最近、スタートアップ投資市場における資金の流れが「製造AI」へと急速に集中しています。中小ベンチャー企業部の「ベンチャー投資現況」によると、2021年時点では17〜20%にとどまっていた製造ベースのディープテックスタートアップへの投資比率は、2023年以降には35〜40%に達するほど大きく上昇しました。最近の投資事例としては、Rebellions(リベリオンズ)による3,400億ウォン(約367億円)規模の資金調達や、REALWORLD(リアルワールド)の390億ウォン(約42億円)規模の投資など、大型案件が相次いでいます。さらに、SAMSUNG(サムスン電子)やHYUNDAI(現代自動車)といった大企業も、数千億ウォン規模の出資や研究開発の拡大を通じて、技術の内製化に注力しています。
製造AIは単なる一時的な流行を超え、「巨大資本が競合する最前線」となっています。
では、なぜ今、製造AIへの関心がここまで高まっているのでしょうか?

AI生成イメージ
目次
1. なぜ今、製造AIなのか
従来の製造現場は、「記録」と「経験」、そして人の「労働」への依存度が非常に高い構造でした。熟練工が設備の音を聞いて状態を判断し、数十年にわたるノウハウをもとに設備点検や完成品検査を行ってきました。また、部品の搬送、組立、検査といった各工程も、人の手による作業に大きく依存していました。しかし、このような手作業中心の運用には、人件費の高騰、特定個人への過度な依存、ヒューマンエラー(不良)の発生リスク、安全事故といった構造的な課題が存在します。
2023年以降、こうした現場の慢性的な非効率を解消しようとする動きが、資本の流入や政策的な後押しに加え、AI技術の進展と相まって、大きなビジネス機会を形成しています。
▪️市場機会:Deloitte(デロイト)が実施した2025年のスマート製造に関する調査によると、製造企業の92%が今後3年以内にスマート製造を中核的な競争力と位置付けていますが、オペレーション全体にAIを成功裏に適用できている企業はわずか2%にとどまっています。
▪️現場の切迫感と人材供給構造の崩壊:MIT Sloan(MITスローン経営大学院)の調査によれば、かつて米国の製造業は中西部を中心とした産業クラスターによって構成され、工場ごとに業務を分担することで効率を最大化していました。しかし現在では、製造拠点が全米に分散したことで、各拠点がすべての工程を自ら担う必要が生じ、運営上の非効率が発生しています。さらに、ベビーブーマー世代の大量離職に伴い、かつて40%水準であった賃金プレミアムが2%程度まで急減し、人材確保は一層困難になっています。韓国においても状況は厳しく、韓国産業研究院の報告では、製造現場における50代以上の比率が急増する一方で、20〜30代の若年層比率は急減しており、「技能継承の断絶」というリスクが加速しています。
▪️政策的モメンタムと資本の流れ:韓国の産業通商資源部(MOTIE)は、約3.7兆ウォン(約3,995億円)規模の「AI自律製造プロジェクト」を推進しており、製造現場へのAI技術導入に向けて大規模な資金を投入しています。米国においても、「American Dynamism(アメリカンダイナミズム)」復興キャンペーンのもと、a16z(アンドリーセンホロウィッツ)をはじめ、Founders Fund(ファウンダーズファンド)、General Catalyst(ジェネラルカタリスト)といった主要VCが、国家基盤となる産業技術に巨額の資金を投じています。さらに、Stanford HAI(スタンフォードエイチエーアイ)の調査によると、世界のAI投資額は約2,523億ドル(約40兆円)に達しています。
▪️技術的臨界点の突破:従来は、単一のAIモデルを現場に適用するために数カ月にわたるコーディングと試行錯誤が必要でしたが、現在は状況が大きく変化しています。Sim-to-Real(仮想から実世界への転移)技術の進展、VLA(ビジョン・言語・行動)モデルの実用化、アクチュエータの小型化・高出力化といった要素技術の進化により、ロボティクスの高度化が加速しています。さらに、Agentic AIやMCP(Model Context Protocol)、Edge AIといった技術の発展により、ソフトウェアは単なるデータ収集・分析の域を超え、突発的な状況へのリアルタイム対応や自律的な目標設定、ワークフローの改善といった意思決定領域にまで踏み込む水準に到達しています。
このように、かつての工場が熟練工の「勘」によって運営されていたのに対し、現在の産業現場は、データをリアルタイムで理解し、自律的に行動するAIエージェントとロボットの協働によって再定義されつつあります。以下では、最近の米国および韓国のスタートアップの事例をもとに、ソフトウェアおよびロボティクスの分野でどのような変化が生じているのかを具体的に見ていきます。
2. S/W:Factory Operation System(ファクトリー・オペレーション・システム)
従来の製造AI技術は、データを収集し、人の意思決定を補助する役割にとどまっていました。しかし現在では、製造AIソフトウェアの中核は、単なるデータ収集に加え、そのデータを分析し、自ら判断する領域へと拡張しています。先に述べたMCPモデルやAgentic AI、Edge AIといった技術を活用することで、AIはリアルタイムに状況を理解し、判断を下す「工場の頭脳」として機能します。熟練工が現場を離れても非効率が生じないよう、ソフトウェアがワークフローを効率的に設計し、最適な意思決定を支援する時代が到来しています。
①アメリカの事例
HighByte:HighByte(ハイバイト)は、工場全体のデータを標準化された構造でモデリングし、AIが即座に活用できる環境を整えています。製造現場に存在する複雑なセンサーや機械のデータを統合・管理することで、運用の効率化に貢献しています。さらに、さまざまな業界においてグローバル大手企業を顧客として獲得しており、その実績を背景に、2024年には1,200万ドル(約19億円)規模のシリーズA資金調達を完了しました。

HighByte Intelligence Hubの画面(出典:HighByte公式サイト)
MaintainX:MaintainX(メンテインエックス)は、これまで紙の書類やExcelに依存していた工場の予防保全や安全点検といった保守業務をデジタル化するため、データの収集・分析を行っています。さらに、チェックリスト機能を開発することで、より精緻な点検を可能にしています。これにより、計画外のダウンタイムを34%削減し、生産能力を15%向上させました。直近では約1.5億ドル(約238億円)のシリーズD資金調達を実施しています。

MaintainX AI-Powered Maintenanceのデモ画面(出典:MaintainX公式サイト)
Nominal:Nominal(ノミナル)は、断片化された製造データをリアルタイムに集約し、エンジニアが迅速に原因分析を行える基盤を提供しています。2026年3月には、Founders FundやSequoia(セコイア)をはじめとする投資家から、8,000万ドル(約127億円)の資金を調達しました。

Nominal Core(出典:Nominal公式サイト)
②韓国の事例
MakinaRocks:MakinaRocks(マキナロックス)は、閉鎖されたネットワーク環境でも安全にAIモデルを展開・管理できる産業向けAI OS「Runway」を提供しています。図面の解析や溶接品質の判定といった熟練工の業務を代替するAIエージェントを開発し、現場での活用を進めています。これまでに累計143億ウォン(約15億円)の投資を獲得しています。

MakinaRocks Runwayサービスのデモ映像(出典:MakinaRocks公式サイト)
DAIM Research:DAIM Research(ダイムリサーチ)は、先端製造業および従来型産業の顧客企業に向けて、物流ロボットシステムの設計を支援するソフトウェアプラットフォームを提供しています。デジタルツインとAIベースの群制御技術を基盤に、管理者が常駐しなくても工場が24時間途切れることなく稼働し続ける、自律型の製造オペレーションシステムの構築を進めています。2025年末には、約100億ウォン(約11億円)規模のシリーズA資金調達を完了しました。

DAIM Researchプラットフォーム概要(出典:DAIM Research公式サイト)
xMSサービス稼働画面(出典:DAIM Research公式YouTubeチャンネル)
OnePredict:OnePredict(ワンプレディクト)は、音や振動データを解析することで予知保全ソリューションを提供しています。微細な振動や音の変化を捉え、設備の故障時期を事前に予測するとともに、最適なメンテナンス時期に関するインサイトを提示しています。これまでに累計490億ウォン(約53億円)の資金調達を行っています。

OnePredict Cyclone(出典:OnePredict公式サイト)
OnePredict PDX(出典:OnePredict公式サイト)
3. Robotics:‘Physical AI’(フィジカルエーアイ)
工場における「判断」をソフトウェアが担う一方で、ロボティクスは人手不足が進む現場において、人間の「実際の行動」を実行する役割を担います。従来のロボットは、あらかじめ設定された軌道を繰り返すだけの機械に過ぎませんでしたが、現在ではVLA(Vision-Language-Action)モデルの高度化、Sim-to-Real技術の実用化、そして高性能アクチュエータの進化が組み合わさることで、現場の状況を自ら認識し、判断し、行動することが可能になっています。特に、人間の熟練度を上回る性能を持つ「特定用途型ロボット(Constrained Robotics)」は、人手不足の有力な解決策として注目されています。
①アメリカの事例
Dexterity:Dexterity(デクステリティ)は、非定型な物流環境において、ロボットが自ら判断し、物品を把持して搬送する自律システムの開発に注力しています。トラックから荷物を下ろす積み下ろし作業に加え、サイズの異なる箱を隙間なく積み上げる混載パレタイジングなど、難易度の高い工程にも対応しています。2025年には9,500万ドル(約152億円)の資金調達を実施しました。

Dexterity Robotics(出典:Dexterity)
Dexterity Robotics in Action (出典:Dexterity公式サイト)
RobCo:RobCo(ロブコ)は、ロボットの専門人材がいない中小企業に向けて、パレタイジングや溶接などに対応可能な「プラグアンドプレイ」型のロボットモジュールを提供しています。初期投資や複雑なプログラミングが障壁となり自動化を断念していた企業に対して、低コストかつ導入しやすいロボットソリューションを提供しています。Lightspeed(ライトスピード)から4,250万ドル(約68億円)のシリーズB投資を調達しました。

RobCo Material Handling (出典:RobCo公式サイト)
RobCo Machine Loading(出典:RobCo公式サイト)
Apptronik:Apptronik(アプトロニック)は、倉庫内での箱の搬送や積み下ろしといった反復作業を完全自動化するために設計された汎用ヒューマノイド「Apollo(アポロ)」を開発しました。Mercedes-Benz(メルセデス・ベンツ)などのグローバル企業とのパートナーシップを通じて、ヒューマノイドの商業的価値を世界的に実証しています。2026年2月にはシリーズAの追加資金調達で5億2,000万ドル(約829億円)を調達し、総額9億3,500万ドル(約1,490億円)規模のシリーズAラウンドを完了しました。

Apptronik Astraヒューマノイド(出典:Apptronik 公式YouTubeチャンネル)
Apptronik Apollo Trailer Unloading (出典:Apptronik 公式サイト)
②韓国の事例
Twinny:Twinny(トゥイニー)は、3D LiDARを活用した自律走行技術により、マーカーを設置せずとも複雑な物流倉庫やオフィス内を自律移動できるAMR(自律搬送ロボット)を提供しています。大規模な群制御走行技術によって物流処理量を最大化し、郵便局や鉄道公社など複数の公共機関とPoCを実施してきました。今月には204億ウォン(約22億円)規模のシリーズC資金調達を完了しています。

TWINNY TCS(Twinny Convenient Solution) サービス画面(出典:Twinnyホームページ)
ナルゴ・オーダーピッキングの画面(出典:Twinny公式YouTubeチャンネル)
Diden Robotics:Diden Robotics(ディデンロボティクス)は、電磁永久磁石(EPM)技術を活用し、鉄製の壁面や天井を自由に移動できる四足歩行ロボットを開発しています。造船所のブロック内部やプラントといった高リスク環境における溶接・点検作業の自動化を実現しています。2025年8月には約70億ウォン(約8億円)のプレシリーズA投資を含め、累計約120億ウォン(約13億円)の資金調達を行いました。

DIDEN Walker(出典:Diden Robotics公式サイト)
DIDEN Spider(出典:Diden Robotics公式サイト)
A-Robot:A-Robot(エーロボット)は、人間の歩行や精密な動作を再現する汎用ヒューマノイドプラットフォームを開発しており、既存の設備を変更することなく現場に即時投入できるヒューマノイドの実現を目指しています。現在、韓国の大手企業の製造工程において、人間作業者と同等レベルの作業遂行能力を検証する実証実験を進めています。2025年4月には100億ウォン(約11億円)規模のシリーズA投資を完了し、累計約140億ウォン(約15億円)の資金を調達しました。

[Alice M1(出典:A-Robot公式サイト)] [Alice 4(出典:A-Robot公式サイト)]
4. Mark & Companyのインサイト
今回の製造AIトレンドの分析から、アメリカは豊富な資本を背景に汎用ロボットの知能化やデータの資産化に注力しているのに対し、韓国は製造業の競争力を基盤として、特定の現場や産業課題に対応する実用的なモジュール提供に力を入れていることが明らかになりました。ただし、市場で本質的に問われるのは技術の華やかさではなく、現場での実行可能性です。多くの企業がその重要性を認識していながらも、全社導入が2%にとどまっている背景には、「現場」という大きな壁が存在します。最終的にこの市場で勝ち残るのは、単に先端技術を持つチームではなく、現場を深く理解し、実務に適用して課題を解決できるチームだと言えるでしょう。
Mark & Companyが、FOBECON(フォビコン:ビジョンAIベースの建設会社向け積算算出サービス)、Law.ai(ローアイ:AIロボティクス基盤の自律生産ソリューション)、Bstar Robotics(ビースターロボティクス:ローディングドック内の物流積み下ろしおよび検収の自動化ロボット技術)、Euler Robotics(オイラーロボティクス:非定型ランダム箱のパレタイジング/デパレタイジングソリューション)に投資した理由も同様です。4社はいずれも、経営陣が高いドメイン知識を有し、現場の課題を明確に定義したうえで、実際の産業現場における複数のPoC(概念実証)を通じてプロダクトのPMFを実証してきました。Mark & Companyは今後も、「製造AI」というラベルにとどまらず、現場の言語を理解し、再現性のある成果を創出できるチームと共に歩んでいく方針です。
1.FOBECON:韓国の大手建設会社とのPoCを複数実施し、図面解析および積算分析を進行中
2.Law.ai:韓国内外のモビリティ大手企業とともに、製造現場でのPoCを実施中
3.Bstar Robotics:韓国内外のPoCを通じて、自律走行および物流ロボット仕様の検証を進行中
4.Euler Robotics:複数の大企業とRBS導入の協議を進めるとともに、産業用ロボット設計の受注を獲得中
原文:https://www.innoforest.co.kr/report/464/
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