企業向けメッセンジャーで成長したUCWARE(ユーシーウェア)のパク・インク代表
教育プラットフォーム「SCHOOL Line(スクールライン)」で日本国内の実証校を増やす

2007年からUCWAREが掘り続けてきた井戸は「人と人の間のコミュニケーション」それだけだった。
企業向けメッセンジャーからスタートした同社は、韓国の教育委員会市場にしっかりと根を張った。そして、今度は日本の学校へと向かう。しかし、彼が日本で最初に目を向けたのは、機能や市場規模ではなく、学校の中でキャッチボールがうまくできていない言葉たちだった。保護者とのタイムリーなやり取りや、複数の経路に散らばってしまう学校通信、打ち明けにくい子どもたち一人ひとりが抱える悩み、登下校中の安否確認といったものだ。

UCWAREは2007年に創業した企業向けメッセンジャー・クラウド企業だ。主力のB2B業務用メッセンジャー「UCWORKS(ユーシーワークス)」を軸に、韓国では教育委員会を中心に事業を拡大してきた。2020年にクラウドSaaS開発に注力して方向転換し、現在は日本の教育コミュニケーションプラットフォーム「SCHOOL Line」に力を入れている。コミュニケーションという一分野だけを掘り下げてきた会社であるというのが、パク・インク代表が語る同社の特徴だ。

メッセンジャーを売りに行って教室を見た

日本に目を向けたきっかけは意外なものだった。

最初は韓国で手がけていた企業向けメッセンジャーを日本でも展開しようと考えていた。しかし、実際に目を向けてみるとグローバル企業がすでに参入しており、市場はレッドオーシャンだったという。そんな中、現地で教育市場の可能性についての話を聞き、そこに活路を見出した。当時、日本政府が児童生徒1人1台の端末とネットワーク環境を整える「GIGAスクール構想」を通じて学校のデジタル環境を拡充していた時期であり、パク代表はその政策の流れに合った教育サービスとは何か考えた始めたことがきっかけになったと語った。

しかし、韓国で確保してきた需要と、日本で発見した需要は性質が異なっていた。

韓国で確保した需要は教職員間の業務コミュニケーションに集中していたが、パク代表が日本で把握した需要は、教師と保護者、生徒をつなぐコミュニケーションにあった。学校通信一つとっても、韓国の教育委員会市場では電子化がかなり進んでいるが、独自に行った調査の結果、相当数がいまだに学校通信を紙で配布したり、メールやホームページの掲示板に掲載していることが明らかになった。これに加え、パク代表は実際に学校とのやり取りを進める中で、個人情報の露出を嫌がる雰囲気があることも感じたという。個人情報を明かさなくてもお知らせやメッセージ、掲示板等でコミュニケーションできる公式の窓口が必要だという意見が多かったと彼は語った。

UCWAREの教育コミュニケーションプラットフォーム「SCHOOL Line」の紹介画面。
クラスのメンバー確認とチャット、お知らせ通知機能などがある

塞がった言葉をつなぐ三つの柱

SCHOOL Lineが狙う地点は、会社が現地の学校で把握した問題だ。パク代表はその問題をコミュニケーション、学習、安全の三つに整理した。学校によって必要な点が異なるため、会社はこの三つを望んだ通りに選んで使えるようモジュールに分けて提供していると明かした。

コミュニケーション領域の核心は即時性だと彼は説明した。学校の組織図が画面に展開され、教師が一度のクリックでクラス全体の児童生徒や保護者にお知らせをリアルタイムで送ることができ、掲示板を自由に作成してその中だけで内容が共有される仕組みだ。これに相談機能が加わる。子どもたちが容易に打ち明けられない悩みがあるとき「SOS」ボタンを押すと教師とつながり、学校が相談テーマをあらかじめ設定しておけば児童生徒が匿名または実名で相談を申し込み、担当教師や専門家が回答する方式だ。

学習領域は日本の授業スタイルと結びついている。パク代表は、実際にお話を聞いた学校の中で、児童生徒主導の探究学習を重視するところが少なくなかったと話した。教師としては児童生徒がきちんと取り組んでいるか、何を目標にどんな資料を共有しているかを把握できるプラットフォームが必要だったという。会社は「シェア(共有)」機能でこの自律学習を支えると説明した。

安全領域には位置情報ベースの機能がある。会社は指定エリアからの離脱を検知するジオフェンス(Geo Fence)機能を安全モジュールの一つとして提示していると説明した。児童生徒が登録した登下校時刻を教師と保護者が確認する機能も同じ文脈にある。お知らせと学習、出欠確認は学校が配布したChromebook(Google ChromeOSベースのノートパソコン)やタブレットでも利用でき、現在地送信のような安全機能はGPSが使えるスマートフォンなどの端末を前提とすると会社は説明した。日本はGIGAスクール政策に基づき児童生徒にこうした学習用端末を配布している。ただし、これらの機能が実証校ですべて稼働しているかどうかは今回のインタビューでは確認されなかった。

お知らせ・相談・共有・位置情報ベースの安全機能は、学校が必要に応じて選択できるよう構成されたモジュールだと会社は説明した。どの機能が現在各実証校で実際に使われているか、位置情報や相談記録を誰が閲覧しどの程度保管するかについても、具体的には確認されなかった。

センシティブな情報という壁…児童生徒の位置情報と相談内容は慎重に扱うべき情報だ。日本の個人情報保護要件にどのように対応したかという問いに対し、パク代表は保護者の同意手続きを設け、現地要件に合わせてサービスを設計したと答えた。ただし、位置情報・相談情報の収集範囲と保管期間、第三者提供の有無など具体的な取り扱い方法は今回のインタビューでは確認できなかった。

保護者が費用を負担し、長く続く取引関係…日本市場を前向きに見た理由の一つは、費用を負担する方式にあった。パク代表は、自分が接触した日本の私立学校ではシステム使用料を保護者が負担する方式への抵抗感が大きくなかったと伝えた。使用料は学校ごとに児童生徒のユーザー数を基準に算定して毎月請求し、契約は1年単位で結ぶ。ただ、一度導入した学校との取引関係は長く続くケースが多いというのが彼の説明だ。彼は韓国と日本の教育システムが似ている点、日本の小中高の児童生徒数が約1,200万人に上る点も日本市場の魅力として挙げた。

業務過多と組織の意思決定が導入を遅らせる

パク代表は、導入に慎重な反応のほうが多かったと振り返る。サービスの必要性には概ね共感してもらえても、教師の業務過多や組織単位の意思決定構造といった問題から導入に至るまでには長い時間が必要だったという。彼が会った日本の教師たちの中には、保護者とのコミュニケーションをはじめとした行政・ケア業務が多く、深夜まで働かなければいけないほど業務が多いという反応が多かった。そのため、学校全体として新しいサービスを導入しようとしても、個人ではなく組織全体が一緒に動かなければならず、学期中の導入はハードルが高く、翌学期に先送りされるケースが多いとパク代表は説明した。

現地の需要を正確に把握することも容易ではない。学校がどのような機能を必要としているのかを把握するには、継続して学校へ足を運び、担当者とじっくり向き合いながら意見を聞く必要があるという。現地対応のための開発組織も合わせて整えなければならないとパク代表は説明した。彼は、自身が会った日本進出企業の関係者の間で「お金を食うカバ」という表現が使われるほど、日本市場では費用負担が大きいと語った。結局、早い段階で成功事例を作るしかないというのが、彼の打開策だ。

前向きなシグナルもある。自律探究型学習を望むある学校で1年生からサービスを適用したところ、在校生の使用経験が後輩たちに伝わる効果も現れたとパク代表は伝えた。彼は実証事例をもとにパートナーを説得しながら、2025年より反応がかなり良くなったと語った。

手探りで広げている最中

現在の日本進出は、実証(PoC)を通じて実績を積み重ねる段階にある。日本法人は約3年前に設立され、現地事情に詳しい在日同胞3世が法人長として現場対応を担っているという。活動拠点は東京を中心とする関東地域で、大阪にも足を運びながら営業を進めている。会社は2025年から実証を拡大しており、2026年6月現在、西大和学園中学校・高等学校、神奈川朝鮮中高級学校、東京の韓国語教育機関の計3か所で実証を進めている。さらに、私立学校2校で追加の実証も準備中で、チャネルパートナー4社との協議も進めている。西大和学園が日本有数の名門校として知られていることから、同校で実証を進めていること自体が、現地での信頼獲得につながっているとみられる。会社は2026年下半期までに実証対象を25校へ拡大し、2027年上半期からは有料転換による売り上げを見込んでいる。

パク代表は、日本文部科学省がGIGAスクール第2期で老朽化した端末の計画的な更新とともに、既存のデジタル基盤の活用を高度化し学校のデジタル転換を広げようとする動きをチャンスと見ている。その流れの中でAIをはじめとするソフトウェアを活用して教育革新を図ろうとする需要が増えると見通しているのだ。

パク代表が描く未来は、学校・教師・保護者・児童生徒に合った道具を作ることだ。コミュニケーションという一分野を掘り続けてきたUCWAREの次の試練は、日本の学校が実際にこのサービスを選択し、費用を支払うかどうかだ。

<画像=パク・インク UCWARE代表(左)がオンラインインタビューを行っている様子>

原文:https://platum.kr/archives/289960