「K-POPアイドルが悪魔を退治する。」——そんな話を聞いたら、あなたはどう思うだろうか。おそらく「ありえない」と思うだろう。ところがまさにその突拍子もない話が、今世界を熱狂させている。

6月20日にNETFLIX(ネットフリックス)で公開された「KPop Demon Hunters(ケーポップデーモンハンター)」だ。ソニー・ピクチャーズアニメーションが制作し、マギー・カンとクリス・アッペルハンスが演出を務めた本作は、タイトルからしてすでにただならぬ雰囲気を漂わせている。K-POPと悪魔退治。一体誰が、この突拍子もない組み合わせを思いついたのだろう?

数字が証明する成果

結論から言えば、この無謀とも言える挑戦はかなりの成果を収めた。

しかもその勢いは日に日に増している。グローバルOTTのランキング集計サイト「FlixPatrol(フリックスパトロール)」によると、6月20日の公開後、21日には17カ国で1位を獲得。その後も、22日には26カ国、23日には31カ国、24日には41カ国で映画部門1位に輝いた。韓国、米国、台湾、タイ、フィリピン、シンガポール、ポルトガルなどを含む国々で、4日連続NETFLIXワールドワイド映画部門の1位をキープした。しかも、米国ではタイラー・ペリーの新作「Straw(ストロー)」を抑えて堂々の1位となった。

さらに驚くべきは評価の高さだ。Rotten Tomatoes(ロッテントマト)では批評家スコア94%、観客スコア95%を獲得。Metacritic(メタクリティック)でも77点と「Generally favorable(概ね好評)」の評価を受けている。

初週の視聴数920万回という数字も注目に値する。軽い好奇心でクリックしたつもりが、予想外に夢中になってしまった人々がこれほど多いということだ。実際、オンラインでは「初めはバカげてると思っていたけど、完全にハマってしまった。」といった声が数多く投稿されている。

現実と虚構の間にあるあいまいな境界

この作品の核心は、「境界のあいまいさ」だ。

物語には、HUNTR/X(ハントリックス)という仮想のガールグループが登場する。ルミ(チョ・アデン)、ミラ(ホン・メイ)、ジョイ(ユ・ジヨン)の3人は、昼は華やかなステージで歌い、夜は悪魔を狩る。そしてある日、Saja Boys(サジャボーイズ)という魅力的なボーイズグループが現れるが、実は彼らが真の悪魔だったという設定だ。

興味深いのは、作中の「仮想の音楽」が現実でも人気を得ているということだ。TWICE(トゥワイス)のメンバーらが参加した「TAKEDOWN(テイクダウン)」は、Spotify(スポティファイ)で30万再生を突破した。架空のガールズグループによる楽曲が、実際の音楽チャートで成果を挙げているのだ。

マギー・カン監督は「英語でセリフを話しているときでも、韓国語を話す時しか出ない口や目の動きを、アニメーションで再現するために本当に努力した。」と語る。仮想を現実のように作るための細部への緻密なこだわりが感じられる。

K-POPという文化的武器

クリス・アッペルハンス監督は、制作過程でこんな葛藤があったと語っている。 「ポップミュージックは何よりも中毒性と魅力が重要だが、映画にはストーリーが必要だ。90分の映画に無理やり7つの曲を入れるのは、観客にとって地獄のようなものだ。」

そこで彼らは、音楽そのものをストーリーのツールにする方法を選んだ。音楽を単なるBGMではなく、物語を牽引する「エンジン」の役割として機能するようにしたのだ。EJAE(イジェ)、テディ・パク、リンドグレンといったK-POP業界の有名プロデューサーも制作に参加し、作品の完成度を高めた。

結果的に、この戦略は的中した。Reddit(レディット)には、「Just finished watching it.Love it.And I’m not even a k-pop fan”(先ほど見終わった。K-POPファンでもないのに大好きになった。)、「It was amazingGreat animation, I loved most of the songs, and the vibe was off the charts”(すばらしいアニメで、ほとんどの曲を好きになった。雰囲気も最高だった。)といったレビューが寄せられた。K-POPに興味がなかった人々までもが引き寄せられたのだ。

韓国らしさのグローバルな魅力

映画のあちこちには韓国らしい要素も自然に溶け込んでいる。例えば、キンパ、冷麺、インスタントラーメンといった料理や、南山タワー、巫堂(ムダン)信仰といった文化的な要素が登場する。決して無理やり詰め込まれたようには感じられない。

これはK-POPという文化自体が持つ特性と関連があるようにみえる。K-POPは韓国的な要素とグローバルな要素を自然に融合させた文化だ。韓国語と英語を混在させ、伝統と現代を調和させている。 「KPop Demon Hunters」もまさにそのような手法で制作されているのだ。

批評家たちも、「スタイルは豊かでありながら、トーンは落ち着いていて、シンプルなコンセプトとプロットが高い完成度で仕上げられている。」と評価している。

作品の成功要因

この作品が注目される理由は何か?いくつかの要因を分析すると、興味深いポイントが見えてきた。

第一は、タイミングの良さだ。K-POPが世界的に主流文化として位置づけられた今、そのK-POPを題材とした高品質なコンテンツに対する需要が高まっている。BTSやBLACKPINKから始まったK-POPブームは、さらなるコンテンツの多様性を求める段階に来ているのだ。

第二は、ジャンルの「破壊」と「融合」だ。ミュージカル、アクション、ファンタジー、ロマンスといった異なるジャンルが混ざり合いながらも違和感がなく、むしろ各ジャンルの長所が相乗効果を生み出している。これは、そもそもK-POP自体がボーダレスな文化であることと深く関係している。

第三は、制作における誠実なアプローチだ。単なるK-POP人気への便乗ではなく、文化に対する理解がしっかりと作品の土台にある。マギー・カン監督が韓国らしさへこだわった姿勢に、それがよく表れている。

第四は、ソニーピクチャーズアニメーションの技術力だ。 「スパイダーマン:スパイダーバースシリーズでアニメの革新を牽引してきたスタジオのノウハウが、そのまま作品に生かされている。

文化輸出の新モデル

NETFLIXが公式Twitterのプロフィール画像をKPop Demon Huntersのキャラクターに変更したということは象徴的な出来事だ。プラットフォーム自体がこの作品の成功を「公式認定」したようなものだ。

監督は続編の可能性についても言及している。「ルミの出生やハンターが選ばれた理由など、多くのバックストーリーがある。」と語っており、この世界観が今後さらに広がっていく可能性を示している。

これは、韓国の文化輸出戦略においても大きな示唆を与えるものだ。単に、韓国的なものをそのまま海外に輸出するのではなく、それらをグローバルな視点で再構成し、普遍的な感動を生み出す。「KPop Demon Hunters」はそんな新しいモデルを提示している。

今後の展望

あるIMDbユーザーは、「Friend recommended me this movie as a joke and i did not take it seriously at all… This was one of the best decisions i could’ve made」(友人に冗談半分で勧められたが、真剣に受け止めなかった。でも、見てみたら最高の選択だった。)と作品を絶賛している。やや大げさに聞こえるかもしれないが、意外な作品が与えるインパクトの大きさを示す反応でもある。

2025年はこれまでの「常識」が通用しない年になりそうだ。型破りなアイデアが人々の心をひきつける時代が来たのだ。

「KPop Demon Hunters」は、そんな時代の空気を的確に捉えた作品だ。K-POPアイドルが悪魔を退治するという設定など、誰が想像しただろうか?しかし、そんな突飛な設定が世界中の人々の心を動かした。

それこそが文化の力なのだ。予想を超え、境界を越え、新たな可能性を切り拓く。 「KPop Demon Hunters」は、そのような文化の力を証明する完璧な事例だ。

原文:https://platum.kr/archives/264377