非首都圏のスタートアップエコシステムはどんな悩みを抱えているのか?
非首都圏のスタートアップエコシステムはどんな悩みを抱えているのか?
スタートアップに代わる創業が、各国の経済の話題だ。各国ともスタートアップが今後の国家経済を牽引する原動力だと認識している。このような流れにより、国を代表するユニコーン企業も多数誕生した。
韓国の創業エコシステムはIMF以降、「ベンチャー」という名前で始まった。IMFは韓国に多くの創業者を必然的に誕生させた。インターネット網が本格的に普及したことで、さらに弾みがついた。政府がファンド・オブ・ファンズとして支援し、民間創業者・ベンチャー投資家の経験と能力が蓄積され、第2次ベンチャーブームが到来した。政府も、大企業中心から革新中小ベンチャー主導に経済成長政策を転換し、ベンチャー、スタートアップに対する支援と制度革新を推進している。これにより、韓国のスタートアップエコシステムは、グローバルレベルで整っていると評価される。
しかし、スタートアップエコシステムが首都圏に集中的に構成されているのが問題だ。絶対的な企業数はもちろん、投資資本、人材まで偏っている。このような状況下でも有意義な挑戦を続けている地域の起業家たちがいるが、土壌性質の低い場所で良質の作物が豊かに育つことを望むのは欲張りだと言える。では、首都圏に偏った韓国スタートアップエコシステムのアンバランスを解消するためには、どのような方策があるか。地域の創業エコシステムの活性化を図るため、地域のスタートアップ、投資会社、創業支援機関、大企業、大学など地域のスタートアップエコシステム関係者100人が、釜山(プサン)に集まった。
「地域スタートアップエコシステムサミット2023」 ⓒPlatum
スタートアップ民間協力機関STARTUP ALLIANCE(スタートアップアライアンス)主催で「地域スタートアップエコシステムサミット」の初イベントが、釜山Nurimaru(ヌリマル)APECハウスで7月27、28日の両日開催された。今回のイベントは、地域のスタートアップエコシステム構成員が一堂に会し、地域エコシステム発展方策を多方面に議論するために設けられた。
サミットでは、合計25人の講演者とモデレーターが地域のスタートアップエコシステムに関するアジェンダを提示した。参加者は2日間にわたり、地域のスタートアップエコシステムの現状分析、地域エコシステムに必要なもの、投資家と公共の立場から見た地域の機会と限界、民間の立場から見た地域の強みと弱み、地域のスタートアップエコシステムの活性化方策について議論した。
123 Factoryイ・ウンソ代表 ⓒPlatum
ドイツで創業した123 Factoryのイ・ウンソ代表は、ベルリン、ミュンヘン、ハンブルクなど、ドイツの地域創業エコシステムの特徴を共有した。
ドイツの創業企業密度は高い方である。人口8,440万人のドイツのスタートアップ数は約7万件で、2020年基準、スタートアップ従事者は41万人、2030年には97万人になると予想される。ドイツは2030年までに100億ユーロ(約1兆5,864億円)の予算を投入し、ヨーロッパ最高のスタートアップエコシステムを造成する計画を進めている。
イ・ウンソ代表は「ドイツのスタートアップのメッカはベルリンだ。年間500の新規スタートアップと8万の新規雇用がここで生まれ、ドイツのスタートアップ投資額(31億ユーロ、約4,918億円)の58%がここのスタートアップに投資される」と述べ、「ベルリンの創業エコシステムは多様性、開放性が融合したエコシステムだ。創業者の約43%が外国人で、シリコンバレーに次いで世界2番目に多く、スタートアップ従事者の60%以上がドイツ以外であるほど、外国人に優しいビジネス環境である。優秀な人材、投資環境、革新的なアイデアが作るエコシステム」と述べた。
イ代表は「ドイツ創業エコシステムのメリットは、大企業とスタートアップの交流が活発で、それに伴うM&A事例が多いことだ。しかし、韓国とドイツのスタートアップエコシステムを単純に比較するのは難しい。歴史と伝統産業の経済構造が異なり、韓国の方が優れている部分も多い」とし、「韓国の地域創業エコシステムのグローバルプレゼンスはまだ微々たるものだ。ソウルが24位を占めているが、他の都市は到底及ばない。全体的な上方平準化が必要だ」とアドバイスし、発表を締めくくった。
未来科学技術ホールディングス キム・パンゴン代表 ⓒPlatum
科学技術の都市と呼ばれる大田(テジョン)は、人口当たりのベンチャー企業数が首都圏と同様に増加傾向にある、唯一の地域である。未来科学技術ホールディングスのキム・パンゴン代表は、大田のメリットとして「ソウル、大邱(テグ)、釜山、光州(クァンジュ)などの都市とのアクセス性、知的資本と再教育の基盤、技術企業に特化した環境、多数のアクセラレータによる初期企業支援、16の政府出資研究所とKAISTを通じた技術力確保の容易さ」などを挙げた。
キム代表は、質の高いスタートアップエコシステムが造成されるためには「密度」を高めなければならないとアドバイスした。彼は「大田の投資エコシステムは過去10年間で確実に良くなった。今後、”ディープテック、ディープサイエンス創業は大田”という認識を浸透させるため、地域に愛着のある起業家を多く育成し、彼らが中心になる必要がある。そして”時間”と”課題”と”空間”の密度を高めることで、創造性も成長する。そして、ソウル・COEXのビョルマダン図書館のようにtopophilia(トポフィリア)を感じさせる象徴も必要だ」と意見を述べた。キム代表は、大田をはじめ、牙山(アサン)、五松(オソン)、清州(チョンジュ)を結ぶ忠清北道(チュンチョンブクド)圏のエンジェル投資ハブが作られていると伝えた。
BNKベンチャー投資ノ・テソク部長 ⓒPlatum
BNKベンチャー投資ノ・テソク部長は、東南圏エコシステムを紹介した。釜山、蔚山(ウルサン)、慶尚南道(キョンサンナムド)は、首都圏を除き、制度とインフラが最も整っている地域と評価されている。ノ・テソク部長は「スタートアップは、地域が直面している課題のほぼ唯一の突破口である。それに伴い、各自治体の関心と意欲も高い。しかし、産学研ではまだスタートアップに対する認識が低い。機関と自治体は目に見えるKPIを目指し、担当者が頻繁に変わり、政策的なスピードが遅い。また、アクセラレータやベンチャーキャピタル、スタートアップシーンにチェリーピッカーやゴーストオフィスが存在する問題がある」と指摘した。彼は東南圏エコシステムが、シルバーケア、観光ビジネス中心に成長していると伝えた。
CommunityXチョン・ジョンファン代表 ⓒPlatum
昨年までの7年間、済州(チェジュ)創造経済革新センターのセンター長を務めたCommunityX(コミュニティエックス)チョン・ジョンファン代表は「2023年現在、済州のスタートアップエコシステムは規模は小さいが、多様で堅固だ。航空宇宙、新再生可能エネルギー、モビリティ、ローカルクリエイターなど様々な企業があり、KRYPTON(クリプトン)やMYSCなど多数のアクセラレータが進出している地域だ。しかし、8年前の2015年、済州は1次産業と団体観光産業に偏っており、地域の創業機関もなく、スタートアップ投資もなかった。2010年から2015年の間、地域エコシステムがなかったため見逃したスタートアップの好循環の機会が多かった」と述べた。
チョン代表は、非首都圏スタートアップエコシステムの共通の問題点として「政府主導のトップダウン産業育成に依存すること、画一的な産業構造、多様性と創発性の民間コミュニティの欠如」を挙げた。彼は「済州創造経済革新センターを担当しながら悩んだのは、スタートアップエコシステム、コミュニティの礎を築くことだった。地域のスタートアップエコシステムを育てる中間支援組織の役割を考え、出した結論が”公共と機関がすべきこととやってはいけないことを区別すること"だった」と述べた。
続けて「われわれが選んだのは、機関の短期的な成果のためにエコシステムを害さないということだった。そこで、やってはいけないこととして、創業者ではなく公共の成果のためだけに働くこと、民間ができることなのに公共が民間の代わりに成果を上げること、地域の他機関と競争して互いに成果を奪い合うこと、短期的な成果達成のための大きな予算と大規模な見せかけのイベントを避けることにした。反対に、われわれがしなければならないことは、地域の革新主体を発掘し、地域にない主体は流入させてつなげること、成功した呼び水事業もエコシステムが成長すれば終了させること、エコシステムの多様な主体(審査委員、投資家、行政、議会、メディアなど)と一緒に学習して成長させること、地域スタートアップエコシステムの知識を創出し、共有して変化を加速することに決めた」と説明した。
彼は「このような基調の中で、エコシステム成長と共に機関の役割も絶えず変化させようとした。このような7年間の努力で、済州創造経済革新センターは現在の姿になった」と述べた。
最後にチョン代表は「地域スタートアップエコシステムを育てることは、"幸運な機会が多くなる地域を作ること"だ。10年以上の長期的なビジョンとして、様々な主体と一緒に地域のスタートアップエコシステムを育てれば、スタートアップはもちろん、投資家にもより多くの機会が開かれるだろう」と強調した。
韓国エンジェル投資協会コ・ヨンハ会長 ⓒPlatum
韓国エンジェル投資協会のコ・ヨンハ会長は、地方消滅の打開策として「創業人材の育成」、「エンジェル投資と成長ファンドの活性化」、そして良質の地域スタートアップエコシステムの造成をキーワードとして提示した。そして「世界的に、国家競争力は起業家エコシステムにより左右されている。時代精神は創業であり、革新の主役は間違いなくスタートアップ」とし、「地域の創業エコシステムが発展するには、起業家精神教育を通じて、創業人材を育成すべきである。そして、エンジェル投資が活性化され、規模のある成長ファンドがあってこそ、地域に根付く企業が生まれる。また、長期的に政策を継続できるリーダーシップが必ず必要だ」と強調した。
韓国初期投資機関協会のイ・ヨングァン会長は「VCの91.3%が首都圏に位置している。これは、地域企業とベンチャーキャピタル間の距離が遠いことを意味する。距離が遠いと、VCが企業を発掘し、管理するのが不便であり、事業を理解するためのコストが多くかかる。現実的に、首都圏のVCが頻繁に地方に行ってスタートアップを把握し、投資決定までするのは容易ではない。投資決定も遅れるが、投資後の事後管理にも障害となるのだ」と述べた。
イ会長は、地域の投資機関や関係会社との協業を通じて、物理的な距離で発生する非定量情報のアンバランス性を解決しなければならないと強調した。彼は「地域のスタートアップの母数が少ないため、スケールアップファンドを運営する大手VCが定住するのは現実的に難しい。アクセラレータなど、地域ベースの投資機関が能力を強化し、役割を拡大する必要がある。彼らが定量的に測定できない要素を把握し、信頼を公平化してくれれば、地域にVC資本の流入が増えるだろう。励みになるのは、アクセラレータはVCより比較的地域偏重が少ないことだ。アクセラレータの34.1%は非首都圏に位置している」と述べた。
STARTUP ALLIANCEチェ・ハンジプセンター長ⓒPlatum
今回のサミットの主催者であるSTARTUP ALLIANCEチェ・ハンジプセンター長は「第2次ベンチャーブーム以降、量的・質的に韓国のスタートアップの地位は高まったが、首都圏と地方がバランスの取れた同時成長は実現できなかった。企業と人口の首都圏偏重が深刻化している。政府と自治体が様々な案を提示しており、大学も力を貸しているが、まだ不足していると評価される」とし、「今回のイベントでは、各地域が描く望ましいエコシステム構想と同時成長案が深く取り上げられた。今後もこのような議論が続くように努力していきたい」と述べた。
講演者発表の他にも、今回のサミットでは地域スタートアップエコシステムから投資をしたり、創業家を育成している民間と公共アクセラレーターの話を聞く席が設けられた。このセッションでは、KRYPTON(クリプトン)ヤン・ギョンジュン代表、忠北創造経済革新センターイ・ギョンソプ地域革新室長、POSCO(ポスコ)ホールディングスベンチャーバレープラットフォームのキム・チョンヒセクションリーダー、UNIST産学協力クォン・スンヨン団長が登壇した。
2つのテーマで激しい討論がおこなわれた。まず、江原道(カンウォンド)創造経済革新センターのイ・ギデセンター長、慶尚南道(キョンサンナムド)庁創業支援イ・ジェフン団長、光州(クァンジュ)創造経済革新センターのハ・サンヨンセンター長がパネルとして「公共の立場から見た地域エコシステムの機会と限界」について討論し、続いてMark&Company(マークアンドカンパニー)チョン・ヒョンジョン審査役の進行で、D・CAMP(ディーキャンプ)キム・ヨンドク代表、韓国技術持株会社協会イ・ジフン事務総長、Korea Startup Forum(コリアスタートアップフォーラム)チェ・ソンジン代表、TERRALIX(テラリクッス)キム・テヨン代表が、民間の視点から見た地域エコシステムの強みと弱みについて議論した。
最後のセッションでは、地域スタートアップのエコシステムが正しい方向に発展するための方法を考えた。PuzzleLab(パズルラボ)のクォン・オサン代表、韓国エネルギー工科大学のキム・グァンヒョン価値創出団長、韓国初期投資機関協会のイ・ヨングァン会長、中小ベンチャー企業部のパク・スンロクデジタル革新課長が講演者として登壇し、地域スタートアップエコシステム活性化のための正しい方向性について議論した。
一方、釜山で開催された地域スタートアップエコシステムサミットは、今年の初開催を皮切りに、地域を変えて毎年開催される予定だ。
<画像=釜山NurimaruAPECハウスで開催された「地域スタートアップエコシステムサミット2023」に参加した講演者と参加者が集合写真を撮っている ⓒPlatum>
原文:https://platum.kr/archives/211212
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