いま韓国で何が起きている?

ソウル・龍山にある国立中央博物館。展示室を抜けた先にあるミュージアムショップには、平日の昼間から紙袋を手にした人々が列をなす。

目当ては展示物ではなく、ここでしか買えない博物館グッズ「MU:DS(ミュッズ)」だ。

国立博物館文化財団によると、MU:DSの2026年上半期の売上は218億ウォン、前年同期比で約90%の増加となった。2025年通年の売上は413億ウォンで過去最高を更新しており、2020年と比べると実に465.9%の伸びだという。国立中央博物館自体の来館者数も年間500万人を超え、世界のミュージアムの中でもトップクラスの集客を誇るまでになった。

そんなMU:DSの中でも、象徴的なのが半跏思惟像のミニチュアフィギュアだ。これはBTSのメンバーRMが購入したことでも話題になった。累計販売数は6万個を突破し、いまも品切れと再入荷を繰り返している。財団関係者は、こうした人気商品を軸にブランド認知度と商品性の両方が高まり、MU:DSそのものを目当てに来館する客が増えたと説明する。

カラーバリエーションも豊富な半跏思惟像のミニチュアフィギュア/出典:MU:DS公式オンラインショップ

展示を見に来た人が結果的にグッズを買うのではなく、グッズを買うために博物館へ足を運ぶという、順序の逆転がここで起きている。もはや韓国における美術館は「展示を見るついでにお土産を買う場所」ではない。「グッズを買うために訪れる場所」に変わりつつある。

なぜ若者は「文化遺産」を買うのか?

MU:DSを牽引しているのは、いわゆるMZ世代だ。国立博物館文化財団の年齢別購買データでは、30代が36.6%、20代が17.7%を占め、合わせて過半数に達する。

なぜここまで若年層に刺さったのか。財団の商品企画担当者は、2・30代を主要ターゲットに据え、価値観や消費傾向に合わせて商品構成を組み立ててきたと説明する。仁川大学消費者学の教授も、収蔵品を現代人のライフスタイルに合わせて再解釈したことが若年層の心をつかんだと分析している。

背景にあるのは「博物館は古臭くて退屈」という若者離れへの危機感だ。

国立博物館文化財団は2022年、この状況を変えるべく「ミュージアム(museum)」と「グッズ(goods)」を組み合わせた統一ブランド「MU:DS(ミュッズ)」を立ち上げた。単なる収蔵品の複製ではなく、実用性とデザイン性を兼ね備えた商品として開発するという方針転換が、若者の関心を引いた。

かつての博物館グッズは、収蔵品の写真を印刷した絵はがきや事務用品といった、いわば一次元的な土産品が中心だった。それに対して今のMU:DSは、毎年公募を行い、外部の企画者やデザイナーから斬新なアイデアを募り、収蔵品を大胆に再解釈した商品として作り込んでいる。財団関係者自身も、供給側が丁寧に企画を練れば消費者はきちんと反応するものだと語っており、需要よりもまず供給の質を変えたことが、結果的に若年層の消費行動に変化をもたらしたと言えそうだ。

食器やキーボードな日用品として使えるグッズが目立つ/MU:DS公式インスタグラム

「かわいい」に変換される文化遺産、そして外国人にも

MU:DSの商品を眺めていると、本来は仏教美術である半跏思惟像が愛らしいフィギュアになり、朝鮮時代の風俗画に描かれた酔客が、飲み物を注ぐと顔の色が変わる盃になっている。白磁や、カササギとトラを描いた民画(俗に「鵲虎図」とも呼ばれる)も、キャラクターとして生まれ変わっている。後者は2025年に世界的ヒットとなったNetflixアニメ「KPOPガールズ! デーモン・ハンターズ」に登場するトラのキャラクターが、この伝統的な図柄をモチーフにデザインされていたことで、あらためて注目を集めた。

飲み物を注ぐと顔の色が変わる盃(左)、虎をモチーフにしたピンバッジ(右)/出典:MU:DS公式オンラインショップ

韓国のカルチャーメディアはこの現象について、文化遺産という「権威」を若い世代の目線に合わせていく姿勢こそが人気の秘訣だと分析する。単に収蔵品の画像をプリントするのではなく、収蔵品そのものを再解釈し、無害で愛らしいキャラクターに変換していく手法が、商品の購入につながっているという見立てだ。

そしてこの流れは、外国人観光客にも波及している。国立博物館文化財団によると、2026年上半期のMU:DS外国人売上は約10億ウォンで、前年同期比ほぼ倍増した。財団側は「国内で人気の商品が、そのまま外国人にも消費される構造ができている」と分析する。

実際、韓国のメディアでは「最近の外国人観光客は仁寺洞に行かない」という声も聞かれるようになった。従来の定番グッズだったキーホルダーや栞に代わり、MU:DSのような現代的にデザインされたグッズが「新しいお土産」として選ばれているというのだ。

また、この変化は観光ルートにも影響を及ぼしている。国立中央博物館のある龍山(ヨンサン)やD MUSEUM、大林美術館のある聖水洞(ソンスドン)といったエリアへの外国人訪問者数が近年急増しているのだ。韓国観光公社のデータでは、聖水洞エリアの訪問者数は2023年上半期時点で、2018年比116%の増加をみせている。ここに団体パッケージ旅行から個人旅行へのシフトも重なり、観光客自身が「何を見るか」を主体的に選ぶようになったことも、ミュージアムショップという「旅行通」のスポットが定番化した土台になっていると考えられる。

他にも、MU:DSはミラノ・コルティナダンペッツォ冬季五輪の「コリアハウス」への出展や、LA韓国文化院での展示など、海外展開も加速させている。興味深いのは、こうしたMU:DSにおける人気商品の顔ぶれが韓国人と外国人で大きく変わらない、という点だ。半跏思惟像のミニチュアや李舜臣の兜をモチーフにしたワインストッパーは、国内外どちらでも上位にランクインしている。「韓国人が欲しいもの」と「外国人が欲しい韓国らしさ」が、思いのほか近いところに落ち着いているのかもしれない。

日本と韓国、発想の違い

ここで、日本のミュージアムグッズ事情と比較して考えてみたい。

まず注目したいのが、韓国のミュージアムグッズブランド「MU:DS」では国家予算からの支援を受けずに商品開発を行っている、という点だ。さらに、韓国のカルチャー誌の報道によれば、収益はすべて研究開発に再投資されているという。

つまりMU:DSは、国に頼らず自ら稼ぎ、その収益で次の商品を作るという「自走モデル」を確立しているのだ(もっとも、稼いだ収益が現場職員の待遇改善には回っていないという批判の声があることも、公平のために付け加えておきたい)。

一方の日本はどうか。日本の国立博物館・美術館は長らく、運営費交付金という名の税金を基盤に運営されてきた「公共文化施設」だった。博物館学の専門家は、収益事業や寄付を重視してこなかった日本特有の事情を指摘する。「美術は文化事業である」という言葉が独り歩きし、美術館や博物館において利益を出すという発想自体に対して消極的な空気も根強いという。

日本のミュージアムグッズ文化を長年見てきた愛好家・大澤夏美氏は、グッズを「学芸員や研究者の英知の詰まったアウトリーチの一つ」と位置づける。ブランド化や若年層ターゲティングといった商業的な発想よりも、博物館の持つ収集・保存・研究・展示・教育という役割との接続を重視する、日本らしい価値観だと言えるだろう。世界的にはゴッホ美術館とポケモンのコラボレーションのように、ライセンシング事業がミュージアムの主要な収益源になりつつある。しかし日本国内では、この分野への本格参入はまだ進んでいないのが現状だ。

この差は、どちらが正しいかという単純な話ではない。韓国は「稼ぐこと」に迷いがなく、むしろそれを文化を広める手段として前向きに位置づけている。一方の日本は、稼ぐという行為そのものに対する居心地の悪さを、まだ拭えずにいる。この温度差こそが、両国のミュージアムグッズを見比べたときに最も浮かび上がってくる違いなのかもしれない。

今後の展望:日本にも波は来るのか

そんな日本にも、変化の兆しが見え始めている。

2026年2月、文化庁は国立文化財機構と国立美術館が運営する各施設に対し、展示事業にかかる自己収入の割合を2030年度までに65%以上、将来的には100%を目指すという中期目標を発表した。現状は国立文化財機構で約54%、国立美術館で約53%(令和6年度実績)であり、目標達成には大幅な収益構造の転換が求められる。しかも、4年目の時点で自己収入比率が4割を下回った施設に対しては「社会的な役割を十分に果たせていない」とみなされ、閉館を含む再編の対象になるという、踏み込んだ内容だ。

税金頼みの運営から一転、「稼ぐ博物館」への転換を迫られる日本。その先に、韓国のMU:DSのような自走モデルを目指すことになるのか、それとも大澤氏の言う「アウトリーチとしてのグッズ」という日本独自の哲学を守りながら別の道を探るのか。

収益を追う博物館と、文化を守る博物館。韓国が示したのは、その両立が不可能ではないという一つの実例だ。ただし急成長の裏側で現場に無理が生じていないか、日本が同じ道を歩む前に、見ておくべき論点でもある。
数年後、日本の博物館のミュージアムショップにも、あのMU:DSのような「思わず並んででも買いたくなる」商品が並ぶ日は来るのだろうか。それとも、稼ぐことよりも研究と教育を優先するという、日本なりの答えを貫くのだろうか。どちらの道を選ぶにせよ、隣国で起きているこの現象は、その選択を考えるための格好の材料になるはずだ。

参考記事:

뉴스핌「RM 효과 이어졌다…박물관 ‘뮷즈’ 상반기 매출 218억·외국인 구매 2배 ↑」
허핑턴포스트코리아「국새 키캡·색동 공기·갓 우산 품절, 재입고 대기」
KB의 생각「국립중앙박물관 굿즈 사러 가요!뮷즈 뜻과 인기 상품」
Design+「디자인 입은 문화유산, 품절 대란 굿즈가 되다」
더스쿠프「기념품 사러 ‘박물관’ 찾는 MZ세대:뮷즈의 신통방통 경제학」
덴 매거진「쓰여 오늘이 된 전통」
ELLE Korea「드디어 나왔다, ‘케이팝 데몬 헌터스’ 호랑이 더피 굿즈」
balpumnews「최근 판매 급증한 한국 기념품」
careet「요즘 누가 명동에 가요, 외국인 Z세대가 뽑은 한국 여행 필수 코스 5」
월간미술「힙-트래디션의 현재형:뮷즈(MU:DS)가 만든 박물관 소비 문법」
美術・アート専門翻訳サービス「美術館・博物館が取り組むべき『有料化』の壁」
artscape「大澤夏美」著者ページ
美術手帖「国立美術館・博物館に重いノルマ。未達成なら閉館含めた再編も」
cpsus.org「国立博物館に『収入目標65%』―文化財政策の転換点」
cpsus.org「博物館『収益目標』報道のあとに起きたこと」

<写真:MU:DS公式オンラインショップ(https://muds.kr/)>