はじめに

VC(ベンチャーキャピタル)によるスタートアップ投資は、本来「平均的な成功」を期待するゲームではありません。数多くの投資先企業の中から、わずかな企業が圧倒的な成功を収め、その成果によってファンド全体のリターンが決まる構造となっています。そのため長年VCは、急成長が期待でき、大規模な投資回収の可能性を持つテクノロジースタートアップを中心に投資ポートフォリオを構築してきました。

ところが近年、このロジックはライフスタイル分野でも機能し始めました。ファッション、ビューティー、F&B、ホーム・リビング分野でも、大型プラットフォームやブランドを基盤とするスタートアップが登場し、ライフスタイル系スタートアップもスケールアップやイグジットが可能な投資対象として注目されています。

では、投資家はこの市場をどのように見ているのでしょうか?「イノベーションの森(혁신의숲)」の投資会社データを見ると、同じライフスタイル分野であっても、ファッション・ビューティー・F&Bは投資構造が大きく異なることが分かります。本レポートでは、シリーズ第1弾としてファッション分野の投資構造を掘り下げ、その後ビューティー、F&B分析へと続いていきます。

01.ライフスタイル投資市場の概要

ライフスタイルスタートアップは、これまでベンチャー投資市場において一つの独立したカテゴリーとして扱われることは少なく、主に「消費財」、「コマース」、「流通」といった幅広い分野の一部として説明されることがほとんどでした。VC投資に関する議論も、一般的にテクノロジーを基盤とするスタートアップを中心に行われてきました。

しかし最近では、この流れが徐々に変化しています。ファッションEC、ビューティーブランド、F&Bサービス、ホーム・リビング系スタートアップが急速に成長する中で、ライフスタイル系スタートアップもベンチャー投資市場でより注目されるようになりました。単にブランドを立ち上げるだけではなく、事業規模を拡大し、追加投資やイグジットまで期待できる企業が現れ始めているためです。

もちろん、ライフスタイルスタートアップの成長モデルはテクノロジー企業とは明らかに異なります。技術系企業が特許、アルゴリズム、研究開発力を競争力の源泉とする一方で、ライフスタイル分野では、ブランド価値、流通チャネル、顧客接点とリピート購入の構造、プラットフォームとのシナジーなどが、より重要な成長要因となります。

このような特性上、ライフスタイル系スタートアップへの投資は、単純な資本流入を超え、投資家が保有する流通・マーケティング・プラットフォーム資産を企業の成長戦略と結びつける形で行われる場合が多いです。そのため、「どの企業が投資を受けたか」だけではなく、「どのようなタイプの投資家がパートナーとして参加したか」を一緒に調べる必要があります。

こういった違いは実際の投資データでも確認されます。同じライフスタイル分野に分類されるファッション・ビューティー・F&Bであっても、投資件数、投資家のタイプ、投資の集中度はそれぞれ異なっています。これは、ライフスタイルスタートアップ投資が単一の均質な市場ではなく、それぞれの産業構造や成長方法に応じて異なる投資パターンを形成していることを示しています。

Notes:本データは、各カテゴリーの主要投資対象企業を一定基準で抽出したサンプルに基づく。したがって、投資会社数の単純比較ではなく、投資件数や投資頻度の違いを中心に解釈する必要がある。

このグラフで注目すべき点は、カテゴリーごとの投資件数の違いです。今回のデータでは、ファッションは投資会社19社・投資件数86件、ビューティー/化粧品は投資会社18社・投資件数80件、フード/農業は投資会社19社・投資件数180件という結果になりました。

違いは、投資会社1社あたりの平均投資件数に顕著に表れています。ファッションとビューティーでは1社あたりの平均投資件数が4~5件であるのに対し、F&Bでは9件以上となっています。これは、同じライフスタイル分野であっても、投資参加方法がカテゴリーごとに異なることを示しています。本シリーズでは、ライフスタイルスタートアップ投資という大きな流れに注目しますが、この流れをより詳細に理解するためにフ、ァッション・ビューティー・F&B各カテゴリーの産業構造と投資家構成、投資参加方式を個別に分析していきます。

02.ファッションカテゴリー:CVCが最も大きな割合を占める構造

ファッションカテゴリーでまず注目すべき点は、本サンプルにおいてCVC系投資家が最も大きな割合を占めているということです。これは、ファッションスタートアップへの投資を単なる財務的投資家の観点だけで捉えるよりも、ブランドの発掘、流通チャネルの拡大、顧客接点の獲得につながる戦略的投資家の参加可能性まで一緒に考慮する必要があることを示しています。

CVC(Corporate Venture Capital)とは、一般的に既存企業が外部スタートアップにへ持分投資する活動を意味します(Dushnitsky&Lenox、2005)。ただし韓国では、CVCは一つの独立した単一業種ではなく、根拠法令と制度的形態によってベンチャー投資会社、新技術事業金融会社、事業会社による直接投資などの形態に分かれて運営されています。そのため本レポートでは、親会社または関連会社の事業的利害関係と結びつく可能性が高い投資家を「CVC系投資家」と分類しました。これには、子会社型CVC、事業会社による直接投資、戦略的投資企業/組織(*)、金融系CVC(**)が含まれます。

Notes:本分析は、ファッション投資が1件以上確認された19社、合計86件の投資事例を基準とする。左側は投資会社数、右側は投資件数を基準に、投資家タイプ別の分布を示す。

ファッションカテゴリーでは、CVC系投資家が投資会社数と投資件数の両方の基準で最も高い割合を占めています。投資会社数では、全19社のうちCVC系が7社で36.8%を占め、投資件数でも、全86件中30件で34.9%を占めました。続いて投資件数では、AC21件(24.4%)、海外VC19件(22.1%)、国内VC13件(15.1%)、公共AC3件(3.5%)の順になっています。この結果から、ファッションカテゴリーのCVC系投資家は単に参加する投資家の数が多いだけでなく、実際の投資活動においても中心的な役割を果たしていることが分かります。

こうした分布は、ファッションスタートアップへの投資を財務的収益の観点だけで捉えるよりも、ブランドの発掘、流通チャネルの拡大、顧客接点の確保に関連した戦略的投資の観点から一緒に解釈する必要があることを示唆しています。ファッション業界では、ブランドが「どの流通チャネルにつながるのか」、「どの顧客層と接点を持てるのか」が企業の成長に大きな影響を与えます。また、ファッション企業は複数のブランドをポートフォリオで運営し、ターゲット顧客層、価格帯、ブランドスタイル領域を細分化して管理します。したがって、流通プラットフォームやファッション関連の親会社によるスタートアップ投資は、新規ブランドを早期に発掘し、それを自社チャネルまたはブランドポートフォリオと連結する戦略的投資として解釈することができます。

この考え方は、企業はCVCを介して外部スタートアップの革新的なアイデアや市場シグナルを学び、それを内部事業戦略と結びつけるというDushnitskyとLenox(2005)の戦略的学習理論とも一致しています。ただし、ファッション分野での戦略的学習は、技術特許やR&D資産の確保に限定されず、むしろ消費者の嗜好、新興ブランドの感性、流通チャネルの反応、コミュニティから生まれる需要といった市場のリアルなシグナルを、自社ブランドや流通戦略に結びつける形で行われます。

03.ファッション投資のポートフォリオ事例

前章では、ファッションカテゴリーにおいてCVC系投資家の存在感が大きいことを確認した一方、次に注目すべきなのは、個々の投資会社のポートフォリオの中で、ファッション分野がどのような位置を占めているのかという点です。ある投資会社がファッションスタートアップへの投資件数がが多いことと、その投資会社の総投資件数のうちファッション投資が占める割合が高いことは、必ずしも同じ意味ではないからです。

Notes:ポートフォリオに占めるファッション投資の割合が高い上位10社の投資会社を基準とする。グラフの各棒は、投資会社のライフスタイル分野への投資ポートフォリオ全体を100%として換算したカテゴリー別構成比を意味する。

ファッション比率の高い投資会社を分析する際には、前章で扱った投資件数とポートフォリオ内の比率を区別して見る必要があります。投資件数は、投資会社がファッション分野へどれほど繰り返し参入したかを示す指標であり、ポートフォリオの比率は、ライフスタイルの投資全体の中でファッションがどれほど重要な位置を占めるかを示す指標です。ただし、ファッションスタートアップの多くはEC・流通モデルと密接に結びついているため、本チャートではファッション分野とともにコマース分野の割合も合わせて表示しました。したがって、この図は投資規模そのものよりも、各投資会社がライフスタイルポートフォリオ内でファッションをどの程度の関心領域に位置付けているかを示す資料として理解するのが適切です。

このような解釈は、VCが単なる資金提供者ではなく、投資先企業の成長プロセスに積極的に関与する存在であるというSahlman(1990)の議論とも関連しています。VCは投資後も、取締役会への参加、経営支援、段階的な資金供給などにより、企業の成長方向に影響を及ぼすことができます。ファッションカテゴリーでは、このようなVCの付加価値創出機能は、流通チャネルの確保、ブランド認知度の拡大、顧客接点の強化、市場反応の検証といった、実質的なビジネスサポートへとつながる可能性があります。特に、CVCファミリー投資家のポートフォリオにおいてファッション投資の割合が高いという点は、有望ブランドを単なる投資資産としてではなく、自社ブランドのポートフォリオや流通チャネルとの戦略的相乗効果を念頭に置いた戦略的選択として捉えている可能性を示しています。

04.ファッション投資会社におけるフォローオン投資の構造

スタートアップへの投資は、企業の成長段階に応じて複数回の資金調達ラウンドにつながる段階的な資金調達構造を持つことが一般的です。そのため、同じスタートアップの投資履歴をたどり、どのような投資家タイプが先行ラウンドと後続ラウンドでともに登場しているのかを確認すると、ファッションカテゴリーにおける投資家参加パターンをより立体的に理解することができます。

ただし、先行ラウンドと後続ラウンドに特定の投資家タイプが共に現れたからといって、先行投資が後続投資を直接引き起こしたと解釈してはなりません。本分析は因果関係を示すものではなく、同じスタートアップの投資履歴の中で、どのようなタイプの投資家の組み合わせが繰り返し見られるかを示す構造的データとして理解することが適切です。

Notes:本分析では、ファッション投資比率が高い上位10社の投資会社を中心に、同じスタートアップの投資履歴において先行ラウンドと後続ラウンドに同時に現れた投資家タイプの組み合わせを可視化する。図中の線の太さは投資金額ではなく、投資家同士の組み合わせが確認された回数を意味する。

同じスタートアップの投資履歴を見ると、先行ラウンド・後続ラウンドの双方において、CVC系投資家の存在感が際立っています。特に、ファッション投資比率の高い投資家と結びつく後続ラウンドでも、CVC系投資家が重要な割合を占めていることが分かります。ただし、このような連携はCVCだけで構成されるわけではなく、国内VC、AC、その他の外部投資家など、様々な投資家タイプも共に参加しています。

これは、ファッションスタートアップへの投資がCVCによる戦略的な参加を中心に形成されながらも、実際の段階的な資金調達プロセスでは、複数の投資家タイプがラウンドごとに組み合わさる構造となっていることを示しています。したがって、ファッションカテゴリーの投資構造は、CVCの役割を中心軸として理解しつつも、国内VC、AC、外部投資家などが共同で参加する複合的な資金調達モデルとして解釈することが適切でしょう。

05.ファッション投資の実例

それでは、ファッションスタートアップへの投資は実際にどのような協業へと発展しているのでしょうか?次の2つの事例を通して見てみましょう。

Your Name Here — 有望なファッションブランドとプラットフォーム・ビューティーポートフォリオの連携

Your name here(ユア・ネーム・ヒア)は、ファッションエディター出身のキム・ミンジョン代表が2016年に立ち上げた女性服ブランドで、着心地の良い素材と立体的なシルエットを特徴とし、20〜30代女性を中心に高い認知度を築いてきました。また、親しみやすい商品名やデイリールックを中心とした製品を通じて、高いロイヤルティを持つ顧客層を獲得してきた点も特徴です。

MUSINSA(ムシンサ)とAmorepacific(アモーレパシフィック)は2021年、AP&Mビューティー・ファッション共同ファンドを通じてYour Name Hereに戦略的投資を行い、さらにMUSINSAはセカンドブランドの立ち上げや自社EC「ムシンサストア」への出典可能性についても検討しました。この事例は、ファッション分野のCVC投資が、有望ブランドの発掘を超え、自社プラットフォームとの連携まで視野に入れた戦略的投資として機能できることを示しています。

amonz ー ジュエリー特化型プラットフォームとコマース戦略の融合

Amondz Labが運営するamondz(アモンズ)は、デザイナージュエリーブランドをキュレーション・販売するジュエリー専門のECプラットフォームです。2019年のサービス開始以来、多くのデザイナーブランドを取り扱いながら成長し、ファッションカテゴリーの中でもジュエリーというニッチな領域に特化した代表例といえます。

CJ ONSTYLEは2022年、amondz運営会社に30億ウォンを投資し、これをファッションカテゴリー競争力強化を目的とした戦略的投資であると説明しました。その後の投資ラウンドでも、CJ ONSTYLEと楽天ベンチャーズが戦略的投資家として参加したことが確認されます。つまり、amondzの事例は、ファッションスタートアップへの投資が有望な垂直型プラットフォームを早期に発掘し、それを戦略的投資家が持つコマース資産と結び付ける形で展開できることを示しています。

06.まとめ:ファッション投資の鍵は流通・ポートフォリオとの連携

ファッションカテゴリーの分析結果は、次のようにまとめることができます。

1.CVC系投資家が、単一の投資家タイプの中で最大の割合を占めています。 ファッション分野で1件以上の投資実績が確認された19社の投資家のうち、CVC系列は7社で(36.8%)を占め、投資件数ベースでも30件(34.9%)で最も高い割合を示しました。ただし、非CVC系投資家の合計は12社・56件で、全体としては依然として多数派を維持しています。

2.ポートフォリオの観点では、ファッションは一部の投資家にとって選択的に重要なカテゴリーとなっています。 特にN社のように、ライフスタイル分野のポートフォリオの中でファッション投資の比率が高い投資家は、ファッションを単なる分散投資の対象ではなく、自社事業領域と連結可能な戦略的領域として位置付けている可能性があります。

3.実例で見たCVC投資の取引形態は、単なる持分投資ではなく、共同ファンドの設立や・戦略的投資(SI)といった親会社の経営資源との連携を前提とした戦略的取引となっています。 Your Name Hereは、MUSINSA・AmorepacificによるAP&M共同ファンドを通じて、Amondzは、CJ ONSTYLE・楽天ベンチャーズによるSIラウンドを通じて資金調達を行いました。つまり、ファッション分野のCVC投資は、資金を提供するだけではなく、プラットフォーム・コマース・ブランドポートフォリオとの連携を前提とした取引構造として機能しているのです。

示唆

起業家へ:ファッションスタートアップが投資家を選ぶ際には、投資金規模だけでなく、当該投資家が提供できる流通チャネル・ブランド露出・顧客接点・後続投資ネットワークなども合わせて検討する必要があります。特にCVC系投資家は、自社プラットフォームやブランドポートフォリオとの連携可能性を提供できるため、市場での初期検証や事業拡大の設計に役立ちます。ただし、投資誘致の段階でこれらの支援が実際に可能であるか、具体的な協力方式まで確認することが重要です。

投資家へ:ファッションカテゴリーでは、資金提供だけでは投資家としての差別化は難しくなっています。有望ブランドの発掘に加え、該当ブランドが成長できるように流通チャネル・顧客データ・マーケティング資産・既存ブランドポートフォリオとのシナジーを合わせて提示する必要があります。財務的リターンを目的としたFIの視点だけでなく、戦略的投資家(SI)として提供できる包括的な支援パッケージがますます重要になっており、こういった支援能力こそが、優れたスタートアップとの投資機会を確保するための競争力にも繋がります。

原文:https://www.innoforest.co.kr/report/479/

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