マーケティングPT #72.「Tiptoe」の成長エンジン

商品を初めて発売してからわずか1週間で、OLIVE YOUNG(オリーブヤング)から出店提案を受けた美容ブランドがあります。Kビューティーブームによる激しい競争環境の中で、創業1年目に売上13億ウォン(約1.5億円)を記録し、4年目の現在では企業価値110億ウォン(約12.3億円)と評価されるグローバルブランドへと成長しました。ガールコア(少女らしさを感じさせる世界観)がコンセプトのメイクアップブランド「Tiptoe(ティップトウ)」※の軌跡を紹介します。

※Tiptoeは、ビューティー企業Fruitful(フルートフル)が展開するメイクブランドです。

ブランドローンチ直後から、月間1万〜4万人の顧客が訪れる「Tiptoe」の公式オンラインストア

日々数多くのブランドが誕生し、また消えていく競争の激しい美容市場において、なぜTiptoeは現在のポジションまで成長することができたのか。代表のイ・サンビン氏に話を伺いました。

※本コンテンツは、起業家やマーケターをはじめとするスタートアップ関係者に向けて、着実に成長を遂げている韓国のスタートアップを紹介する目的で、革新の森との協業により制作しています。なお、マーケティングPTおよび革新の森はいずれも、掲載企業から金銭的対価を受け取っていません。
※掲載している売上データはすべて革新の森に基づいています。革新の森では、企業の売上、従業員数、訪問者数、取引額などのデータを無料で閲覧できます。プロプランに加入すると、より多くの企業データやAIによる分析情報も確認可能です。

目次

Q.起業前はどのようなお仕事をされていましたか。

Blank Corporation(ブランクコーポレーション)と Mediquitous(メディクォータス)で、ブランドディレクターとして勤務していました。現在は少し状況が変わっていますが、当時はどちらも「メディアコマース」と呼ばれるカテゴリーに属する、似たタイプの企業でした。

両社ともFacebookマーケティングを基盤としていたため、そのプラットフォーム上で成果を出せるブランド設計が求められていました。組織づくりからブランドや商品の企画、さらにマーケティングを通じた成長戦略まで、ブランドを0から10、さらには0から50へと成長させていく一連のプロセスを経験しました。振り返ると、会社員時代から起業に直結する実務に携わっていたと感じています。

Q.なぜ美容市場で起業されたのでしょうか。

Mediquitousで働く中で、「事業の拡張性」について深く考えるようになりました。Blank Corporationに移った後、AppleのiOS仕様変更があり、Meta広告の効率が大きく低下しました。この経験から、「もし自分が起業するなら、Metaに依存せずとも100億ウォン規模、さらには数千億ウォン規模まで成長できる市場で勝負すべきだ」と考えるようになりました。

いくつかの選択肢を検討した結果、これまでのブランド運営の経験を活かせる美容市場を選びました。

Q.起業後、Meta広告の役割や比重は変わりましたか。

Blank Corporationに在籍していた当時は、Facebookのターゲティング精度が非常に高く、さらに高単価の商品設計が可能なブランドを扱っていたため、パフォーマンスマーケティングだけでも一定規模まで成長させることができました。

しかし現在は当時ほど精緻なターゲティングが難しく、Tiptoeの場合、商品単価も高くて2〜3万ウォン程度にとどまります。そのため、Meta広告を主軸としたマーケティングは成立しにくい状況です。

現在は広告ダッシュボードの数値だけで判断するのではなく、オンラインではコンテンツを通じてブランド認知を広げ、同時にオンライン・オフライン双方の流通網を拡大することで顧客接点を増やしています。実際、自社ECに加え、OLIVE YOUNG(オリーブヤング)やMUSINSA、29CMなど主要なECサイト、さらにオフライン店舗でも販売を展開しています。

複数の販売チャネルを運用しているため、月次・四半期単位で全体のROIを確認しながら戦略を調整しています。

Q.広告の運用方法も大きく変わったのではないでしょうか。

Blank Corporation時代は、より精密なクリエイティブ設計とターゲティング精度を追求していましたが、現在は長期的に積み上がる広告運用を意識しています。クリエイティブ面では、顧客やインフルエンサーが制作したコンテンツの活用比率を高める一方、自社のInstagramやXでは、ブランドとして発信すべきメッセージをコンテンツとして蓄積していく形で運用しています。

Q.美容の中でも「カラーコスメ」を選ばれた理由を教えてください。

当時は韓国最大級の流通チャネルとしてOLIVE YOUNGがあったため、OLIVE YOUNGでの展開を強く意識していました。美容カテゴリーは多岐にわたりますが、OLIVE YOUNG基準では大きく「スキンケア」と「カラーコスメ」に分けられます。

スキンケアは顧客がブランドに信頼を持つまでに時間がかかる傾向がありますが、カラーコスメは「この色が良い」と感じれば新興ブランドでも気軽に試されやすい領域です。価格帯も比較的手頃で購入ハードルが低いため、顧客との信頼関係を短期間で構築しやすいと判断しました。

さらに、Blank CorporationやMEDIQUITOUSで美容やファッションなど、色の感度が重要なブランドを運営してきた経験も活かせると考えました。

Q.ブランド立ち上げ当初から、明確なターゲットペルソナは設定していましたか。

初期は、20代後半の女性を主なターゲットとして想定していました。ちょうど社会人になり、自分で稼いだお金を自分の好みに合わせて自由に使える層です。既存の人気商品だけでなく、自分らしさを表現できる新興ブランドにも積極的に手を伸ばすと考えました。

起業当時はY2Kのトレンドが広がり、MIU MIU(ミュウミュウ)やNewJeans(ニュージーンズ)が大きな人気を集めていました。愛らしい少女らしさや「青春」を感じさせるイメージが、20代だけでなく30代・40代にも広く受け入れられているのを見て、懐かしさを感じさせつつ若い世代には新鮮に映るアイテムとして「マニキュア」に着目しました。こうして最初の商品をネイルポリッシュに決定しました。

当時、OLIVE YOUNGではネイルポリッシュの品揃えが多くなく、既存商品に対してデザインや品質を高め、より洗練されたブランドとして展開すれば、価格帯を上げても社会人になりたての女性に十分受け入れられると判断しました。実際、当初は25〜34歳の女性が中心でしたが、現在は商品ラインの拡充に伴い、大学生や高校生の比率も徐々に高まっています。

Tiptoeのネイルポリッシュラインナップ

Q.最初の商品発売から1週間で、OLIVE YOUNGから連絡があったそうですね。

正直に言うと、とても運が良かったです。ちょうど私たちがネイルポリッシュを最初の商品として発売した時期に、OLIVE YOUNG社内でネイルカテゴリーを強化しようという動きがあり、発売直後にMDの方が広告を通じてTiptoeを見つけ、連絡をいただきました。

当時、そうした内部事情はまったく知らず、私たちは自分たちのブランドと商品づくりに集中していました。少女らしさを感じさせる世界観のルックブックを制作し、発色が伝わる動画も用意しました。自社ECやSNS、広告を通じて、ブランドの雰囲気がきちんと伝わるように意識していました。ネイルポリッシュを「日常の中で誰でも気軽に自分らしい雰囲気を演出できるアイテム」として感じてもらいたかったからです。

その結果、ネイル関連商品を探していたMDの方に届き、ブランドイメージにも共感していただけたのだと思います。

Q.Tiptoeの「ガールコア」は、一般的な「ガールコア」と違うのでしょうか。

私が考えるガールコアは、単に「若くて愛らしい少女らしさ」だけを指すものではありません。幼い頃に「こうなりたい」と思い描いていた自分の姿、そのすべてを含んでいます。情熱にあふれる女性であったり、ときには少し反抗的な雰囲気を持つ存在であったり。そうした当時に憧れていたさまざまなイメージの集合体だと捉えています。Tiptoeにも、こうした考え方が色濃く反映されていると思います。

Q.Tiptoeの自社サイトや商品ページを見ると、独特の世界観がありますね。映画専攻のご経験が影響しているのでしょうか。

ブランドのビジュアル面については、私自身も深く関わっています。商品ページの構成も、初期は自分で作っていました。現在も大枠の方向性は私が設計し、それを具体的な形に落とし込む部分は、共同創業者である理事が担っています。

スキンケアに比べてカラーコスメはより女性向けで、好みや感性が重視されるカテゴリーです。そのため、商品をどう見せるかには繊細な感覚が求められます。私と理事でトレンドを取り入れつつ、自分たちなりの視点で取捨選択し、一貫した形で発信するようにしています。また、より若い感覚を持つメンバーからのアイデアも積極的に取り入れています。

Q.好みや感性は仕組み化しにくい領域だと思いますが、時間が経ってもTiptoeの世界観は一貫して保てるのでしょうか。

歴史のあるファッションブランドでも、クリエイティブディレクターが交代することは珍しくありません。それでもブランドの大きな方向性は変わらず、その枠組みの中で新しい表現が加わっていきます。

Tiptoeはまだ4年目のブランドなので、現時点では私と理事が深く関わっていますが、ブランド資産が蓄積されていけば、新しいメンバーがそれを自分なりに解釈し、発展させていけると考えています。一貫性を保ちながらも、創造的な方法で顧客とコミュニケーションを取っていけるはずです。

実際、社内メンバーはTiptoeの雰囲気をよく理解しています。100%完全に一致しているとは言えませんが、「Tiptoeはこういう雰囲気で、こうあるべき」という感覚をしっかり捉えてくれているので、すり合わせに大きな難しさは感じていません。

Q.OLIVE YOUNGで成果を出したいと考えている美容ブランドに向けて、アドバイスはありますか。

一概に一般化するのは難しいのですが、私たちの経験から言うと、初期段階でニッチなカテゴリーに集中したことが成果につながったと感じています。OLIVE YOUNGではカテゴリーごとに担当MDが分かれており、カラーコスメでも下地、目、口といった具合に細かく分かれています。その中で、自分たちが取り組みたいカテゴリー、かつ強みを発揮できる領域があるのであれば、まずはそこに集中して商品を展開していくのが有効だと思います。

特定のカテゴリーで専門性と信頼を積み重ね、「このブランドはこの分野に強い」という認識を顧客に持ってもらうことが重要です。同時に、OLIVE YOUNG内でもカテゴリーとしての存在感を高めていく必要があります。

また、常にランキング上位など目立つ位置に露出できる「軸となるカテゴリー」を育てることも重要です。たとえばリップで展開している途中で、単価を上げたいからといって急に下地に広げてしまうと、どのカテゴリーでも印象が弱くなり、結果的に説得力を持たせにくくなります。一つのカテゴリーに取り組むと決めたのであれば、少なくとも1〜2年は集中して取り組むことをおすすめします。

OLIVE YOUNGのネイルカテゴリー「ベスト」に掲載されたTiptoe

Q.オンライン売上が大きくないと、OLIVE YOUNGのオフライン店舗で良い位置を確保するのは難しいのでしょうか。

一定程度は影響すると思いますが、それがすべてではありません。私たちの場合、他の大手ブランドと比べて売上が突出して高かったわけではありませんが、店頭に並んだ際には最上段の棚に配置されました。オフライン展開においては、ブランドが伝えるメッセージの説得力や、パッケージ、VMD(ビジュアルマーチャンダイジング)といった視覚的要素が非常に重要だと感じています。

また、OLIVE YOUNGのMDの方々は、想像以上にブランドそのものに関心を持っています。どのようなブランドなのか、どんな商品を作っているのか、何が特徴なのか、今後どのように展開していくのか。そうした点を丁寧に見ていただけるのは、むしろ良いことだと感じました。パフォーマンスマーケティング中心の時よりも、ブランドの価値やアイデンティティについて深く考える機会にもなりました。規模の小さなブランドでも、可能性を示すことができれば選ばれる余地は十分にあると思います。オフラインでは、デジタルのアルゴリズムではなく、人と人とのコミュニケーションが意思決定に大きく関わるからです。 

OLIVE YOUNGのオフライン店舗に並ぶTiptoe

Q.創業初期に「これを知っていればもっと良かった」と思うことはありますか。

もしもう一度初期に戻れるなら、チーム内のセールスや流通の体制を、もっと早い段階で強化していたと思います。最初の商品が比較的早くOLIVE YOUNGに導入されたこともあり、その後の流通拡大に十分なリソースを割いていませんでした。自社ECに長く注力しすぎていた部分もあります。過去にMeta広告で成果を出した経験があったため、同じやり方で再現しようとしていたのだと思います。

今振り返ると、それは少し固執しすぎていた面もありました。もちろん、自社ECやSNSを通じてブランドをしっかり表現することは、流通拡大の基盤になります。ただ、それだけに偏るのではなく、少なくとも同じくらいの時間とリソースを営業や流通にも配分する必要があったと感じています。

(特に若い起業家ほどデジタルマーケティングやD2Cに関する知識は豊富ですが、)流通はまったく別の世界です。ベンダーとの交渉、オンラインより高い手数料、販売スケジュールに合わせた在庫管理、販促用のノベルティ企画など、必要な知識は多岐にわたります。私自身、この分野の理解が不足していたため、ここまで来るのに時間がかかったと感じています。

これから消費財ビジネスを始める方には、セールスと流通の重要性を早い段階で意識し、同じ遠回りをしないでほしいと思います。

Q.日本進出にあたって、どのような方針で戦略を立てましたか。

自社だけで日本の流通を担うには限界があるため、現地ではベンダーと協業しています。そのうえで私たちが重視したのは、海外でもTiptoeというブランドをありのまま理解してもらうことでした。そのため、ベンダー選定においても、ブランドの価値をきちんと理解してくれるか、将来性をどの程度評価しているかを重要な判断基準としました。

結果として良いパートナーに恵まれ、初期段階では大きなローカライズを行うことなく、既存の商品ラインアップのままハンズ全店舗で展開することができました。

ハンズの店頭に展開されているTiptoe

ただ、その後は私たちが持っている強みをベースにしつつ、現地の顧客ニーズに合わせた商品開発もある程度必要だと感じるようになりました。現在、セブンイレブンとロフトでの展開を予定しており、今回はローカライズにも少し力を入れています。セブンイレブンには専用商品を用意し、ロフトでも同店限定のラインアップで展開します。

ローカライズを進めるうえでも、私たちのブランドならではの価値や世界観を、日本の顧客にきちんと伝えてくれるベンダーと出会えたことが、非常に重要なポイントだったと感じています。

Q.適切なベンダーはどのように見つけていますか。

韓国である程度実績が出てくると、日本からの問い合わせは非常に多くなります。ただ、各ベンダーの資金力や営業力を事前に正確に見極めるのは簡単ではありません。そこで私は、まずそのベンダーが扱っているブランドのポートフォリオを確認し、そのうえで実際に日本の店舗に足を運びました。

それらのブランドがどれくらい店舗に入っているのか、売り場のどの位置に展開されているのかといった点を確認することで、本当に営業力のあるベンダーかどうかを見極めようとしました。

加えて何より重要なのは、こちらのブランドに対する本気度です。「良さそうだから試してみよう」という程度の温度感で連絡をくれるケースも多いのですが、そうではなく、ブランドの可能性をしっかり理解し、日本で展開したいという意思を持っているパートナーを選ぶことが重要だと考えています。

こうした観点で一次的に候補を絞り、その後に現地での検証を行うことで、一定の基準を満たすベンダーに出会える可能性が高まると思います。

Q.これまで事業を進める中で、最も大きな学びは何だと感じていますか。

起業家は、自分の経験や知識に頼る以上に、市場の大きな流れを読み取ることにエネルギーを使うべきだと感じています。その流れに乗っていれば、周囲より少し優れているだけでも前に進むことができますが、流れに逆らってしまうと、どれだけ努力しても成果につながりにくいと実感しました。

私自身、初期の頃は自分の経験や知識にとらわれすぎていたと思います。限られた視点で市場を見てしまい、その状態で意思決定をしていた場面もありました。

市場がどのように動いているのか、その背景にある力は何か、どのようなブランドが評価されているのか。そして、その流れに乗りながらも自分たちが守るべき軸は何か。こうした点を客観的に捉え続けることができてこそ成長につながるのだと、事業を通じて強く実感しました。

Q.10年後、Tiptoeはどのようなブランドになっていると思いますか。

Tiptoeならではの「ガールコア」の世界観がより多くの顧客に広がり、時代が変わってもその時々の顧客に支持され続けるブランドでありたいと考えています。かつて多くの人に愛され、今もなお新しい世代とコミュニケーションを取り続けているETUDE(エチュード)のような存在が理想です。

学生時代はETUDEをよく使っていましたが、今でも変わらず人気があります。当時人気だった商品がリニューアルされて再び展開されることもあり、そうした点を見ていると、私が記憶しているETUDEと、今の顧客が見ているETUDEは少し違うかもしれませんが、それでも変わらず通用している部分があるのだと感じます。

Tiptoeもブランド資産を積み重ね、今の顧客だけでなく、これから出会う顧客とも長く関係を築いていけるカラーコスメブランドになれたらと思います。学生の頃からTiptoeを愛用してきた方が、大人になってからTiptoeに入社する——そんな方に将来実際にお会いできたらうれしいです。

Q.最後に、ここまで読んでくださった方へ一言お願いします。

Tiptoeは今後、トータルメイクアップブランドとしての展開をさらに広げていきます。あわせて、新規ブランドの準備も進めています。現在、マーケティングや営業、デザインなど幅広い分野で採用を行っています。美容市場でともに成長していきたい方と、ご一緒できればと考えています。

原文:https://www.innoforest.co.kr/report/455/

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