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今年の連休、日本と韓国が「お互いに向き合う」
2026年の秋は、日本と韓国の連休が珍しくし合同週に重なる年です。日本の「シルバーウィーク」は9月19日(土)〜23日(水・祝)の5連休で、この並びが実現するのは2015年以来11年ぶり。韓国の「秋夕(チュソク)」連休は9月24日(木)前後からの4日間で、前年の10連休から一転して超短期集中型になりました。長さや期間は違っても、行き先はお互いを向いています。日本人は韓国へ、韓国人は日本へ。
JTBのによる予約動向調査でも、海外個人旅行の人気方面ランキングで定番のハワイに次いで韓国が3位に入っており、韓国旅行の人気は、はっきりと数字に表れています。韓国側の統計でも、2026年1〜7月の訪韓日本人は228万人で前年同期比18.8%増と過去最高の勢いです。なお中国の国慶節・中秋節連休(10月1日〜、最大8連休)も日韓双方への旅行需要を押し上げる要因の一つとして触れますが、本稿では主に日韓の動きに絞って見ていきます。
普段ビジネスニュースばかり追いかけている方にも、「推し活」や「ホカンス」といった言葉に日々触れているトレンド好きの方にも、今回はこの連休の共鳴を切り口に、日韓で静かに進む旅行産業における「主役の変化」について解説していきます。
結局みんな、どこへ向かっているのか?
韓国人 → 日本:鉄板に加え、地方都市の人気が急上昇
ホテルズドットコムの検索データによると、2026年秋夕の韓国人の海外旅行先検索で上位に来たのは、やはり東京・福岡・大阪のいわゆる鉄板コースでした。昨年は10連休だったのに、今年はたった4日間。だからこそ移動時間が短く中身の濃い旅行ができる旅先が選ばれているというのが同社の分析です。その影響もあってか、飛行時間わずか1時間30分の福岡は「2泊3日でも気軽に行ける」として、今回の秋夕予約で日本の人気目的地1位に浮上したというデータもあります。
一方で、松山・佐賀・熊本・大分といった直行便就航の地方都市に目を向ける動きも広がっています。「温泉とみかんが好きなら松山」「アートと島旅なら高松」「一足早く秋を感じたいなら札幌」。旅行ブロガーが指南するこうした地方都市紹介は、定番から一歩踏み出したいニッチな旅行を求める層に刺さっているようです。
日本人 → 韓国:週末+1日の「推し活渡韓」
日本人の海外旅行先として、今や定番となった韓国。韓国政府(文化体育観光部)と韓国観光公社の発表によれば、2026年1〜7月に韓国を訪れた日本人は228万人で前年同期比18.8%増。これは日本人の海外旅行者数(814万人)の28%にあたり、米国・台湾・タイ・ベトナムといった定番地域を上回る過去最高の比率です。
背景には、原油高による近距離旅行へのシフトや、日韓間の航空座席供給拡大(週間約34万9000席、2025年末比2.4%増)という「地味だけど効く」事情があります。
それに加え、シルバーウィークに合わせて福岡空港などに観光プロモーションブースを設置するなど、K-カルチャーを軸にしたマーケティングを重ねています。10月26〜30日には東京で「K-ビューティー・ウィーク」の開催も予定しており、韓国に関心のある多くの来場者が見込まれています。ヤノルジャリサーチの予測では、2026年通期の訪韓日本人観光客数は前年比5.7%増の約384万人にのぼり、これはインバウンドのピークだった2012年(352万人)を14年ぶりに更新する規模だといいます。
また、長期休みに限らず「週末+1日」でソウルや釜山を訪れ、美容クリニックやコスメ店を回ったり、アイドルグループのイベントや所属事務所などの聖地巡礼やカフェ巡りといった過ごし方をする人も増えています。連休の長さが足りなくても、K-カルチャーを楽しむという「行く理由」がはっきりしている限り、日本人の訪韓熱は当分冷めそうにありません。
「トラベルテック」最前線。旅行代理店を飛び越える韓国スタートアップたち
アウトバウンド支援:予約の「即時確定」がキーワード
◾️MyRealTrip
2026年4月、MyRealTrip(マイリアルトリップ)は日本の飲食店・体験予約プラットフォーム「Japan Ticket(ジャパンチケット)」とAPI連携を開始しました。相撲観戦、忍者体験、だるま絵付けといった文化体験から全国の飲食店予約まで、店舗からの返信を待たずにその場で予約・決済が完了する仕組みです。韓国語アプリでウォン建て決済までできるとなれば、「日本語で店に電話する」というハードルはもう過去のものになりつつあります。
また、先日、訪韓外国人向けインバウンド旅行プラットフォームCreatrip(クリエイティップ)の全株式を取得することを取締役会で決議しました。MyRealTripは2024年にCreatripへの戦略投資を行っており、今回の株式取得は、その投資を発展させた完全子会社化と位置づけることができます。
Creatripは2016年設立で、2026年4月時点の月間利用者数は170万人に上ります。台湾ではアプリ利用者数で1位、米国・日本でも2位につけるなど、海外ユーザーの取り込みですでに実績を上げています。
今回の買収によってMyRealTripは、韓国人の海外旅行(アウトバウンド)、韓国人の国内旅行(イントラバウンド)に加え、外国人の訪韓(インバウンド)まで、旅行に関する幅広い需要を一つの事業基盤でカバーする体制を構築する計画です。
この統合が今回の連休需要のタイミングで発表されたのは、単なる偶然というより、両方向の旅行者データを持つことの価値がそれだけ大きいということの表れでしょう。
インバウンド支援:空港に着いたら、まずコレを買う
一方、インバウンド需要に合わせた様々な決済サービスも登場しています。
WOWPASS(ワウパス)は、Orange Square(オレンジスクエア)が運営する訪韓外国人専用の決済プラットフォームです。
両替・決済・交通カードを1枚に統合した先払い式カードで、金融委員会から革新金融サービスの指定を受けています[15]。2026年3月にはBTSのソウル公演に合わせて訪韓したファンダムの消費が押し上げ要因となり、1日のチャージ額が30億ウォン(約3.3億円)を突破、累計チャージ額は1兆2544億ウォン(約1,380億円)を超えたと報じられました[16]。「空港に着いたらまずコレを買う」というのが、今や訪韓外国人観光客の「定番コース」になりつつあるようです。
他にも、韓国国内での外国人向け先払いサービスとしてNAMANEがあります。
NAMANEはiOrora(アイオロラ)が運営するサービスです。空港・百貨店・コンビニなどで即時発行・チャージが可能な「NAMANEカード」を展開し、自分の写真や推しの写真をデザインできるという遊び心も人気の理由の一つです。2024年に始まったAlipay+(アリペイプラス)との連携は、2025年末時点で新世界グループの百貨店・免税店での決済連携や、カカオペイ・ネイバーペイ・トスペイといった韓国国内の簡単決済サービスとの提携にも広がっており、これまで現金決済が中心だった明洞などの露店・伝統市場でもQRコード決済が可能になっています。
更に、旅行の効率を格段に上げるCatchTable(キャッチテーブル)というサービスもあります。
CatchTableは、韓国の電話番号を持たない外国人でも人気飲食店や美容サロンを直接予約できるプラットフォームです。グローバル版アプリは2026年5月時点で月間アクティブ利用者数(MAU)112万人を記録し、日本・台湾・香港からの利用者比率が高いのが特徴です[18]。2026年9月3日時点では国内・グローバル版を合わせた累計会員数が1,500万人、加盟店舗数は3万店を突破しました[19]。「限られた日程の中で、行列に並ばず人気のお店にサクッと入れる」この体験が、短い連休の満足度を大きく左右しているようです。
トレンドの裏側。なぜ今「トラベルテック」が勝つのか?
① 旅行代理店から「アプリ直結」への移行
旅の情報収集はInstagramやTiitokで行い、予約・決済はスタートアップのアプリで即座に完結する。という二段構えの旅行行動が定着しつつあります。MyRealTripとJapan Ticketの連携、Creatripの子会社化はいずれも「発見(SNS)」と「予約・決済(アプリ)」の距離を縮める動きであり、旅行代理店が担ってきた「仲介」の役割そのものが、テック企業のAPI連携に置き換わりつつあることを示しています。
② 「タビナカ(滞在中)」のリアルタイム集客
短期間の旅行では、旅行者にとって「現地に着いてから」の体験価値の比重を高めます。WowpassやNAMANEのような決済インフラは「両替の手間をゼロにする」ことで滞在初日からの消費を後押しし、キャッチテーブルのようなリアルタイム予約・順番待ちアプリは「行列に並ばず食べたい店に行ける」体験を保証します。滞在時間が短いほど、こうした「タビナカ」(観光業界で「旅行中」を指す言葉。「タビマエ(旅行前)」「タビアト(旅行後)」と合わせて使われます)の摩擦をなくすサービスの価値は相対的に高まる、というのがこの業界の勝ちパターンのようです。
まとめ:短い連休が押し上げる、トラベルテックの躍進
たった4日、5日の連休が、これだけ大きなビジネスの動きを引き出している。
今回、特に印象に残ったのは、連休が持つビジネスチャンスの大きさです。日韓の連休が噛み合う2026年秋は、「人の移動」だけでなく「トラベルテックの競争構造」が一気に加速するタイミングでもあります。特に、MyRealTripによるCreatripの子会社化は象徴的な一手でした。アウトバウンド(韓国人の海外旅行)とインバウンド(外国人の訪韓)を両方押さえるプラットフォームが、次のユニコーン候補として頭角を現しつつある。この動きは、まだ始まったばかりです。
韓国側にとっての学びは、非常にわかりやすいものです。旅行代理店というビジネスモデルが、決済・データ・SNSを軸にしたプラットフォームへと再定義されつつあり、アウトバウンドとインバウンドを別々に手掛けてきた企業にとっては、両方を統合する動きに乗り遅れないことが次の成長のカギになりそうです。
日本側にとっての学びも、決して他人事ではありません。韓国ではMyRealTripやWowpassなど、短い連休の中でも「タビナカ」の体験価値を高める形ですでに整備されてきています。決済インフラの設計や、SNS発見からアプリ予約までの導線づくりには、業種を問わず取り入れられるヒントが詰まっており、日本企業にとっても「参考にできる先行事例」がすぐ隣の国にあるということだからです。
連休が短くなればなるほど、旅行者の一瞬一瞬の体験を支えるテック企業の存在感は増していく。日韓の連休が重なり合うたびに、次はどのプレイヤーが「行き」と「来訪」の両方を制するのか。日韓の旅行地図は、これからもっと面白い動き方をしそうです。
