金星)

②米国を代表する美容医療プラットフォーム、RealSelf

米国のRealSelf(リアルセルフ)は、2006年に誕生した美容医療プラットフォームの先駆け的存在です。「コミュニティによる情報の透明性」を大切にしてきたサービスとして知られています。ユーザー投票によって形成される独自の意思決定指標「Worth It(やる価値あり)」データ、加工のない実際のビフォーアフター写真、さらに専門医によるアドバイザリーボードの検証を経た信頼性の高い情報を基盤に、月間アクティブユーザー(MAU)1,000万人規模を達成し、美容医療分野におけるグローバルスタンダードを確立しています。特に、2025年の大規模リブランディング以降は、MZ世代およびアルファ世代を主なターゲットに据え、ソーシャルメディア的要素を取り入れた信頼性の高いプラットフォームへと進化を遂げています。近年では、再生美容トレンドの牽引や一般ビューティーブランドへのB2B広告主の拡大を通じて、プラットフォームの影響力と収益基盤の双方を拡張しています。

<左>米国代表美容プラットフォームRealSelf、<右>創業者のTom Serry

③日本を代表する美容医療プラットフォーム、Tribeau(トリビュー)

2017年に設立されたTribeau(トリビュー)は、日本最大級の美容医療プラットフォームです。日本のユーザーの特徴でもある「丁寧に比較して選びたい」というニーズに応えるため、質の高いレビューと幅広い診療カテゴリを提供しています。「担当医師」で検索できる仕組みや、初心者にもわかりやすいガイドによって、初めての人でも安心して利用できる設計となっています。また、施術費用の5%が還元される仕組みが、ユーザーの継続利用を後押ししています。韓国のカンナムオンニが技術や皮膚施術を軸に日本市場へ展開しているのに対し、Tribeauはバビトークに近い戦略で、ローカル市場に最適化されたコミュニティ中心の信頼エコシステムを構築し、累計ダウンロード数200万件を突破するなど、日本市場における存在感を高めています。

<左>日本代表美容プラットフォーム Tribeau、<右>創業者のMou Dei

6.まとめ

今後の美容医療プラットフォーム市場は、単なる仲介アプリの枠を超え、医療機関の運営を支える中核インフラとしての「SaaS(BtoB)」競争と、ユーザーのライフスタイル全体を支援する「AIパーソナライズ診断」競争へと拡大していくと考えられます。カンナムオンニとバビトークは、蓄積された膨大な画像データを活用し、AIによって施術後の仕上がりや変化を予測する技術の高度化を進めています。これにより、ユーザーの情報探索コストを低減し、意思決定を支援することで、プラットフォームからの離脱を防ぐ強力なロックイン要素として機能する可能性があります。また、韓国市場の成熟や規制リスクへの対応として、外国人患者を対象としたクロスボーダー事業は、今後の成長を支える重要な柱になると見込まれます。その過程において、各社が構築してきたグローバル決済基盤や多言語対応の相談インフラは、企業価値を左右する主要な評価指標となるでしょう。

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