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知っておきたい「NFT」(2/4):関連する様々なイシュー|法律

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NFTに関連する主な懸案(2)

最近、NFT関連産業の領域がゲーム、エンターテインメント、アート作品の取引及びメタバースに広がっています。

例えば、クリスティーズのオークションでデジタルアーティストであるビープル(Beeple)の作品に対するNFTが高額で されたことから、NFTに大衆の関心が向けられるようになり、その後、デジタル著作物だけでなく実物に対する NFTを発行及び取引するケースも増えてきています。

NFTは、その発行と取引が行われる過程で本質的に著作権に関連する様々なイシューが発生し、実際に、NFT とその原本となる著作物に対する権利関係をめぐって発生する問題がマスコミを通じて報じられています。そこで、弊事務所では、2回目となる本ニュースレターを通じて、NFTをめぐる著作権関連のイシューと環境について 取り上げました。特に、NFTの発行過程では、通常、著作物の複製や送信行為が行われるため、このような行為に関する取扱い、NFTの取引が著作物または著作権の譲渡に該当し得るどうか、無権利者が発行したNFTの取扱いなどの事項についても検討してみました。

弊事務所のフィンテック・暗号資産チームでは、最近注目されているNFTに関連する諸般のイシュー及び考慮すべ き事項について4回にわたってご説明いたします。今回の第2編では、NFTに関連する著作権イシューについて概 括的にご説明いたします。

I. はじめに

NFTが注目されるようになった事件として、クリスティーズのオークションで、あるデジタルアーティストの作品に対する NFTが高額で取引された事件があります。ゲームやメディアなど様々な領域でNFTを活用しようという試みが行わ れていますが、現在最も活発に活用されている部分は、デジタル著作物に関連する領域です。すでにデジタルメデ ィアアートを取引するための様々なNFTマーケットプレイスが運営されており、マーケットプレイス上で多くのデジタルメ ディアに対するNFTが実際に取引されています。技術的な面からだけみれば、NFTはブロックチェーン上で動作するスマートコントラクトによって生成される一連のデ ータ単位です。

イーサリアムなど様々なブロックチェーンプラットフォームでは、ブロックチェーン上にNFTを実現するため に必要な機能を標準化して公開していますが、実際にトークン内に置換されるべきデータがどのようなものであるか を制限していません。一般的にはトークン内には、当該NFTの対象となるデジタルメディアのタイトルや生成者・制作者の情報、メディアデータが保存されているURL等といった情報が保存されています¹。

実物またはデジタル著作物に対するNFTが発行され、取引が行われる過程では、様々な著作権法的イシューが 発生する可能性があります。今のところはまだ著作権法においてNFTを別途扱ってはいないため、NFTは従来の 著作権法により規律されると考えられますが、以下では、NFTの発行と取引、さらにNFTの所有者が保有できる 権利の面から簡単にみていきます。

II. NFTのミンティング過程で発生するイシュー

ブロックチェーン上で暗号資産であるコインを新たに発行する作業について採掘(mining、マイニング)という用語を使用するのに対し、NFTをはじめとするトークンを新たに発行する作業については鋳造(minting、ミンティング)という用語が使用されています²。NFTのミンティングは、ブロックチェーンに存在するスマートコントラクトを用いて新しいNFTを作成し、これをブロックチェーンに記録する作業に該当します。

どのようなブロックチェーンでどのような規約に基づくNFTを発行するようにしたかによって、その具体的な動作は異なり得ますが、一般的にはNFTの発行対象となる著作物をデジタル化し、デジタル化された著作物を識別するための識別値を生成したうえで、著作物に対するメタデータを含むトークンを生成し、このトークンが発行されたことをブロックチェーン上に記録する段階を経ることになります。


1.原著作物のデジタル化 

NFTを発行しようとする対象がデジタル著作物ではなく、現実に存在する著作物である場合には、これをデジタル化する作業が先に行われなければなりません³。著作権の実務上では、アナログ形態の著作物をデジタル形態に変換するデジタル化作業は、著作権法上の複製行為に含まれるとみています。したがって、NFTの発行がフェアユースとして許容され得る別途の事情がない限り、原著作物のデジタル化作業のためには原著作権者の許諾が必要です。

また、原著作権者からNFTの発行に対する同意を得たとしても、NFT内に含まれるデジタル著作物の内容が実際の著作物と相違する場合には、同一性保持権、氏名表示権等の著作人格権の侵害が発生する素 地もあります。一方、NFTの発行過程では、NFT内に含まれるメタデータ及びURL等を設定して保存する作業が伴いますが、このようにメタデータとURL等を含めてミンティングされたNFTが二次的著作物に該当するかどうかについての議論もあるものの、メタデータ等を含むことをもって、原著作物を基に変形して新たに創作した著作物(二次的著作物)とみるのは、特別な事情がない限り難しいと思われます。

2.リポジトリへの移動

デジタル化された著作物が利用可能となるためには、ネットワークを通じてアクセス可能な位置に保存されている必要があります。多くのNFTプラットフォームは、Interplanetary File System(IPFS)という名前の分散型ファイル保存プラットフォームを活用してデジタル著作物を保存し、一部のプラットフォームは基盤となるブロックチェーン自体にデジタル化された著作物を保存することもあります。

デジタル化された著作物は、別途の著作物として認められるよりは、原著作物の複製に該当するため、このようにミンティングの過程からデジタル化された著作物がIPFSまたはブロックチェーン等に保存される過程では、原著作物の複製が再び発生するものとみることができます。また、このような複製を進める過程で、デジタル化された著作物がネットワークを通じて送信される過程を経ることになるため、送信権侵害の問題も発生し得ます。したがって、これについても1.でみたように原著作権者の許諾が必要です。

3.単一著作物に対する複数のNFTミンティング 

一つの原著作物に対して一つのデジタル化のみが存在し、これに対していくつかのNFTがミンティングされる状況が考えられます。NFTはそれ自体で「Non-Fungible」であるため、それぞれのNFTは、すべて唯一のものとして相互独立的であり、独自の価値を有します。ただし、原著作権者から一つのNFT発行の許諾を得た者が任意に追加で複数のNFTを発行することは、無権利者によるNFTの発行に該当し、これについては、複製権や送信権侵害等の著作権侵害が成立し得ます。


IV. NFTのライフサイクル及び主体によるイシュー

上述した内容をもとに、NFTのライフサイクルを発行と流通段階に分け、主体別に著作権的イシューについてみていきます。

NFTの発行段階では、次のようなイシューを考慮しなければなりません。

  • 原著作者が直接ブロックチェーン上にNFTのためのスマートコントラクトを実現しない限り、NFT取引所やオークションサイト等を通してすでに実現されているプラットフォームで提供する機能を使用するか、または関連業務を遂行できる第三者に著作物に対するNFT生成業務を委託する形でNFTを発行することになるといえます。したがって、プラットフォームで提供する約款または業務を委託された受託者との契約の内容において、著作物のNFT化の過程で発生し得るイシューを取り扱うための事項、例えば、デジタル化された著作物の複製権限をNFTの発行目的に限定するなどの内容がすべて含まれているかを確認する必要があります。
  • 反対に、受託によりNFTを発行する作業を遂行する者は、NFTを発行する過程において著作権侵害の問題が発生しないよう、事前に利用許諾関係を明確にしておく必要があります。

NFTの流通段階では、次のようなイシューを考慮しなければなりません。

  • NFTを購入しようとする者は、NFT取引所を通じて購入するか、またはNFTを保有している現在の所有者から直接移転してもらうことになるといえます。いずれの場合にしても、当該NFTが適法な権利を有する者によって生成されたものであるかを可能な範囲内で確認する必要があります。NFTは、ブロックチェーン上に生成及びその後の取引内訳がすべて記録されているため、その内容を確認し、最初の生成がNFTの対象となる著作物の原著作者によって生成されたものであるかを確認することができます。
  • また、NFTの購入自体が著作権の譲渡を構成しない場合が発生し得るため、単にNFTだけを購入するのではなく、NFTの対象となる著作物に対する譲渡を含む形態の契約がなされるかについても確認しなければなりません。


V. おわりに

技術的な面でのNFTは、一般的にデジタル化された著作物に関する一連のデータの集合がブロックチェーン上に記録されているものに過ぎず、これを裏付けるための法的・制度的な仕組みはまだ明確には設けられていないため、各行為の法的解釈は不明確といえます。

NFT関連のビジネスを営むにあたっては、法的・制度的な変化とともに、実際のNFTの構造や活用方法、技術的な発展状況を継続的にモニタリングし、変化に対応できるよう準備していくことが必要であるといえます。



¹NFTによっては、トークンの内容に該当するこのようなデータさえも、ブロックチェーンではなく外部のリポジトリに保存し、ブロックチェーン上には当該トークンの ID とトークンの内容が保存された外部のリポジトリにアクセス可能なハイパーリンクのみを保存する場合もあります。

²厳格に法的な定義を持つ訳ではありませんが、通常は特定の暗号資産のためだけに動作するメインネット(mainnet)ブロックチェーンを有する暗号資産をコインと、既存のブロックチェーンが提供する機能を活用して当該ブロックチェーン上で動作するように作成された暗号資産をトークンと呼びます。

³もちろんデジタル化されていない実物に対して NFT を発行することも可能です。ただし、この場合、当該実物と NFT を紐付けることができる追加の仕組みが必要です。以下では、別途の説明がない限り、原著作物のデジタル化が NFT の発行過程に伴うものであることを前提に説明します。


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/media/金・張法律事務所(KIM&CHANG)
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