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本記事を読む前に…この記事で出てくる関連用語を解説!
・NPU:AIの計算だけに特化した半導体チップである。パソコンのゲームなどで使われる「GPU(画像処理用チップ)」をAI向けに絞り込んだ、いわば専門職のチップ。汎用的なGPUに比べて、少ない電力で効率よくAI計算をこなせるのが利点。
・fabless(ファブレス):工場(fabrication plant)+持たない(less)を意味する。半導体は「設計する会社」と「実際に製造する工場」が分業しているケースが多く、設計だけに専念する会社を「ファブレス企業」と呼ぶ。工場を自前で持たない分、初期投資を抑えてスピーディーに動けるのが特徴。
・HBM(高帯域幅メモリ):AIチップの隣に置いて、大量のデータを高速でやり取りするための特殊なメモリ。SK Hynixやサムスン電子が強い分野として知られている。
・エッジAI:クラウドの巨大サーバーでまとめて計算するのではなく、カメラやロボットなど「現場の機器そのもの」でAI計算を完結させる方式。通信の遅れがなく、消費電力も抑えやすいのが利点。
この4つを頭に入れておくと、本記事がぐっと読みやすくなります。
導入:韓国ベンチャー市場を牽引する「AI・半導体」の熱気
2026年8月19日、韓国政府(中小ベンチャー企業部)が発表した数字が話題になりました。今年上半期、韓国のスタートアップに流れ込んだ投資額は8兆8,676億ウォン(約9,760億円)。これは投資ブームだった2022年を上回り、上半期としては過去最高の記録です。前年の同じ時期と比べると54.3%の増加という急成長ぶりです。
しかも、この増加分の多くは、AIやロボットといった「時間もお金もかかるが、社会を変える可能性がある技術」に集中しました。AI・ロボティクス分野への投資額は前年の同じ時期に比べて485.2%も増えて2兆6,850億ウォンにのぼり、投資額全体の34.3%を占めています。つまり、投資家が注目するお金の流れ先が、スマホアプリのようなサービス系ビジネスから、AIや半導体そのものを作る「ものづくり」系のビジネスへとシフトしているのです。
この勢いは8月に入ってからも続きました。8月第3週だけを見ても、消費電力を極限まで抑えたAI半導体を開発するiHW(アイエイチダブリュー)という会社が、520億ウォン(約59億円)の資金調達を発表しています。
これまで韓国の半導体といえば「メモリ半導体(HBMなど)」の話題が中心でしたが、本記事で注目したいのは、AI専用チップである「NPU」の最前線です。NPUを作る会社と、その上で動くAIサービスがどう結びついているのか。そして、その裏側で日本企業がどう関わっているのか。KORITがこの1〜2ヶ月で報じてきた記事をもとに、専門用語をできるだけかみ砕きながらご紹介します。
韓国AI半導体最前線:スタートアップによるNPUとソリューションの進化
消費電力を極限まで抑える。iHWの大型調達
iHWという会社が2026年8月19日、事業拡大のための資金調達(シリーズA)で520億ウォン(約59.3億円)を集めたと発表しました。韓国産業銀行を含む13社もの投資会社が参加する大型の調達となり、これまでの調達額と合わせると累計640億ウォン(約73億円)にのぼります。
この会社が開発しているAI半導体「INFERTRON(インファートロン)」の仕組みを、たとえ話で説明してみます。ふつうのNPUは、「倉庫(メモリ)からデータを取り出し、少し離れた作業場(計算エリア)まで運んでから計算する」という2段階の作業をしています。この「運ぶ」という作業自体が、時間もエネルギーも余計に使ってしまう原因になっているのです。
iHWのチップは、この運搬作業を省き、「倉庫の中でそのまま計算してしまう」という発想の技術を採用しています。運ぶ手間がなくなる分、消費電力を抑えられ、処理のスピードも上がる、というわけです。しかも、最先端の製造ラインを使わなくても作れる設計になっており、コストを抑えやすいのも特徴です。スマートシティの監視カメラや工場のロボットなど、発熱やバッテリーの制約から従来のNPUでは扱いづらかった「エッジAI」(現場の機器そのものでAI計算を完結させる方式)での活用を狙っています。
AIサービスと半導体がタッグを組む。LINERとRebellionsの提携
もう一つの注目すべき動きが、AIサービスを提供する会社と、半導体を作る会社が手を組むケースです。AI検索・AIアシスタントサービスを展開するLINER(ライナー)という会社は2026年8月25日、500億ウォン(約52億円)の資金調達を発表しました。世界約220の国・地域で1,400万人が利用するサービスに成長しています。
このLINERが手を組んだのが、NPUを作る会社Rebellions(リベリオン)です。両社は「AIフルスタック」と呼ばれる分野で提携し、NPUとAIサービスを組み合わせた商品を海外に売り込んでいく方針を発表しました。
「フルスタック」というのは分かりやすく言うと、「部品だけでなく完成品ごと売る」という考え方です。これまでは「エンジン(NPU)」と「カーナビ(AIサービス)」を別々の会社がバラバラに売っていたようなものですが、これからは両方をセットにして「完成した車」として提供しよう、というイメージです。ちなみにRebellionsは、韓国政府が力を入れる半導体育成プロジェクト「K-NVIDIA」の第一号案件に選ばれるなど、韓国を代表するAI半導体の会社として注目されています。
日本との関連性①
1.韓国NPUの進化を支える「日本の素材・製造装置」
冒頭で紹介した「ファブレス」という発想――設計する会社と製造する会社を分ける仕組み――は、もともと半導体チップの世界で広まった考え方ですが、いま素材の分野にも広がりつつあります。その代表例が、Atomer(アトマー)という会社です。2026年8月24日、LG電子と投資会社Bluepoint Partners(ブルーポイントパートナーズ)から出資を受けたと発表しました。この会社は、熱を通しにくくする塗料などの機能性材料を「設計」することに専念し、実際の製造や検証は他の専門会社に任せる「素材版ファブレス」ともいえる戦略をとっています。
こうした韓国発の新しい会社が次々と生まれている一方で、実は先端半導体を作る肝心な工程――薄い円盤(ウェハー)に細かい回路を焼き付けたり、完成したチップを保護・接続したりする工程――では、いまも日本の製造装置や特殊な化学素材への依存が続いています。回路を転写するための感光材料や、洗浄・薄膜づくりの装置など、上流の工程の多くは日本企業の技術が支えているのです。
Rebellionsが高性能メモリ(HBM)を積んだ大型チップを作れるのも、iHWが既存の設備でも作れる設計にこだわれるのも、その裏に日本の素材・装置という土台があるからこそです。韓国の半導体スタートアップが開発スピードを上げようとすればするほど、日本企業との協力関係はますます重要になっていくといえるでしょう。
実際、Rebellionsは2025年3月末、東京に日本法人「Rebellions Japan株式会社」を設立しています。
2.韓国産AI・NPUソリューションの「日本市場展開」
日本との関わりは、素材や製造装置だけにとどまりません。韓国のAI企業にとって、日本は「これから攻略したい市場」の一つになっています。
実際、Rebellionsはグローバルなアクセラレーター企業のai&と協力し、AI推論インフラシステム「RebelRack」をai&の東京データセンターに導入すると発表し、注目を集めました。日本を足がかりとした、今後の海外展開にも注目が集まります。
LINERとRebellionsが手を組んだ「AIフルスタック」提携そのものは、まずは韓国国内の公共・民間市場、そして海外ではサウジアラビアをはじめとする中東市場を主なターゲットに掲げています。一方でRebellionsは、この提携とは別に、米国・中東と並んで日本でもすでに実績を積んでおり、前述のRebellions Japan設立はその一環です。つまり、日本との接点は「LINER×Rebellions提携が日本を直接狙っている」というより、「Rebellionsという会社が、韓国国内向けのAIフルスタック戦略と、日本を含む海外拠点戦略を両輪で進めている」と捉えるのが実態に近いでしょう。
まとめ:日韓が補完し合う「次世代AIインフラ」の未来
ここまで見てきたように、韓国はスピード感を持ってNPUやAIサービスを開発する力に長けています。一方の日本は、半導体づくりに欠かせない素材・製造装置の技術と、これから伸びていくDX市場という強みを持っています。iHWの省電力チップ、LINERとRebellionsの提携、Atomerの新しい素材戦略、そしてRebellions Japanの日本進出――これらを並べてみると、韓国と日本、それぞれの得意分野が交わる場所に、「次世代のAIインフラ」という共通のテーマが見えてきます。
半導体というと難しく感じてしまうかもしれませんが、突き詰めれば「できるだけ電気を使わずに、身近な場所でAIを動かす」という、誰にとっても分かりやすい目標に向けた取り組みです。
その実現に向けて、韓国と日本それぞれの強みが噛み合い始めています。この先どう動いていくのか、引き続き一緒に追いかけていきましょう。
